ここは夢園荘LastStory
BEGINNING
プロローグ
11月。
もうすぐ冬も近いある晴れた日。
駅から兄妹と思われる二人が出てきた。
青年は、年は17、8歳ぐらいでしっかりとした体つきで身長は180cm前後。
顔は二枚目とまでは行かないが、街を歩けばほとんどの女の子達が振り向くであろう。
黒の革ジャンにジーパンというラフな服装、そして腰まで届く髪を襟元で無造作に縛っている。
少女は、年は15歳前後、全体的にほっそりとした感じで身長は150cm前後。
背中の中程まであるストレートのロングヘアをもち、美少女の部類に入るその容姿は、そこにいるだけで十分存在感がある。
ただしスタジャンにマフラー、ミニスカートにソックスとファッションに関してはあまり関心は無いようだ。
「ねぇ、この街も随分変わっちゃったね」
少女は街並みをきょろきょろと眺めながら横に立つ青年に話しかける。
「最後に来てから大分立つからな……」
青年もまた変わってしまった街並みを目を細めてつぶやく。
「人がそこで生活を営む以上、時の移り変わりと共に変化していくのは当然のこと。
とは言え、悲しいものではあるな」
「そうだね。こればっかりはいつまで経っても慣れないね」
「慣れたときが怖いな」
「そうかも」
「それじゃ、用を済ましに行くか」
「うん……って危ない!」
「え?」
青年が少女の方を向いたまま歩き出そうとしたその時、別の方向から走ってくる青年とぶつかりそうになった。
お互い反射神経が良いのか、寸前のところで身を引き衝突は避けられた。
「すみません。大丈夫でしたか?」
走ってきた青年は頭を軽く下げ謝った。
「いえ、こちらこそ。注意力が散漫になっていたもので」
「本当にごめんなさい」
少女も青年と一緒になって謝る。
「いえ、こちらこそ……ってもうこんな時間。先急ぎますから、それじゃ」
駅前の時計を見てそれだけ言うと再び、商店街の方へと走っていった。
その後ろ姿を見て青年は笑みを浮かべる。
「どうしたの?」
「ん? 彼は風に愛されているようだなと思ってな」
「風に……」
少女を目を閉じ肌で風を感じる。
「ホントだ……さっきの人の通った後の風は凄く心地良い」
「まだ、ああいう若者がいるんだな」
「そう言う言い方、おじさんくさいよ」
「いつまで若者じゃないからな」
「私はいつまでも若いままだもん」
「そうだな」
「今、鼻で笑ったでしょ」
「さて、用件を済ましに行くぞ」
「ちょっと誤魔化さないでしょ!」
青年は少女の声に耳を貸さずにさっさと歩いていく。
少女もまた文句を言いながらその後についていった。
街の中心街から離れた住宅地の外れにある小高い山。
そこにある神社−水瀬神社。
二人の目的地はここのようだ。
「ここはあまり変わってないんだね」
「いくらか修復はされているようだな」
少しの間、神社の境内で社を眺めた後、二人はその裏側に周り、林の奥深くへと向かった。
ほとんど人の手が入っていない雑木林。
普通の人ならば足を取られてもおかしくない獣道を二人は普通に歩いていく。
「このあたりってこんなに木が多かったっけ?」
「植林されたというわけでも無さそうだしな。自然に増えたんだろう」
「そっか」
そんな短い会話の間を交わして、再び黙って歩き続ける。
そして二人の目の前に岩の壁が現れた。
その岩の麓には小さな洞窟が口を開けている。
大きさは子供が一人入れるぐらいの本当に小さな穴だ。
「さて」
青年は短くそう言うと右腕を天高くかざした。
「ジルフェ!」
そう叫ぶと、手のひらに光りが集まり、その中から一振りの剣が姿を現す。
青年はその剣を握ると、一瞬にして目の前の岩を両断した。
切断面は精度の高い研磨機で磨いたかのようにつるつるで、太陽の光を反射している。
「さっすが、良い切れ味だね」
「一応、毎日の鍛錬は欠かしてないからな」
「うんうん」
少女を満足そうに頷く。
「早く『あれ』を持ってこい」
「は〜い」
少女は青年に言われると元気に返事をして、両断した岩のほぼ中央まで歩を進めた。
そこには小さな木箱が置いてあった。
少女はそれを確認し、木箱を手に取ると蓋を開けた。
「あ〜〜〜〜〜!!」
「どうした?」
「無いよぉ!」
「え!?」
青年はいそいで少女の元に駆け寄り木箱の中を見る。
そこには少女が言ったとおり何も入っていなかった。
その時、ポーカーフェイスを続けてきた青年の顔に初めて驚きと焦りの色が表れた。
「誰かが……封印を解いたのか」
「悪用されたらどうしよう」
「悪意のある者は決して手に出来ないようしてあるからそれは大丈夫のはずだが……」
「……」
少女は心配そうにじっと青年を見つめる。
「『約束の時』が近いというのに……何としても『煌玉』を探し出すぞ」
「うん」
二人は箱を元に戻すと、その場から姿を消した。
<あとがき>
絵夢「『ここは夢園荘LastStory BEGINNING』……つまり最終章の始まりで〜〜す」
恵理「いきなり、何の前ふりもなく始めるかなぁ」
絵夢「その場の勢いと言うのがもっとうですから(笑)」
恵理「はぁそうですか……サイドストーリーはどうなるの?」
絵夢「あっちはあっちでそのまま継続だよ。最初はSSの最終回で使おうと思ってたんだけど、書きたくなったときにそれだと不便だから分けたの」
恵理「一応、向こうは向こうで考えてあるんだ」
絵夢「そのとおり!」
恵理「このプロローグで出てきた二人組って何者?」
絵夢「それは今後のお楽しみにってことで内緒」
恵理「それはそっか……それにしても私出番ないの? 夏樹さんは出番会ったみたいだけど」
絵夢「分からなかった人の為に説明します。駅前で青年とぶつかった人は早瀬夏樹です」
恵理「いいなぁ……ヒロインなのに出番無し……」
絵夢「次回は恵理がメインだからだいじょ〜〜ぶ」
恵理「ホント!」
絵夢「ほんと。そうじゃないと話し進まないもん」
恵理「やったぁぁ!」
絵夢「そう言うわけでいきなり始まった『BEGINNING』ですがどうぞよろしく」
恵理「では皆さん次回まで」
絵夢&恵理「お楽しみに〜」