NOVEL



ここは夢園荘LastStory
BEGINNING

第1話


”カランカラン”
喫茶ノルンの入り口のカウベルが鳴り、青年−早瀬夏樹が駆け込んできた。
走って来たようだが息は全然乱れていない。
店内では数人の客がそれぞれ自分の時間を過ごしていた。
「夏樹さん、遅い」
その中でカウンターのいつもの席でオレンジジュースを飲んでいた高校生−樋山恵理が、夏樹に口をとがらせて文句を言った。
「ごめんごめん。出かけに親父から電話があってさ」
「お義父様?」
恵理は不思議そうに首を傾げる。
「ああ、たいした用事じゃ無かったけどな」
「ふ〜ん、そう言うことなら仕方ないね」
「だろ」
「ところで夏樹さん、窓から見えたけど誰かとぶつかりそうになったでしょ」
「さっき?」
「そう。ここから見えるからね」
「見えるって……」
夏樹はノルンの広い窓から駅の方を見た。
しかし距離がありすぎて、ここから人の顔の判別は出来ない。
さらに商店街の入り口にあるとは言え、建物影などで半分近く視界をふさがれている。
「よく見えたな……」
「目は両目とも2.5だから」
「それでも限度が……」
夏樹は恵理の知られざる能力(?)にちょっと驚きの色を見せる。
「夏樹は1.0だっけ? 俺も2.5だけど……見えないな」
カウンターの中からこの喫茶店のマスター鷹代高志が声をかける。
「私も見えないよ」
さらに従業員兼高志の押し掛け女房の水瀬卯月も続く。
そんな3人に恵理は……。
「やっぱりこれは愛の差でしょう」
と照れながら答えた。
「「はいはい」」
「はは……(^^;」
そんな恵理に呆れる二人と曖昧な笑いをする一人であった。
それから30分ほどノルンでくつろぐと、夏樹は時計を見て席を立った。
「そろそろ行くか?」
「うん」
そして恵理も一緒に席を立つ。
夏樹がレジで支払いをしている間、卯月が恵理に話しかける。
「今日はデート?」
「そんなところ」
「いいなぁ」
「鷹代さんに連れて行って貰えば?」
「そうなんだけど、お店があるから」
「そっか、大変だね」
「でも好きだから……」
卯月は少し照れながら答えた。
「はは……(^^;」
どうやら今度は恵理が呆れる番のようだ。
「それじゃ、タカ、卯月、またな」
「鷹代さん、卯月、またね〜」
二人は高志と卯月に簡単に挨拶すると、彼らもまた二人に手を振って答えた。

二人は隣町の墓地に来た。
「せっかくの日曜日なのにごめんね」
「デートで墓参りと言うのも珍しいと思うが……だけど……」
「だけど?」
「誰の墓参り? 冬佳……じゃないよな」
「冬佳さんって……違いますよ。でもなんで……?」
「いや、あいつの墓ってあそこだから」
夏樹はそう言いながら霊園の入り口から右手奥の方にあるお墓を指さした。
「あら……こんな偶然ってあるんだ……」
恵理は少し驚いた表情をした。
だからあの時、ここにいたんだ
「何か言った?」
「何でもないです。今日一緒に来てもらったのは私の両親に夏樹さんのことを報告したくて」
「恵理の両親もここで眠ってるんだ」
「はい。こっちです」
恵理は夏樹と一緒に冬佳の墓のとは反対側の左手の奥の方へと歩き始めた。

「ここです」
二人は大きな木の下にある墓の前に立つ。
「同じ霊園にあるなんて思いもよらなかったな……」
「そうだね」
夏樹は恵理の両親の墓前に膝をおろすと手を合わせた。
「はじめまして、早瀬夏樹です。
恵理は俺が幸せにするので、ここから見守っていてください」
「夏樹さん……ありがとう……」
恵理は夏樹の言葉に嬉し涙を零しそうになった。
「お父さん、お母さん。私、夏樹さんと幸せになるからね」
「そうだな。がんばろうな」
「うん」
恵理は満面の笑みで答えた。
そして、二人は冬佳の墓参りをすませ、近くの喫茶店に入った。
窓側の席に座ると夏樹はコーヒー、恵理はオレンジジュースを頼んだ。
「今月末にまた来るから冬佳の墓参りはその時で良かったんだけどな」
「もう、そう言う問題じゃないと思うんだけど」
「それに冬佳はそこにいるし」
夏樹は恵理に左手薬指の指輪を指す。
「それはそうだけど、これは気分の問題だよ。」
「そうか?」
「そうだよ」
二人は顔を見合わせるとプッと噴き出す。
「でもまぁ、こんな日がずっと続くと良いな」
夏樹は窓の外に見える景色を眺めながらつぶやいた。
「そうだね」
そして恵理もそれに同調するが、彼女は真剣な目で窓の外を見る夏樹の横顔を見つめる。
その視線に気づいた夏樹は視線を恵理に戻した。
「どうした?」
「私の話、聞いて欲しいの」
「改まってどうしたんだ?」
「うん……。
どうしても夏樹さんに聞いてもらいたいの。
私の……昔の私のことを……」
恵理はかすかに震える手を隠しながら、じっと夏樹の目を見つめていた。



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<あとがき>
恵理「今回は短いね」
絵夢「このまま話を続けるとまた中途半端な長さになるか、ここ夢の最終回並になるかどっちかしかないから、きりがいいところでうち切りました」
恵理「あはは、確かに普段の3倍強だったからね」
絵夢「そうなんだよね(^^;」
恵理「でもこれからってところで……」
絵夢「それはそれ、次回への引きと言うことでね」
恵理「なんだかなぁ」

絵夢「そう言うわけで」
恵理「また次回も」
絵夢&恵理「お楽しみに〜」