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ここは夢園荘AfterStory
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第二十一話 <四神将 III>


「こいつら、なにふらふらしてるんだ」
上空から睦月とまなみを乗せた黒いワゴン車を見下ろしながら夏樹がつぶやく。
車は橋を渡った後、そのまま山の方へ行くかと思われたが、途中で曲がり西高の方へと向かい始めた。
だが、またすぐに曲がり今度は川の上流へ向かい、また曲がり山の方へと、上から見たら迷っているようにしか見えなかった。
そうこうしていると、コンビニの駐車場に車を止めた。
「……馬鹿か」
後を追ってくる者がいないと思いこんでいる余裕からか、どちらにしても彼らの行動に夏樹はただただ呆れるばかりだった。
そして数分後、再び車に乗り込みまっすぐ山の方へと走り始めた。


後を追う高志達は信号渋滞に捕まっていた。
ちなみに彼らは恵理から『犯人グループ』が西高の方に向かっていると聞き、先回りしようと上流に向かわずに、下流の橋を渡ろうとしていた。
だが、結果的に時間の掛かるルートを選んだことになっていた。
「あ〜また動き始めちゃった」
その後部座席で夏樹の動きをトレースしている恵理が悔しそうに言う。
夏樹の目を通して『犯人グループ』の黒いワゴン車が移動を始めたことを見ていた。
「もう少し待っててくれても良いのに」
「全く右折信号ぐらい付けろよ!」
恵理の言葉に澪も高志も苛つきを隠せないでいた。
今、彼らがいる道路は片道一車線の上、信号の所に右折レーンが無かった。
そう言う状況にもかかわらず、この道路は抜け道としても使われる道路でもあるため交通量は比較的多い。
結果、時間によってはこの通り渋滞になってしまう。
「やっぱり先回りなんて考えないで、そのまま追っていった方が良かったかもな」
「あたしも大分後悔してるよ」
「しっかしさ、豪徳寺さんもおとなしく後ろに付いてないでサイレンならせばいいのにな」
「誰が道案内するの?」
「あ〜なるほどな」
二人が気晴らしに話していると、恵理が口を開いた。
「山越えの道を行くみたい」
その言葉を聞いた二人は怒りを露わにする。
「結局そっちか!」
「なんかむかつく〜〜〜! Uターンするよ!!」
「「えっ? え〜〜〜〜〜!!!」」
澪は前後の隙間と対向車を確認すると、アクセルをふかしハンドルを切りUターンする。
詳しい描写は避けるが、この瞬間高志と恵理は右からの横Gで窓ガラスに押しつけられる感覚だったと言う……。

「ここは右折信号並びにレーンを設置するべきだなってあいつら!」
高志達の四台後ろで同じように苛つく豪徳寺はぼそっとつぶやくと、突然Uターンし対向車線を走り去る高志達に驚き、彼はとっさにサイレンを鳴らし、苦労してUターンして高志達の後を追う。
サイレンはUターンしたあと、高志達に追いついたあたりで再び消した。


『犯人グループ』の黒いワゴン車は住宅地を抜け、山越えの道路に入った。
山を切り開いて作った道路の為、両側は崖崩れ防止のコンクリの壁や部分的に岩肌がむき出しになっている。
「ここを抜ければもうすぐだ」
運転手の男の言葉に他の4人も嬉々として喜ぶ。
むしろこの後に訪れる楽しみに想像をふくらましていると言った方が正解だろう。
その時、助手席の男が遠目のライトに照らし出された前方に道の真ん中に立つ青年を見つけた。
「おい、あれ!」
「一人轢くのも二人轢くのも変わらねぇよ。親父が全部もみ消してくれる」
運転手の男はそのままアクセルを踏む。
青年は自動車をまっすぐに見据えると右腕を前に出した
そして右手とワゴン車が接触しようとした瞬間、まるで急ブレーキでも掛かったかのようにその動きを止めた。
だがアクセルを開けっ放しのためタイヤは回転を続け、当たりにゴムの焦げたような匂いが漂い始めている。
「片腕で馬鹿な!! いったい、どうなってるんだ!?」
本当なら青年を跳ね飛ばしているはずなのに、片腕で自動車を止めている。
そんな信じられない光景に男達は焦った。

「全く、ブレーキかけるかと思えばアクセルを踏むとはな」
片腕で黒いワゴン車を止めた青年−夏樹は口の端をゆがめ言う。
彼は山道に入った所で先行し、自分の前に風壁を作り待ち伏せていた。
風壁は空気を圧縮して作った壁故、目で確認することは難しい。特にこんな夜道で見分けることは不可能だろう。
そしてワゴン車の動きを止めたのはこの風壁に当たったからだ。
その時夏樹が右腕を前に出したのは、片腕で車を止めたかのように錯覚させる心理的効果を狙ったものに過ぎない。
「二人を返してもらう……

風烈破!!!

夏樹の声に呼応して風壁として圧縮された空気を前方へ……風壁によってその動きを止めているワゴン車に向け一気に放出した。
ワゴン車はその爆発的な風の力で吹き飛ばされ、むき出しになった岩肌にぶつかりそのまま逆さまの状態で道路に落ちた。
「あ………やりすぎたか」
目の前の状況に夏樹は背中に冷たい汗を感じた。
「まぁ、二人は風結界で守ってるから大丈夫……だよな?」
夏樹はゆっくりとワゴン車に近づく。 そして後部の扉を吹き飛ばし中を見ると二人は何も無かったかのように眠っていた。
犯人の五人は大怪我をしているようだが……。
そのまま二人を外に風の力で運び出すと、少し離れた場所に下ろし結界を解く。
そして二人の前に膝をつくと、頬に手を当て無事を確認した。
「良かった……薬で眠らされてるだけみたいだな……」
夏樹が安堵の息を吐くと、ワゴン車の方から「てめぇ〜」と言う声が聞こえてきた。
その声に夏樹は立ち上がり、そちらを見る。
鉄パイプを持った三人の男がいた。
その真ん中には運転をしていたリーダー格の男がいる。
三人とも頭から血を流していた。
そして残り二人はワゴン車の中で気を失っているようだ。
夏樹は薄く笑うと、今立っている場所から瞬時に右側の男の前まで移動し、その鳩尾に掌を当て内部に気をたたき込み、そのまま倒れようとしたところを腹部に蹴りを入れコンクリの壁に叩き付けた。
残る二人はその状況に目の前で何が起きたか分からなかった。
「次はどっちだ?」
夏樹の言葉にハッと我に返ると二人は持っている鉄パイプで一斉に殴りかかる。
だが次の瞬間そこに夏樹の姿はなく鉄パイプは空を切り地面を殴った。
「「っ!?」」
実際は目にも止まらぬ早さで移動しただけなのだが、そのことだけでも彼らにとって驚愕に値することだろう。
「こっちだよ」
二人の背後から声がした。
慌てて振り向くとそこに夏樹の姿があった。
夏樹はゆっくりと左腕を男達に向け伸ばした。
すると突然、左側の男が吹き飛ばされコンクリの壁に激突、そのまま意識を失った。
「な、な……」
残されたリーダー格の男は慌てた。
夏樹はゆっくりと残された男に近づく。
男は自棄とばかりに鉄パイプを振り回し夏樹に殴りかかる。
だが夏樹は左右から来る鉄パイプを簡単に避け左手で掴むと右手で殴り飛ばした。
そして男の手から離れた鉄パイプを捨てると、数メートル先でうつぶせで倒れる男に近づき、その横腹に蹴りを入れた。
「ぐはっ!」
男は蹴られた横腹を押さえ転がる。
その時、2台の自動車のライトが彼らを照らし出した。
自動車は彼らの前で止まると、中から高志と澪が降りる。
そして遅れて豪徳寺も降りてきた。
「「夏樹!」」
「早瀬!」
「良いタイミング……かな? しかし豪徳寺さんまで一緒とはね」
二人の姿に先ほどまでの冷たい表情が一気に和らぎ、豪徳寺の姿に思わず苦笑まで漏れた。
「二人は?」
澪が真っ先に夏樹に言う。
「無事だよ。あそこで眠ってる」
夏樹が指差す方向で、二人は寄り添うように眠っていた。
その姿に三人はホッと息を吐く。
「んじゃ豪徳寺さん、こいつらを頼む」
「ああ、分かった」
豪徳寺は5人が逃げないようにワゴン車の中にあったガムテープなどで拘束し始めた。

夏樹は高志と澪と共に睦月とまなみの元へと向かう。
「大丈夫なのか?」
高志が心配そうに聞く。
「薬で眠らされてるだけだからな。強制的に覚醒させよう」
「夏樹、それはちょっと……」
澪がやや呆れた声で言うが、その時には彼は両手をそれぞれの胸の上に置き、気を送り込んだ。
すると二人の身体が一瞬ビクッとするとうっすらと目を開けた。
「あれ?」
「ここは……」
高志と澪はやや寝ぼけ眼の二人の様子に安堵するも、『風の石』無しにこういう事もできる夏樹に驚く。
「お前って……なんでも出来るんだな」
「あたしはもう何も言わない」
そんな二人の言葉に夏樹は苦笑を漏らした。
「早瀬、ちょっと良いか?」
拘束し終えたらしい豪徳寺が夏樹を呼ぶ。
夏樹はやれやれと言った様子で彼の元に向かう。
そして4人もまたその後に付いていった。
「お前、どうやってここまで来た? なんで横転してるんだ?」
「車を止めようと前に出たらハンドルを切り損ねて勝手に横転した。俺がここに来た方法は文字通り空を飛んできた」
「………と言うことにしとくか。お前らが関わるとこんなのばかりだからな」
豪徳寺は溜め息をつくとそう言う。
つき合いが長いだけによく分かっているようだ。
恐らく報告書には『偶然そこにいた彼を避けようとして横転』となることだろう。
「あ、そうだ。二人は病院だな?」
夏樹は思い出したように携帯を取り出しながら高志にそう言う。
「亜沙美が付いて行ったみたいだな」
ここに彼女がいないことから夏樹はそう推測した。
「いや、聖だ」
「………え?」
夏樹は思いがけない人物の名前に一瞬止まる。
「なんでここに聖が出てくるんだ?」
「ノルンの前ですれ違ったこと、気づいてなかったのか?」
「……ま、いいか」
夏樹はそう言い残すと彼らから少し離れ聖に電話をした。
「夏樹らしいというかなんというか……」
電話をする夏樹の後ろ姿を見ながら澪がつぶやく。
「あの、二人が病院ってどういう事ですか?」
睦月が高志と澪に聞く。
まなみも睦月の後ろで二人の言葉を待っていた。
高志と澪はどう説明しようかと顔を見合わせる。
「実は……」
そして高志が説明しようとしたとき、拘束されているリーダーの男が笑い出した。
その笑い声に一斉にそちらを向く。
「教えてやろうか。お前らを乗せた後、髪の短い奴が車を止めようと前に出るから轢いてやったんだよ。ホント馬鹿な奴だよ」
「髪の短いって……あっちゃん?」
リーダーの男の言葉にまなみが小さくつぶやく。
「椿さん、全部あんたのせいだからな。あんたが俺達を振るからこんな事になったんだからな。今頃あいつ死んでるかもな。あははは、ざまぁみろぉ」
その言葉にまなみの顔は青ざめる。
「まなみ?」
睦月が慌ててまなみに声をかけるが、「私が……」と何度も小声で繰り返すばかりだった。
「あんたらぁ」
殴りかかろうとする澪だったが、その動きを高志が止めた。
「タカ、離してよ!!」
「お前は二人を……まなみちゃんを頼む」
「え……うん」
澪はしぶしぶ返事をするとまなみの元に寄り声をかける。
高志はそれを確認するとまっすぐ男達に近づいた。
「鷹代!」
豪徳寺が高志を止めようとするが、彼が男達の横にあるむき出しになった岩の前に立ったことで彼が何をしようとしているか理解した。
そして高志は豪徳寺の予想通り無言で拳を振り上げむき出しになっている岩を殴り粉々に破壊する。
そして拳を引き、冷たい視線で男達を見下ろした。
「こうなりたい奴は誰だ?」
男達は言葉を失い、ただただ恐怖した。
何人かは股間を濡らしているようだ。
「だ、だけど、俺にこんな真似して、た、ただですむと思ってるのか?」
怯えながらもリーダーの男が言う。
「お、俺の親父が、だ、だれだか、わかってるのか。河原源五郎だぞ!」
「河原? 豪徳寺さん、河原って確か……」
「夕方、逮捕されたな」
「な!? 嘘だ!!」
どうやら彼はその事実を知らなかったようだ。
「ニュースぐらい見た方が良いな。お前の親父さんは汚職で逮捕されたよ」
豪徳寺ははっきりとした口調で言う。
「しかし、さっきの口振りだと親父さんの権力で今まで何度ももみ消してきたようだな」
「………」
豪徳寺の言葉にリーダーの男は観念したのか俯く。

「澪、二人をすぐに病院に!」
突然、夏樹の声がその場に響いた。
「夏樹、どういう事?」
青ざめるまなみを睦月となだめていた澪が夏樹に聞く。
夏樹は一瞬言葉を詰まらせるが簡潔に「歩君が危ない」と答えた。
彼の言葉にまなみはさらに顔を青くし体を震わせる。
まなみの様子に夏樹はここで言うべきでは無かったのかもしれないと思いながらも顔に出さずに豪徳寺を見る。
「豪徳寺さん、すまないけど事情聴取は明日以降にしてほしい」
「だったら俺が送っていこう」
「でも、あいつらは……」
「心配無用」
そう言うとパトカーのサイレンの音が近づいてきていることに気づいた
「いつの間に……」
「俺を侮るな」
「それでは、お願いします」
「おお、任せておけ」
豪徳寺は先に睦月とまなみを自分の自動車の後部座席に乗せると、後から到着した警官達に説明、五人を警察署まで連行させた。
それを見送った後、夏樹達から病院を確認すると豪徳寺はサイレンを鳴らしながら出発した。

その場に残された三人も病院に向かう為に澪の車に乗り込んだ。
「あれ?」
「やっほ〜夏樹さ〜ん」
夏樹が後部座席に乗ろうとすると、そこには恵理がジッと座って待っていた。
「タカ〜澪〜」
夏樹は軽く二人を睨んだ。
「いや、だって」
「あははは……」
「……全く」
軽く溜め息をつくと恵理の隣に座った。
「二人のナビしてたの?」
「うん。だって私しか分からないでしょ」
「ま、それもそうか。で、子供達は?」
「亜沙美さんと……卯月がみてくれてる……かな?」
「そっか」
「そろそろ出発していいかな?」
運転席に座る澪が後部の二人に声をかける。
「俺達に確認するよりも急いだ方が良いと思うけど……」
「確かに」
夏樹の言葉に助手席に高志が同意する。
「タカ……あとで覚えておくように」
「……(汗」



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<あとがき>
絵夢「先に言い訳……自分でも何を書いてるのか分からなくなりました(^^;;;」
恵理「なに、それ?」
絵夢「なんかね、書きたいことが多すぎて途中から整理できなくなってしまったの」
恵理「……無理するから」
絵夢「いや、そう言うつもりは無かったんだけどね」
恵理「ははは……」

恵理「で、あと何回ぐらい?」
絵夢「ん〜次である程度ケリがつくはずだから……」
恵理「まだ悩んでるの?」
絵夢「うん」
恵理「マスター頑張れ!」
絵夢「うん、なんとか頑張ってみましょう。と言うわけで次回<インターバル V>をよろしく〜」
恵理「ではでは」
絵夢&恵理「まったね〜」