ここは夢園荘AfterStory
Fragment Age
第十六話 <睦月 IV>
初秋。
少しだけ涼しい季節。
でも日中は残暑の名残か半袖でも十分な程暖かい。
そんな10月のとある日曜日の正午過ぎ。
私とまなみはバイトに行こうと部屋を出て、階段をおりようとした時、まなみが2階の踊り場でぱ立ち止まった。
「睦月お姉ちゃん、ごめん。忘れ物思い出したから先に行ってて」
「うん、分かった。下で待ってるね」
「うん、ありがとう」
まなみは駆け足で自分の部屋に戻っていった。
私は門の所で待とうと1階に降りるとそこで、長身で長髪の男−高原しんが何かの用紙を見ながらきざに決めていた。
「ふ、さすがは私だ。これほどの結果を出すとは天は我に二物も三物もあたえ……」
私は片方の靴を脱ぐと顔目掛け投げつけた。
”ぱっこ〜〜〜ん!!”
「あう!」
靴は吸い込まれるように顔に当たり、しんはそのまま倒れた。
「ナイスコントロール!」
「ううう……酷いですよぉ」
しんは少し赤くなっている鼻のあたりをさすりながら私を見る。
「いい加減そのしゃべり方は止めなって言ってるでしょ」
「仕方なかろう。これはくせなのだから……」
”ぱっこ〜〜〜ん!!”
「あう!!」
「だから止めろって言ってるでしょ」
もう片方の靴を投げつける。
「睦月お姉ちゃん、過激だね」
ちょうどその時、後ろからまなみが声をかけてきた。
「あ、見てたの?」
まずいところを見られたな……。
「うん、見てた」
「ま、いいか。しん、靴持ってきて」
「え、なんで……」
「文句ある?」
「いえ……」
しんは反論しようとしたが、私の冷たい視線に素直に従った。
うん、言い心がけだね。
「しんさんも大変だね」
「はは……」
乾いた笑い声を出しながらしんは私の前に靴を並べて置く。
「ところでしん、そろそろ模試の結果が出る頃じゃないの?」
私はは靴を履きながらしんがさっき見ていた用紙のことを思い出した。
たぶん、さっきしんが見ていたあれは予備校の模試の結果用紙だと思う。
「これですよ」
しんは左手に持った用紙を私に渡した。
見るとなかなかの点数……志望校の合格判定もA……これってもしかしなくても私より頭良い?
私、ぎりぎりまでBだったからな……。
でもどうして私がしんの結果を気にするかというと、先月の終わりから勉強を見てやっているからなの。
このことは他のみんなは知らない事……だって知られて変な噂が立ったら嫌だもん。
まだ見始めて半月程度だけどやっぱり気になるんだよね。
「ふ〜ん、しんさんって頭良いんだ」
まなみが横からのぞき込みながら言う。
「ふ、当然ではない……」
”バキ!!”
思わずげんこつで殴る。
「睦月さ〜ん、酷いですよ〜」
涙目で訴えるが無視。
「その話し方を止めればいいだけのこと」
「これは癖というもので……」
「なんか言った?」
「いえ……」
「しんさん、やっぱり大変だね」
「ははは……」
まなみの同情の言葉に再び乾いた笑い声をだした。
「そうだ、ねぇしん」
私はふと思い出したようにしんを呼ぶ。
「なんですか?」
「7時にバイト上がるから迎えに来てよ」
「え?」
「嫌なの? こんな可愛い女の子二人が暗い帰り道で襲われたりしたらどうするの」
「でも普段はそんなこと全然……」
こいつ……どうも迎えに来たく無い様子。
「日曜日の夜の駅前ってどういう様子か知ってる?」
私の言葉にしんは納得したようだ。
日曜の夜の駅前は何故か人が少ない。
飲屋街が休みと言うのも影響していると思うけど、あの人気のなさは極端だよね。
路地裏に入らなければ良いだけなんだけど、それでも用心にこしたこと無い。
「わかりました。では7時に迎えに行きます」
「うん、よろしく」
私はしんにそう言うと、まなみと共に駅前のバイト先に行くために近くのバス停に向かった。
ちなみに私達のバイト先って駅を挟んでノルンと反対側にあるケーキショップ『アクア』と言うお店なの。
しかもそこの制服が少しメイド風で可愛くてお気に入りなの。
それでちょっと小耳に挟んだことなんだけどその制服をデザインしたのが夏樹お兄ちゃんらしいんだけど本当かな?
バス停に着くとまなみは私達が歩いてきた方をじっと見た。
「どうしたの?」
「ん……誰かに見られていたような気が……」
「気のせいじゃないの?」
「それなら良いんだけど、前にもあったから」
「ふ〜ん……どこ?」
私はまなみの視線の先を見るが、ネコが道を歩いている姿しか見えなかった。
「えっと、もういないみたい」
「そう……ストーカーかな?」
「そうかも知れないね」
「その割りにずいぶんと落ち着いてない。前にもあったんでしょ?」
なんとなく人ごとのようなまなみに口調に少し強めに聞いた。
「気を付けているから大丈夫だよ。あ、バス来たよ」
「まなみぃ」
私達はそのままバスに乗り込み、最後部のシートに座った。
そしてバスが動き始めるとまなみが話しかけてきた。
「お姉ちゃんってしんさんに厳しいよね」
「そうかな?」
「さっきの様子見てたら……ねぇ」
「う〜〜ん……あの話し方を聞いてるとなんか不愉快になるから……」
「確かにあれはナルっぽいけど、それにしても……あぁ、そういうことか」
まなみはポンと手を叩いた。
「何? 何一人で納得してるの?」
「小さい子が好きな子をいじめるのと同じなんだ」
「なっ何でそう言う結論に達するの!?」
私は思わず大声で叫んだ。
「お姉ちゃん、声大きすぎ。それに顔も赤いよ」
まなみの言葉に私は周囲を見回し、再びまなみを見る。
「誰も乗ってないから良いの。それに赤いわけ無いでしょ!」
「しんさんに勉強を教えていても?」
「え?」
その言葉に私の時間が止まった。
なんで知ってるの????
そんな私をジッと見つめるまなみは軽く溜め息をついた。
「みんな知ってるよ。しんさんがお姉ちゃんの部屋に入っていくところとか、お姉ちゃんがしんさんの部屋に入っていくところとかみんな見てるし」
「いや、それは、だからしんに頼まれて……」
「それに呼び方だっていつのまにか呼び捨てだし」
「だからこれは……」
まなみは鋭いところをついてくる。
なんか泣きたくなってきた。
「あと……」
「だから本当に関係ないんだって、ただ単に勉強を見てるだけなんだから」
「ふ〜ん」
まなみは疑いの眼差しを向けるがすぐに普通に戻った。
「そう言う事にしておくね」
「そう言う事って……ところでまなみだって歩君とはどうなの?」
私は仕返しとばかりに話を振った。
「あっちゃん? 友達におもちゃにされてる」
「おもちゃって……」
「なんて言うか押しに弱いんだよね」
「それでまなみはどう思ってるの?」
「従弟」
「そうじゃなくてさ。好きとか嫌いとかそう言うの」
まなみは少し考えて、軽く肩をすくめながら「さぁ?」と答えた。
淡々とした物言いと無表情とは言わないけどあまり感情を出さないその表情にはっきり言ってまなみの真意は分からない。
小さい時はもっと素直だったのに……。
「結局のところ、『良いお友達』ってところ?」
「たぶん、そうかな?」
「はぁ……」
思わず深い溜め息をついた。
<あとがき>
絵夢「今回の話は前回の話が9月中旬でしたが10月中旬まで飛ばしました」
恵理「いきなり飛ばすね」
絵夢「この空白1ヶ月間に何があったか……何もありません」
恵理「おい」
絵夢「あえて言うなら睦月としんの関係が少しだけ進展して女王様と下僕になったぐらいかな?」
恵理「それ、本人達が聞いたら気を悪くするよ(汗」
絵夢「まぁそれはそれ(笑)」
恵理「いい加減だなぁ」
絵夢「そんなわけで次回の主人公は澪ちゃんです」
恵理「澪さんとは珍しいですね」
絵夢「ついでに亜沙美も登場予定」
恵理「そこまで言っちゃって良いの?」
絵夢「うん、良いの。ここで出てもらわないと話が進まないから」
恵理「なるほど……(^^;」
絵夢「そう言うわけで次回も」
恵理「お楽しみに〜」
絵夢&恵理「まったね〜」