NOVEL



ここは夢園荘AfterStory
Fragment Age

第十七話 <澪>


10月、残暑が過ぎてもなお日中は暖かいそんな季節。
でも日はだんだん短くなってきている。
確実に季節は冬に向かっているんだなぁと感じるそんなある日曜日の夕方。
あたしは助手席に亜沙美を乗せ、ノルンに向かっていた。
そして空が暗くなりはじめた頃、駅前商店街に一番近い駐車場に車を止める。
「澪、もしもの時は責任取ってよね」
「分かったから、早くノルンに行こう」
「うん……」
亜沙美はあたしに促されるまま車から降り、一緒にノルンへと向かった。

午前中からあたしはコンピュータに強い亜沙美を連れ出してあちらこちらを飛び回っていた。
正しくは亜沙美がこっちに戻ってきたからずっと何だけど、その甲斐あって今から1時間前に目的を達して一安心してるところ。
それは何かって? 
それはすぐに分かるよ。
「……澪、誰と話してるの?」
「え? 気のせいだよ」
「そう?」
「うん」
「…………」


”カランカラン”
いつものカウベルの音。
「「いらっしゃい(ませ)」」
そしてタカと卯月のハモリ。
「やっぱりノルンはこのアットホームな感じがいいよねぇ」
思わず声に出てしまう。
あたし、少し浮かれ気味?
「澪……お前、何か悪い物でも食べたのか?」
カウンター席でいつものようにコーヒーを飲んでいる夏樹が不思議そうな目であたしを見る。
夏樹だけじゃなくその隣の恵理ちゃんはもちろん、タカや卯月までもが不思議そうな目で見ている。
あっちゃ〜失敗したかな?
「私はいつも通りだよ」
浮かれすぎたのを反省して真顔で答える。
「それよりも澪、早く入ってくれないと私入れないんだけど」
あたしの後ろにいる亜沙美が呆れた口調で言う。
そういえば入り口に立ち止まったままだったんだっけ。
「ごめんごめん」
あたしは亜沙美に謝ると、中に入り夏樹達の後ろのテーブル席に座った。
亜沙美は「まったく」と言った表情で軽く溜め息をつくと、あたしの向かいに座る。
「二人ともいつもので良いな」
カウンターからタカが声をかける。
「良いよぉ」
「お願い」
その返事にタカは私の紅茶と亜沙美のカフェオレを作り、それを卯月が持ってきてくれた。
「亜沙美、こいつどうしたんだ?」
夏樹が振り向いて亜沙美に聞く。
直接あたしに聞けばいいのにぃ。
「一仕事終わったから浮かれてるだけ」
「その様子だと亜沙美も巻き込まれたな」
「まっね」
亜沙美は短く肯定する。
「亜沙美、機嫌悪くした?」
あたしの言葉に亜沙美は軽く首を振り「そんなことないよ」と言う。
「ただねぇ、浮かれすぎ」
「ぐさ」
「だから呆れてるだけ」
「あははは〜……それよかタカ、テレビ付けてよ」
あたしは会話が妙な方に行かないようにするためにタカに頼んだ。
「テレビだなんてどうしたんだ?」
「良いから付けてよ。ニュースやってるでしょ」
「まぁこの時間ならな」
とタカは時計を一瞥するとカップ棚の脇に置いてあるリモコンを取って、天井近くに設置してあるテレビのスイッチを入れる。
ほとんど使ってないオブジェと化したテレビだけどちゃんと映った。
「ニュースがどうかしたのか?」
夏樹がもっともな疑問を投げかける。
「良いから見ててよ」
「ん」
あたしの言葉に夏樹は軽く肩をすくめると画面の方を見る。
画面にはアナウンサーが中継でしゃべっていてその隅には『河原代議士緊急逮捕』のテロップが映し出されていた。
あたしは思わずガッツポーズを取る。
亜沙美もホッとしている。
「河原……って確か黒い噂が流れてたあれだろ。逮捕されたんだ」
夏樹がさも面白く無さそうに言う。
「黒い噂って?」
タカが夏樹に聞く。
それに卯月と恵理ちゃんも興味深そうに耳を傾けている。
「汚職贈賄に始まって、脱税やら横領やらいろいろ。でも疑惑だけで決定的な証拠が無かったから罪に問われることも無かったんだけど……って新聞ぐらい見てないのか?」
「いや〜見てることは見てるんだけど政治面は……」
「高志さんって社会面とかスポーツ面しか見ない人だから」
「私も政治面は見てないかも」
「……まったく」
「「「あはははは」」」
夏樹はやや呆れた様子。
「それでこのことと二人がどう関係あるんだ?」
「実はね特捜に情報流したの私達なの」
あたしの言葉に沈黙が流れ、そして4人が一斉に驚きの声を上げる。
「なにそれ!?」
……あ、夏樹が珍しく慌ててる。これは貴重な光景だね。
「そのまんまだよ。亜沙美に手伝ってもらってあいつの事務所のパソコンにハッキングして情報を引っ張り出したの」
「そのおかげで最近寝不足だよ」
「まぁまぁ。ホント感謝してるんだから」
「この貸しは大きいからね」
「了解……ってみんなどうしたの?」
私達の会話を4人は呆然と見ている。
「無茶するなと思ってな」
「普通やらないな」
「大丈夫なんですか?」
「澪さんと亜沙美さんってすごい」
上から夏樹、タカ、卯月、恵理の言葉。
「匿名で流してるし大丈夫だよ」
「私は自信がどこから来るのかが知りたい……」
「亜沙美は気にしすぎ」
「はいはい」
「なぁ澪……どうしてやったのかその理由ぐらい聞かせてくれるよな」
夏樹が真面目な顔で聞く。
相変わらず立ち直りが早いな。
「簡単に言えば旦那の手伝いかな?」
「「「「はぁ?」」」」
「あれ? あたしの旦那、特捜だって知らなかった?」
4人は互いに顔を見合わせて頷く。
「まぁ、そう言うことなんだ。ここ数ヶ月残業で泊まり込みも多くて、その姿を見てたらちょっと助けたくなってね」
「それで亜沙美を巻き込んで……」
「そうなの、こっちに戻ってきて早々にこういう事やらせるんだもん」
「「お疲れさまです」」
卯月と恵理ちゃんが亜沙美にカフェオレのお代わりを持ってきながらそう言った。
「恵理ちゃん、卯月、ありがと」
「あたしには?」
すると夏樹とタカが……。
「お疲れ」
「ご苦労」
「う……それだけ?」
「「当然」」
「二人とも意地悪〜」
少しすねるあたしに全員が噴き出し笑う。
そんな夏樹達に文句を言ったけど、結局一緒になって笑い出してしまった。
やっぱりここは居心地がいいんだよね。
ひとしきり笑うと、夏樹が私の方を見る。
「しかし、お前の旦那ってすごいかもな」
「え、そうかな?」
「だって親が族とレディースで嫁が水の神将。そんな中で特捜やってるんだからな」
「それ、余り関係ないと思うけど……」
「私もそれは常々思ってるの」
「亜沙美までそんなこと言うのぉ」
「ふくれるなって」
「まったく……あ、そういえば卯月、さっき一緒に驚いてたけど、うちの旦那の仕事のこと雄三君から聞いてなかったの?」
このまま行くとだんだん不利になっていくような気がしたから話の方向を微妙に変えてみた。
それに卯月まで驚いていたのは少し疑問だったしね。
「お義兄さんとは結婚式以来会っていないんです。だから話したこともほとんど無くて……」
「葉月とは?」
「良く会ってますよ」
「………つまり実家にはほとんど戻ってないと」
「そうなりますね」
卯月はニコリと微笑みながら言う。
「タカ……たまには孫の顔を見せに行ってやりなよ」
「と言ってもなぁ」
「ええ」
顔を見合わせて頷く。
この夫婦は……(-_-;
「孫で思い出したけど、あんた達の子供達は? 今日はやけに静かだけど」
「そういえば全然顔を出さないね。奥にはいるんでしょ?」
今まで黙っていた亜沙美も疑問を口にする。
「いるよ。二人が来る前にご飯を食べさせて……何してるんだろな?」
タカの無責任発言。
「テレビか本だと思うよ」
卯月の無責任発言その2。
「何かあれば冬佳が飛び出してくるでしょ」
恵理ちゃんの無責任発言その3。
「そういうわけだな」
夏樹の締めの無責任発言。
「あんた達、それでも親?」
「「「「当然((です))」」」」
胸を張って言う4人に呆れてしまう。
「まだ小さいんだからそこまで放任するというのは……ちょっとね」
亜沙美も呆れているみたい。
でもこれは当然の反応。
「なんか呼んだ?」
奥の扉から冬佳ちゃんが顔を出す。
「何でもないよ」
恵理ちゃんがそう答えると、少し「う〜ん」と小首を傾げた。
「つぎ、冬佳のばんだよぉ」
奥の方から別の声。
「うん、分かった」
その声に冬佳ちゃんはあたし達に小さく手を振るとドアを閉めて行ってしまった。
「ね、心配ないでしょ」
冬佳ちゃんを見送ったあと恵理ちゃんが自信満々に言う。
「はぁ……」
私と亜沙美は思わず感心してしまった。

それからしばらく談笑していた時、突然夏樹が厳しい表情で立ち上がった。
「夏樹さん?」
隣の恵理が心配そうに名前を呼ぶ。
だけど、夏樹の耳にはその声は届いてない様子で、外へと駆けだしていった。
「俺達も行ってみよう。卯月、店の方は頼む」
「うん」
卯月の返事を聞くやいなやタカも夏樹の後を追った。
そして訳も分からないまま、あたしと亜沙美もその後を追うことにした。



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<あとがき>
絵夢「時間的に見ると前回の続きです」
恵理「確かにこれだけ見ると繋がりって分からないもんね」
絵夢「そう言うことだね」

恵理「でも4人が揃うのって久しぶりのような気がする」
絵夢「FAでは初めてだからね。折角亜沙美が復帰したんだから揃わなきゃ嘘でしょ」
恵理「なるほど」
絵夢「それにコンピュータ系が得意なのが亜沙美しかいないんだし」
恵理「ハッキングでしょ。どこでそんな技術を身につけたの?」
絵夢「それは会社に勤めていた時に色々と……ねえ(笑)」
恵理「ねぇって……(-_-;」

恵理「今回、澪さんの旦那さんの職業が判明したね」
絵夢「あれは驚かない方が嘘だろうね」
恵理「うん、だれも予想してないと思う」
絵夢「そりゃそうでしょ」
恵理「ってそんなに自信満々に言われても(汗」
絵夢「ふふふふふふ」
恵理「……」

恵理「こういう終わり方してるんだけど、次回はどうなるの?」
絵夢「今回の続き……というよりも少しだけ時間を戻すかな、1時間ぐらい。主人公変わるし」
恵理「今度は誰?」
絵夢「予定ではしん」
恵理「おお」
絵夢「でも状況で変わるかも」
恵理「相変わらずだね」
絵夢「まぁね(^^)」

絵夢「であまた次回まで」
恵理「お楽しみに〜」
絵夢&恵理「まったね〜」