NOVEL



ここは夢園荘AfterStory
Fragment Age

第十三話 <葉月>


私−水瀬葉月は4歳になる女の子3人と一緒に夢園荘へ向かっていた。
ショートヘアでワンピースを着たややおとなしい印象の楓ちゃんは私の右手を握っている。
ポニーテールで男の子のような服を着た活発な印象の冬佳ちゃんは私達の数歩先を歩いている。
そして背中の中程まで髪を伸ばしてブラウスにスカートとごく普通の和沙ちゃんは左手を握っている。
それぞれの性格が良く出てるかも。
楓ちゃんと冬佳ちゃんは夏樹さんと恵理さんの子供で、楓ちゃんは恵理さんに、冬佳ちゃんは夏樹さんによく似ていると思う。
そして和沙ちゃんは高志さんと私の妹の卯月の子供で、こちらは少しだけ高志さんに似てるかなぁって感じ。
でも卯月の小さい時にも良く似てるのよね。

どうして私がこの3人と一緒かと言うと、3人は良く神社まで遊びに来るの。
夢園荘はすぐ側だからと言っても4歳のこの娘達にはちょっと距離があるかなと思ってはいるんだけどね。
でもそれはこの娘達に失礼かな?
それで時間がある時は一緒に遊んだりしてて、今日は恵理さんに用事があったので一緒に帰ることにしたの。

「ねぇ早くぅ」
先を行く冬佳ちゃんが私達をせかすように言う。
「冬佳ちゃん、あまりはしゃぎすぎると危ないよ」
「そうだよぉ冬佳ぁ」
「葉月おねえちゃんの言うとおりだよ」
私に続いて手を繋いでいる楓ちゃんと和沙ちゃんが真似て冬佳ちゃんを注意する。
すると冬佳ちゃんは足を止めこちらを振り向くと「だいじょ〜ぶ〜!」と胸を反らして自信満々に言った。
その様が何か可愛くて思わずくすくすと笑ってしまった。
すると冬佳ちゃんがむっとした顔をする。
「葉月お姉ちゃん、どうして笑うの?」
「え、っと冬佳ちゃんがすごく可愛く見えたからよ」
「可愛い?」
「ええ、可愛いわよ」
冬佳ちゃんちょっと照れ笑いをした。
「「ねぇねぇ私達は?」」
それを見ていた楓と和沙が握る手を前後に振りながら聞いてくる。
「もちろんあなた達も可愛いわよ」
「「わ〜〜い」」
嬉しそうに喜ぶ二人。
なんかこの娘達を見ていると私も早く子供が欲しいなぁと改めて思う。


夢園荘と同じ敷地内に建つ2階建ての一軒家の呼び鈴を鳴らす。
すると中から「は〜い」と言う若い声と共に中学生ぐらいにしか見えない女の子がドアを開けた。
彼女が楓ちゃんと冬佳ちゃんの母親の早瀬恵理(23歳)。
夏樹さんも32歳だけど大学生か高校生ぐらいに見えるし、ある意味すごい夫婦だと思ってしまう。
「「「お母さん(おばちゃん)ただいま〜」」」
「お帰り。葉月さん、わざわざ送って頂いてありがとうございます」」
「良いんですよ。私も恵理さんに用事がありますから」
「私に?」
「ハイ」
笑顔で答える私に恵理さんは小首を傾げた。

恵理さんは3人を二階の子供部屋に行かせると、リビングへ通してくれた。
座って待っていると、台所の方からお茶とお茶菓子を用意して戻ってくる。
そしてテーブルにそれらを並べて、お茶を私に差し出す。
私は湯飲みに入った緑茶を一口飲む。
「美味しいですね」
「この間、お義父さんが静岡に行ったお土産と言うことで送ってくれたんです」
「静岡産ですか……でも、確かご両親は海外では?」
「そうなんですけど、時々日本に戻ってきているみたいなんです」
「でもこちらには寄られないと……」
「通り道のような気がするんですけど、なぜか」
恵理さんは苦笑を浮かべる。
「ご両親もお忙しいと言うことではないでしょうか」
「たぶんそうなんでしょうけど……でも半年ぐらい前に伊勢に行ったみたいなんですが、その時ですら寄らなかったんですよ」
「それは確かに帰り道ですね(^^;」
「それでそのことを夏樹さんに話したら『用事が無いと来ない人達だからな』って半ば呆れた口調でそう言ってました」
「夏樹さんも諦めてるんですね」
「そうみたいです」
恵理さんは軽く溜め息をついた。
なんか大変そう……。
そう思っていると恵理さんは私の湯飲みが空になっていることに気づき淹れ直してくれた。
その様子に本当に良い奥さんをしていると思う。
「ところで私に用事と言うのはあの娘達のことですか?」
「ええ、そうです」
自分の湯飲みにもお茶を淹れると座り直す。
「それだったら大丈夫ですよ。睦月ちゃんもまなみちゃんもしっかりやってますから」
「それなら良いのですが……」
「睦月ちゃん、最近しん君と仲が良いみたいですよ」
「しん君と言うと……最近入居した男の子ですよね」
「ええ。しん君の目指す大学が睦月ちゃんが通っている大学らしくて」
「ああ、それで……。それでは睦月も念願の彼氏が出来たと言うわけですね」
「そこまではちょっと分かりませんね。見た感じ、弟みたいに扱ってますけど」
「ふふふふ……あの娘らしいかも。それでまなみはどうですか? 歩君が来て何か変わりましたか?」
「まなみちゃんは相変わらずですね」
恵理さんは難しい顔をして答える。
「そうですか……」
「正直言うと、まなみちゃんがここに来たあの日、雰囲気がすごく変わっていてビックリしたんです」
「ええ……。私も聞いた話なんですがまなみちゃんのお母さんが再婚なされてから変わったようなんです」
「そうなんですか……」
私達の間に沈黙が流れる。
「あ、でも歩君が来たからそれで何か変わるかも知れませんし」
恵理さんは努めて明るく言う。
「そうですね。良い方向に行くと良いですよね」
「そうですよ、きっと大丈夫ですよ」
「ええ」
私達は笑みを零した。


帰りの道中、私はずっとまなみのことを考えていた。
急にああなってしまったわけではなく、徐々に変化していったと言うこと。
最初に違和感を感じたのはまなみが母親の雪子さんを『お母さん』と呼べるようになってしばらく経ってからだった。
でもその時は成長するに伴って性格的に落ち着いてきた程度にしか思わなかった。
だけど雪子さんの再婚を機に自分のことですら他人事のように捉える傾向が出てきた。
でもそのことを本人に聞くことは出来ないし、雪子さんも原因が分からないと言う。
「まなみ……」
境内への階段の途中でふと足を止め、夢園荘の方を見てそうつぶやいた。
「そういえばあの娘……」

  『目標?』
  『将来の目標は何?』
  『特に無いかな……』
  『え?』
  『自分でもどうして良いのか分からないの……自分のことわからないから……』

「……あの時、寂しそうな顔してた」
私はまなみと交わした会話を思い出し、目を伏せた。
「まなみはまだ夢や目標がまだ持てないのかも知れない」
唇を少し噛むと顔を上げ再び夢園荘の方を見た。
「歩君……まなみをお願いね」
あの娘の為にどうすればいいのか分からない私は従弟の歩君に託すしかない……そう思った。
……ううん、違う……思うしか無いんだ……。



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<あとがき>
絵夢「ひさびさの葉月です」
恵理「なんか重いね……」
絵夢「やっぱりまなみの変わり方が気になって仕方ない様子」
恵理「FAのまなみちゃんってなんか別人だもんね」
絵夢「空白の期間にまなみに何があったのか、こうご期待」
恵理「期待して良いの?」
絵夢「だめ」
恵理「お〜い」

絵夢「さて、そろそろあの人に登場を願おうかなと思ってます」
恵理「あの人って?」
絵夢「あの人です」
恵理「え〜っと……ああ、あの人ね」
絵夢「そう、そのあの人」
恵理「ついに出すんだ、あの人を」
絵夢「うん、あの人を出す予定だよ」
恵理「たのしみだね」
絵夢「……誰だか分かってるの?」
恵理「……ごめんなさい」

絵夢「というわけでまた次回まで」
恵理「お楽しみに〜」
絵夢&恵理「まったね〜」