NOVEL



ここは夢園荘AfterStory
Fragment Age

第十四話 <インターバル III>


”カランカラン”
入り口のカウベルがノルン店内に響くと同時に、恵理が子供達3人と一緒に入ってきた。
「「いらっしゃ〜い」」
4人を見てカウンターの中にいる高志と通路側にいる卯月は声を揃えいつものように言う。
「こんにちわ〜」
「「こんにちわ〜」」
「ただいま〜」
「お帰り、和沙」
卯月はしゃがんで目の高さを合わせて言った。
「うん、ただいま〜」
「「おばちゃん、こんにちわ」」
「楓ちゃん、冬佳ちゃん、こんにちわ。3人とも奥で遊んでてね」
「「「は〜〜い」」」
卯月の言葉に3人とも元気に返事をすると店内奥ドアから住居の方へ入っていった。
恵理はいつものカウンター席に座りながらその様子を眺める。
「恵理、いつもありがとうね」
「いいのいいの。買い物ついでだしね」
「ふふ」
「あは」
「恵理ちゃん、いつもので良い?」
「うん!」
高志は恵理の返事を聞くと、オレンジを幾つか取り出しジューサーに掛ける。
そして氷を入れたグラスに注ぐと恵理の前に置く。
果汁100%オレンジジュース。
以前はオレンジジュースなら出来合いのものでも良かったのだが、高志がふと思い付いて試しに出してからと言うもの恵理が飲むオレンジジュースはこれに決まった。
そしてこれを切っ掛けにいろんな生ジュースを作り店に出すようになった。
実際、メニューには載ってないのだが口コミで広がり隠れた人気メニューになっている。
「んぐんぐんぐ……」
「恵理って本当に美味しそうに飲むよね」
「だって美味しいんだもん。卯月も飲む?」
「私はいいわ」
卯月が肩をすくめながら言うと高志が口を挟む。
「卯月は生ジュースは駄目だからな」
「果物は食べられるのにね」
「何となくね」
本当に苦手らしい。


「やぁっと着いたぁ」
2歳ぐらいの女の子の手を引いた女性が駅から出てきた。
親子のようだ。
年の頃は25、6ぐらいに見え、ショートヘアで白系のノースリープで膝丈ぐらいのワンピースを着ていてハンドバックを娘と反対側の手に持っている。
そして娘の方はストレートのロングヘアでおそろいのワンピースに小さなクマの形をしたリュックを背負っている。
ちょっとこの街に遊びに来たと言う感じだ。
「ママぁのどかわいたぁ」
女の子は舌足らずな口調でせがむ。
「それじゃ、ママの知ってるお店に行こうか」
「うん!」
母親は娘の手を引き、商店街の方へ向かった。

親子はノルンの前に立った。
「全然変わって無いなぁ……って3年じゃ変わらないか」
「ママ、はやくはいろうよぉ」
「はいはい」
娘にせがまれるように母親はノルンのドアを開け中に入った。


”カランカラン”
カウベルの後に高志は入り口の方を向いた。
「いらっしゃ〜……って亜沙美!」
「「亜沙美さん!?」」
高志の言葉に談笑していた恵理と卯月が一斉に振り向く。
「お久しぶり〜」
亜沙美は嬉しそうに挨拶する。
「来るなら来るって連絡くれれば良いのに」
カウンター席に娘と座る亜沙美に高志は笑いながら文句を言う。
「え〜こっちに戻るって澪に連絡したよ」
「いつかまでは聞いてない」
「いや〜それは失敬」
「ママぁ」
亜沙美の腕を掴みながら娘が何か言おうとしている。
「あ、ごめんね。タカ、何か冷たいのをお願い」
「おけ」
高志は先ほどと同じように果物を取り出すとジューサーに掛ける。
「へぇ生ジュースなんてやるようになったんだ」
「まぁね」
卯月は水を運んでくると亜沙美と娘の前に置くと、そのまま女の子の目線にあわせた。
「お名前は何て言うの?」
「はらさきなつみ」
「いくつ?」
「にしゃい」
小さな指を三本立てながら言う。
「ちゃんと言えるんだ偉いね」
「へへへ」
卯月は夏美の頭を撫でてあげると夏美も嬉しそうに目を細めた。
「ハイ、夏美ちゃん」
高志が夏美の前にストローを刺したジュースを置くと、両手で挟むようにしっかりと固定してストローに口を付ける。
「美味しい?」
「うん、おいしい〜」
高志の質問にストローから口を離し笑顔で答えるとまたストローに吸い付いた。
「夏美ちゃんって言うんだ」
その様子を亜沙美を挟んだ反対側から見ていた恵理が言う。
「もしかして名前って……」
「旦那と一緒に付けたんだから……否定はしないけどね」
「ま、良いですけどね」
恵理と亜沙美はフフフと笑いあう。
そんな二人の様子に高志と卯月は首を傾げる
そして夏美はジュースに夢中の様子だ。

「お母さ〜〜ん」
店の奥から冬佳が恵理を呼びながら寄ってきた。
「どうしたの、冬佳?」
恵理は立ち上がると冬佳の視線に合わせて座る。
「ばんそうこ」
「絆創膏? どこか怪我でもしたの」
「楓がかみでゆび切ったの」
「楓は?」
「切ったゆびを口に入れて笑ってる。和沙はしんぱいしてるけど」
「救急箱持ってこようか?」
二人の会話を聞いていた卯月が心配そうに言う。
「ん、大丈夫だよ」
そう言うと、恵理はポケットから絆創膏を取り出し冬佳に渡す。
「ありがとう」
冬佳は絆創膏を受け取った時、恵理の後ろで卯月の隣にいる女性が目に入った。
「あ………………………………亜沙美……おばちゃん?」
「あれ、私のこと知ってるの?」
冬佳に名前を呼ばれたことに驚く亜沙美は聞き返した。
「亜沙美さんには会ってますよ。たぶん1歳ぐらいの時に」
恵理が答える。
「それって……」
「冬佳はすごく記憶力が良いんですよ。ね〜」
「うん!」
冬佳はニコニコ笑いながら答えた。
「あ、そうだ。冬佳、夏美ちゃんも一緒に遊んであげて」
「なつみちゃん?」
「亜沙美さんの向こうにいるでしょ」
突然名前を呼ばれた夏美はきょとんとこちらを見ている。
「うん、いいよぉ」
冬佳は夏美に近づくと手を差し出した。
「わたし、冬佳。よろしくね。夏美ちゃん一緒にあそぼ」
夏美はどうすればいいのか分からず亜沙美を見た。
「夏美、せっかくだから一緒に遊んできたら」
亜沙美の言葉に夏美は頷くと冬佳の手を取る。
「じゃ、行こう!」
「うん」
冬佳は夏美の手を引いて奥の部屋へと入っていった。
それを見送った恵理はふうと軽く息を吐き立ち上がる。
「卯月、買い物に行きたいからしばらく頼める?」
「いいけど、いくつか頼みたい物があるから一緒にお願いできる」
「オッケ」
返事を聞くと卯月はメモ用紙に買い物メモを書き始める。
それを見ていた亜沙美は口を開く。
「だったら卯月も行って来たらどう?」
「でもお店が……」
「1時間も2時間も行く訳じゃないでしょ。卯月が出てる間私がやるから」
「良いんですか?」
「問題なし。良いよね、タカ」
カウンターの中で成り行きを見ていたタカに聞く。
「そうだな。恵理ちゃんと行っておまけをたくさんしてもらってきたら良いかもな」
「おまけって、高志さんはぁ」
卯月は苦笑を漏らす。
「んじゃ、卯月行こ」
「あ、うん。それでは亜沙美さん、よろしくお願いします」
「了解」
そして恵理と卯月は仲良く買い物に出かけていった。
二人を見送ったあと、高志は改めて亜沙美を見る。
「さてと亜沙美、二人がいると困るような事でもあるのか?」
「やっぱりお見通しか」
「当然だろ」
そう言いながら亜沙美に紅茶を出す。
今まで出さなかったのはただ単に忘れていたようだ。
「ありがと」
そう言って一口飲むとカップを置き、子供達が遊んでいる部屋へと続く扉を見てから高志を見た。
「冬佳ちゃんのこと、タカはどう思ってるの?」
「どうと言われてもな……」
「1歳になるかならないかの時に会ったような人を覚えてる事自体変だよ。それにあの娘、私の名前を出すの一瞬ためらったよ」
「気のせいじゃないのか?」
「ついでに言うなら敬称も迷ったのかも知れない。知らないことにも出来たはずなのに……」
「…………」
「もしかして冬佳ちゃんって……」
「亜沙美!」
「!?」
「お前がどう思ってるかは知らない。だけどあの娘は夏樹と恵理ちゃんの娘だ」
一瞬見せた高志の鋭い眼光に亜沙美は息をのんだ。
「……ごめん」
「いやいい……夏樹も恵理ちゃんも違和感を感じてるはずだよ。でもそんな些細な問題はどうでもいいみたいだよ。結局あの二人にとって大切な子供なんだよ」
「そうか……」
高志の言葉に亜沙美は納得したのか穏やかな笑みを浮かべた。
「そういえば双子だったよね」
「ああ、楓ちゃんのことか」
「うん、楓ちゃんも記憶力は良いの?」
「いや、向こうはうちの和沙同様に普通だと思うぞ」
「そっか……ねぇタカ」
亜沙美は何か思い付いたのか身を乗り出すようにタカを呼ぶ。
「ん?」
「夏樹って子供達の前だとどんな感じ?」
「どんなって……子煩悩な感じかな」
「マジ?」
「マジ」
「うわ、見てみたい」
「それよりも恵理ちゃんが子供達と夏樹を取り合ってる方が面白いぞ」
「え、なにそれ」
「実はさ……」
高志と亜沙美は早瀬家を話のネタに盛り上がった。

「今日ね、葉月さんが送ってきてくれたんだよ」
商店街を歩きながら恵理が昼間の葉月が来た時のことを卯月に話した。
「やっぱりまなみのこと……」
「うん、葉月さんもまなみちゃんのこと心配してるみたい」
「それは私も同じかな。何と言っても私達姉妹にとって一番末の妹だからね」
「そうだよね……」
「でもあの娘達、水瀬神社まで遊びに行ってるの? 3人だけで?」
「うん、よく行くよ」
「裏手とは言え危なくない?」
「冬佳がいるから大丈夫でしょ。あの娘しっかりしてるから」
「それはそうかも知れないけどね……」
そこまでいた時、卯月は足を止め恵理を呼び止めた。
「ねぇ恵理」
「なに?」
「ん〜冬佳ちゃんのことなんだけど……」
「冬佳のこと?」
恵理は小首を傾げ聞き返す。
「うん。さっきの見て思ったんだけど、記憶力が良いってだけじゃない気がするの。何て言うか……」
「卯月、あの娘は私達の子供で楓の双子の妹だよ」
恵理は優しい微笑みを浮かべる。
「恵理……ごめん、今言ったこと忘れて」
「うん。買い物を早く終わらせちゃお」
「うん」
この後、二人は行く先々で『おまけ』をしてもらい、ノルンに戻る頃には両手に抱えきれないほどの荷物になった。






















所変わってH.I.B本社ビル6階エレベータホール近く休憩所。
夏樹がコーヒーを片手に天井を見ていた。
「……………出番がない」
そこへ聖が休憩の為にきた。
「夏樹さん、どうしたんですか? 出番がどうのって」
「ん〜独り言だ」
「はぁ……」
首を傾げる聖をよそに夏樹はやっぱり天井を見上げていた。



→ NEXT


<あとがき>
絵夢「さ〜てと今回は……」

?「風烈波!!!」

絵夢「ぐはぁぁ」(ばたり)
恵理「マスター!! ああ、白目剥いてる!!」
夏樹「こら、起きろ!! 俺は主人公のはずじゃないのかぁ!!」
恵理「あ、あの今動かすのは……」
夏樹「案内の樋山さん、ども」
恵理「……ども(汗」
夏樹「そんなことよりも、起きろぉぉ!!」
恵理「だから頭打ってますし今動かすのは駄目ですって」
夏樹「ん〜〜〜〜〜〜〜仕方ない。目が覚めたら俺の出番を増やせと伝えておいてくれ」
恵理「は、はい……」
夏樹「じゃあな」

恵理「……もう行ったかな……マスター大丈夫?」
絵夢「(白目剥いてます)」
恵理「しばらく駄目みたい……では皆さん、また次回までお楽しみに〜」