NOVEL



ここは夢園荘AfterStory
Fragment Age

第二話 <由恵>


私−榊由恵は今、窮地に立たされてた。
17歳から6年間ずっと住み続けてきた夢園荘303号室から立ち退かなければいけなくなったのだ。
それは夕方のことだった……。


就職説明会から帰ってくると部屋の前で、恵理と夢園荘の2階に住む4人が何か話し込んでいた。
「みんな、こんなところでどうしたの?」
私が声をかけると一斉に真剣な顔をしてこちらを向いた。
そして一番手前にいる恵理が口を開く。
「あ、由恵」
「どうしたの、みんな?」
「実はね……」
恵理は事情を説明してくれた。
それを聞いた私は……。

「え〜〜〜〜〜〜〜!!」

私の声に、みんなが耳を塞ぐ。
「由恵、声大きすぎ」
「声の大きさからして素質があるかも……」
「まだなんか響いてる感じです」
「耳が痛い……」
口々に非難される私。
約一名、みなもがよく分からないことを言っているけど……。
だけどそんな大声を出したつもりは無いのに(涙)
「う……ごめん……じゃなくて、なんでなの。ここって……」
「今まで、たまたまそうだっただけみたいだよ。現に夏樹さんが管理人をする前はいたみたいだし……考えてみたら特に反対する理由が無いんだよね」
「そ、そうなの……でもさぁ、他のみんなはどうなの?」
私は恵理から空達に視線を移した。
「私も反対する理由は無いよ」と空。
「バイト先の常連さんになってくれたらラッキ〜」とみなも。(←本当に謎のセリフだわ)
「不安だけど歓迎」と睦月。
「成り行き任せ」とまなみ。
みんな異口同音に賛成しているみたい。
ここで私が反対したら、俗に言う四面楚歌?
「そんなこと俗に言わなくて良いから、率直な事聞かせて欲しいの」
「あのね恵理、この状況で私一人反対するわけに行かないでしょ」
「それなら由恵もオッケって事ね」
「はいはい」
私は肩をすくめながら答えた。
その答えを聞いて、恵理は嬉しそうな顔をする。
昔からそうだけど、本当に分かり易い娘だわ。
「それでお願いがあるんだけど」
「何?」
「実は部屋を移って欲しいの」

「え〜〜〜〜〜〜〜!!」

私はこの日二度目の大きな驚きの声を出すことになった。
「由恵、うるさいよぉ」
「なんでそう言う事になるわけ? 4階だってあるでしょ」
「4階はしっかりと4部屋開いてるじゃない!」
「そうなんだけど……401と402は空の仕事部屋になってるし、403と404は備品の倉庫になってるの」
「備品倉庫は良いとして……空!」
「え、何?」
いきなり呼ばれた空はビックリして振り向いた。
「あんた、なんで二部屋も占拠してるのよ」
「え、だって自分の部屋だと試作で作った服を置いておくのも狭いし、それを夏樹さんと恵理に相談したらいいよって……ねぇ」
「ねぇってそこで私を見ないでよ」
「あんた達ねぇ……」
互いに乾いた笑いを浮かべる二人に私は溜め息をついた。
「結局のところ4階は駄目って事ね」
「その通り!」
私は納得したように見えたのか嬉しそうに恵理は答える。
「でも、それで何で私が動かないといけないわけ?」
「それは、出来れば二人を隣どおしにしておきたいから」
「だったら301と302でいいんじゃないの?」
「それ以上に301は私が住んでたところだから、できれば……ね」
「『ね』ってあんたねぇ」
呆れる私に恵理は上目遣いで目を潤ませお願いのポーズで迫ってきた。
「うるうるうる〜〜〜」
「え、恵理……」
「お願い、301に移って」
「だから……」
「私の我が儘だってわかってるの。でもねでもね」
「あの……ね……」
「ちゃんと引っ越しも手伝うから」
私は恵理の後ろにいる4人に救いを求めようと思い、そちらを見た。
だけど彼女たちは無言の笑顔で『今、ここで断ったらあとで大変だよ〜』と言っているように見えた。
はっきり言って怖い。
「…………わかった」
私は今日何度目かの溜め息をつくとそう言った。
「ありがとう、由恵〜!」
すると恵理はそう言いながら嬉しそうに抱き付いてきた。
「ちょ、ちょっと恵理!」
すぐに抱き付く恵理を引き離した。
「う〜〜〜」
引き離された事に不満を抱いたのか唸っているが気にしないことにする。
「あんた、結婚してからも全然変わらないよね」
「? 私は私だよ」
恵理は私の言ってることがよく分からないと言った表情で言う。
「ま、いいわ。それで引っ越しはいつまでにすればいいの?」
「んっと、今月中に完了すればいいよ」
「今月中ということはあと1週間ちょいか……」
「いまさらこんなこと言うのも変だけど大丈夫?」
「大丈夫だと思うよ。どうせ今月はもうやること無いし、良い暇つぶしだと思ってやるから」
「そう、ありがとう。重い荷物があったら言って、手伝うから」
「うん、その時はちゃ〜んと みんな に手伝ってもらうから」
私はわざと強調するよう言い、4人を見た。
すると4人は誤魔化すよう視線を逸らす。
「さてと、私は4階で試作の続きをしなきゃ」と空は階段で上へ行く。
「そろそろバイトの時間だから行ってくるね」とみなもは下に降りていった。
そして残された二人−睦月とまなみは「えっとえっと」と言いながらおろおろとしていた。
良い逃げ口上が思い浮かばないらしい。
その様子に私と恵理は思わず噴き出した。
「由恵、あまりあの娘達をいじめちゃ駄目だよ」
「そんなつもりはないんだけどなぁ」
突然笑い出した私達に二人は顔を見合わせきょとんとしていた。
「あ、あの……」
睦月がおずおずと口を開く。
「ごめんごめん。でもまぁ空達を見習うとやばいけどもう少し臨機応変に動けると良いかもね」
「「はぁ……」」
よく分からないと言った返事。
「由恵……」
「ん?」
「この子達、少し混乱してる」
「そうだね」
その時、私はふと腕時計に目をやった。
時計は17時を過ぎている。
「恵理、もうこんな時間だけど良いの?」
「え? 大変!! 私、行くから後よろしくね」
そう言い残し家の方へを駆けていった。
「了解……転ばないように……」
『ね』と言おうとしたとき、階段から落ちる音、そして『いた〜い』と言う恵理の声が聞こえた。
なんてお約束な事をしてくれる娘なんだろう……。
「ま、いいか」
私は天井を見上げながらつぶやき、部屋に入ろうと階段の方から振り向いた。
するとそこにはどうして良いのか途方に暮れている睦月とまなみがいた。
「二人とも、もう良いんだよ」
そう言われてハッとした二人。
「あ、そうですね」
「それではこれで……」
いそいそと行こうとする二人の後ろ姿を見て私はふと思い付いた。
「二人ともちょっと待って」
「「はい」」
呼び止められた二人は同じタイミングで振り返り口を揃えて言う。
その様子が少しおかしくて噴き出しそうになったが、それを堪えて思い付いたことを言った。
「なんだったら、一緒に夕ご飯食べる?」
「え?」
「でも……」
「あなた達の事何も知らないからいろいろと話がしたいの。同じ夢園荘に住む仲間なんだしね。まぁあなた達が良ければ話だけど……」
その言葉に二人は顔を見合わせて数秒間のアイコンタクト。
そこにどんな会話があるのかは私には分からないけどお互い頷き、再び私の方を向いた
「「はい!」」
「ふふ……」
私は笑みを零すと、彼女たちも笑う。
「それじゃ、どこか食べに行こうか」
「「は〜〜い」」
その返事に頷くと睦月とまなみと一緒に夕飯を食べに外に出かけた。










レストランで二人から聞いた私の印象は近づきにくい人だったらしい。
そんな風に言われて私は少なからずショックを受けた。
第一、そんな風に言われたの初めてだよ〜(涙)



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<あとがき>
恵理「1stシリーズでは影が限りなく薄い由恵ですね〜」
絵夢「それ、禁句だから」
恵理「あ、そうなの?」
絵夢「うん」
恵理「それじゃ、唯菜は?」
絵夢「もう夢園荘にはいないよ」
恵理「美亜と里亜にしてもそうだけど、登場してない人たちどこいちゃったの?」
絵夢「それについてはおいおい」
恵理「おいおいですか」
絵夢「おいおいです」
恵理「おいおい」
絵夢「…………」
恵理「…………」
絵夢「であ次回まで」
恵理「お楽しみに〜」
絵夢&恵理「まったね〜」



絵夢「ん〜キレが悪いな」
恵理「ノリも悪いね」