NOVEL



ファンタシースターオンライン
『MEMORIES』

第9話 『もう……もう良いから……』−ナツキ−


私がそこに着いたとき、エアはベンチに、そしてカエデは黒いヒューキャストのセイバーに貫かれていた。
「カエデ!!」
私の声にそのヒューキャストは私の方を見た。
見覚えのあるヒューキャスト、そして胸に3本の傷。
(やっぱり、あんただったのね……私、冷静でいられるかな……)
私は心の中でそう思っていた。
「ようやく会えたな」
彼はそう言うとセイバーをカエデの身体から抜くと、彼女をエアの元へと運び並べて置く。
そして少し離れた場所にある柵の所へと歩いていった。
私はホバーバイクを二人の側に止めると、後ろに乗っていたソラと共に二人を見る。
「レスタ!」
ソラはすぐにレスタをかけ二人への応急処置をする。
「大丈夫?」
「たぶん……見たところエアはスターアトマイザーか何かで出血が止めたみたい。カエデは機能を強制終了しただけみたいよ」
「そう……ソラ、あとをお願いね」
「ナツキさん!」
「大丈夫だよ」
私はそうソラに微笑むとまっすぐあいつを見る。
あいつも私をジッと見る。
私はゆっくりと彼に近づいていった。
心配だったソラは二人の側から離れていないのでその辺は安心できる。
そして彼の間合いのぎりぎり外で歩みを止めた。
「あんたの望み通り、私は最高に怒っているよ……」
「それは光栄だな。さぁ剣を抜け!」
彼は鎌を構える。
だけど私はそれを無視して淡々と感情を殺して言葉を続ける。
「でもそれ以上に私は悲しいよ」
「それがどうした」
彼はジリジリと近づいてくる。
でも私は剣を抜くことはしなかった。
「貴様、怖じ気づいたか! それでも『蒼空無心流』の使い手か!!」
「どうして……」
「てやぁぁぁぁぁ!!」
彼はしびれを斬らしたかのように鎌を振り上げ攻撃してくる。
私は攻撃軌道を読み、ジャンプすると前転宙返りの要領で彼の右肩に手をついて後ろの柵の上に着地する。
「このぉぉ!!」
彼は振り向き様に鎌を振る。
でも私は今度はバク宙で彼の上を飛び越え背後に着地した。
その彼の戦闘スタイルが何も変わっていないことが私をより悲しくさせる。
「どうして誓いを破ったの?」
「なに!」
彼は私の言葉に振り向き様に睨んだ。
そんな彼を見ている内に次第に感情を抑えることが出来なくなってきていることに気づく。
でも今は押さえないといけない。
「あんたがその胸の傷に立てた誓いをどうして破ったの?」
「なっ!?」
「教えて『黒狼』……いえ、リューク・セフィーロ」
「貴様……な、何故俺の名を知っている!」
私の言葉に彼……リュークは驚きの声を上げる。
「知っているよ……私はあんたのことをずっと前から知ってる」
もう限界かも知れない……。
「10年前にハルカに助けられる前から……15年前にマスターにこの身体を貰いナツキ・スライダーと名乗る前から……私がまだヒューマンだったときから……」
「ヒューマンだと?」
「まだ分からないの……あんたの名前を知っている人は3人しかいないでしょ。一人はあんた、一人はハルカ……そして後一人は……」
「まさか、お前は……」
「そう、私がカナタ・トラッシュだよ、リューク」





17年前……。
「カナタの勝ち〜〜〜!」
「やっりぃ!」
「しかも今回で100連勝!」
「まじ?」
「まじ!」
「やったぁぁ! カナタちゃん偉い!」
ハルカの勝利の声に私は勝ち鬨を上げる。
そして私達の足下には『黒狼』が大の字で寝転がっている。
正確にはたった今私に倒されて動けないでいるんだけど。
「でもさ、今日は頑張ったね〜」
ハルカが『黒狼』の側にしゃがんで言う。
「なんと15分27秒も持ったんだよ〜」
「おい『氷の天使』……馬鹿にしてるのか?」
『黒狼』は呻くように言う。
「ううん、感心してるの。だって初めての時ってまともに相手にもならなかったじゃない」
「くっ!」
「ハルカ、あまり遊ぶといじけるからレスタをかけたあげなよ」
「誰がいじけるか!!」
私の言葉に『黒狼』は怒ったようだ。
「ありゃあ、かけなくても元気だよ」
「そう言わずに」
「はいはい、レスタ!」
すると『黒狼』の身体が光包まれ身体の傷が消えた。
「ああ……すまないな」
「「………え!?」」
私達は『黒狼』の言葉に耳を疑った。
「な、なんだ、いきなり変な声をだして」
「あんたが……礼を言うなんて」
「明日は雨かな?」
「ハルカ、洗濯物は中に干した方が良いね」
「うんうん」
「お前ら……俺が礼を言ったら変なのか!!」
「「もちろん」」
声を揃えて答える。
それに対して『黒狼』は怒りに肩を振るわせてる。
「お前らなぁぁぁぁ」
「ラフォイエ!!!」

”どかぁぁぁぁん!!”

私はうるさくなりそうなので思わずラフォイエを使い『黒狼』を黙らせた。
「カナタ……やりすぎだよ」
「いや〜、手加減したつもりなんだけどね……あれ?」
「『あれ』じゃねぇぇぇ!!」
「あ、復活した」
「さすが、カナタのラフォイエを受け続けてるだけはあるね」
「まったく……」
『黒狼』は軽く溜め息をつくとその場にあぐらで座り込む。
そんな彼を呼ぶ。
「ねぇねぇ『黒狼』」
「……なんだ?」
機嫌悪そう〜〜。
でも関係ないもんね。
「あんたの本当の名前教えて」
「……いきなりだな。だが前にも言ったとおり教える気はない」
「なんで〜〜」
「なんでもだ。それにお前に撫で声で言われても気持ち悪いだけだ」
「ふ〜〜〜〜ん」
私は無言でラフォイエを撃つ準備に入る。
両手に巨大な火の玉が生まれる。
「ま、待て、撃つなぁぁl!」
「じゃ、教えて」
「だから教える気はないと……」
「だったら今回で私が100勝だからそのお祝いで教えて」
「なんで祝わなきゃいけないんだ!!」
「それじゃ、あんたが100連敗したからその罰として教えて」
「あのなぁぁぁぁ!! それに前から気になってたんだ、なんでハンターでそんなでかいラフォイエが作れるんだ!!!」
「だってマックスレベルだもん」
「理由になってない! その大きさはどう見ても30はあるぞ!」
「当たり、母さんがフォマールだったから私も精神力が高いの」
「じょ、冗談だろ!?」
『黒狼は』徐々に後ろに下がっていく。
ん〜そんなにこれが嫌なのかなぁ?
「『氷の天使』、お前からも何とか言ってくれ!」
「『黒狼』とっとと教えた方が良いよ。カナタはああなったら撃つからね」
ハルカはいつもの調子で助言する。
やっぱりハルカは分かってるなぁ。
さてとそろそろ撃とうかな?
「…………………リューク」
「「ん?」」
「リューク・セフィーロだ」
その名前を聞いて、私は動きを止めた。
「……ハルカ、これどうしようか」
「向こうに投げたら? 確か何もないはずだから」
「ん、そうする」
そして火の固まりを全く関係ない方に投げた。
遠くで爆発音と悲鳴らしき物が聞こえたけど気にしない。
「リュークね。教えてくれたお礼に私達を名前で呼んで良いよ。ね、ハルカ」
「そうだね。1年以上付き合って未だに通り名で呼でるからね」
「なぜ、呼ばなければいけない。それに人前ではその名前で呼ぶな!」
「「……………」」
私はラフォイエを、ハルカはラバータを撃つ準備に入る。
「だから、すぐにテクニックを撃つなぁぁぁ!!」
「だってねぇ」
「うんうん。リュークは悪い」
ハルカは頷きながら誰が悪いのかはっきり言う。
そして私はそれに続けて言う。
「まぁ、人前で呼んで欲しくないと言うなら、仕方ないから聞くけど、でも私達のことは名前で呼んで欲しいよ」
「何故だ」
「だって私達、友達じゃない」
横でハルカも頷く。
でも………。
「どこをどうすればそう言う発想が出るんだ?」
「な、なんでそう言うことを言うかなぁ? 1年もこういう風に会ってるんだから友達じゃない!」
「そうだね。でもカナタにとってみたら友達以上かもね」
「え?」
ハルカが突然訳の分からないことを言い出す。
「ねぇねぇリューク、カナタってば実はあなたに惚れてるんだよ〜」
「なっ!?」
リュークが驚きの声を上げる。
でもそんなことはどうでもいい!
「ハ〜〜〜ル〜〜〜〜〜カぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「なぁにぃ、カナタぁ?」
私はラフォイエをハルカ向けて撃つ。
ハルカもそれにラバータで対抗する。
「やるわね」
「あなたとのつき合いは長いからね」
「「ふふふふふふふふふ」」
そして十数分に渡る激しい攻防の末、すっきりとした顔でリュークの元に戻ってきた。
でも何故かリュークが唖然としている。
「お前ら……いつもそんな調子なのか?」
「ん〜〜だいたいそうかな? だよねカナタ」
「まぁそうだけど……いいリューク! ハルカが言ったことは絶対に信じちゃ駄目だからね!!」
「頬を染めながら言っても説得力無いよ」
「ハルカぁぁぁ!!」
「リューク助けて〜〜」
ハルカはおどけながらリュークの影に隠れる。
「……まったくもう! もう知らない!!」
私はぷいっとそっぽを向く。
たぶん、今の私の顔は真っ赤に染まってるかも知れない。
う〜〜顔が熱いよぉ。
その時、突然リュークが笑い出した。
私もハルカも唖然として、彼を見る。
「お前達を見ていたら、『最強』なんてものがどうでも良くなってくるよ」
「ふ〜〜ん……じゃあ止めちゃえば」
ハルカはあっさりそう言う。
「氷の……」
「ハルカ」
ハルカはラバータを撃つ体勢に入ってる。
「………ハルカ…………」
「うん、よろしい」
リュークが言い直したことでハルカはニコリと笑いラバータを消す
「……お前も簡単に言ってくれるな」
「だってそうでしょ。ねぇカナタ」
「そうだね。私だけに勝負を挑む分には別に構わないんだけど……あんた、その為に他の人にも勝負挑んでるでしょ」
「う……知ってたのか……」
リュークはバツの悪そうな声を出す。
「自分がどれほど強くなったか確かめるためにやってることぐらい知ってるよ」
「その度に私達の所に苦情が来るんだよね。困ったことに」
私達は溜め息をつきながら、テクニックを撃つ準備をする。
「お前ら……そういう脅し方は止めにしないか?」
「苦情を思い出したらむかついた物でね」
「そうそう」
にこやかな顔の私達と怯えている様子のリューク。
「分かった、もうやらないよ」
「カナタ、信じられる?」
「さぁ?」
ハルカの問いに曖昧な返事を返す。
「お前らなぁ……分かった! この銀の……じゃなくてカナタが付けたこの胸の傷に誓う」
『銀の閃光』と呼んだらラフォイエをぶつけてやろうと構えていたのに……残念。
「まぁそこまで言うなら信じても良いよ」
私がそう言うとハルカがにんまりとする。
「ふ〜〜ん、やっぱり好きな人の言葉は信じられるよね〜」
その瞬間、やっと冷えた顔がまた熱くなった。
「ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハルカぁぁぁぁぁ!」
私とハルカは再びテクニックをぶつけ合う追いかけっこを再開した。




「嘘だ! お前もさっきのレイキャシールと同様に移植組だ!!」
リュークの否定の言葉が公園に響く。
だがそれを遮るようにもう一つの声が響く。
「本当よ。第一どうやってヒューマンからデータだけを移植出来るの?」
声のする方を見るとそこにはハルカが立っていた。
彼女の後ろにはソラや仮の右腕を付けたゼロ、包帯を巻いたカナタ、さらにカルロ君を初めとした警備の人達がいる。
彼女らは一応に驚いているようだ。
無理も無いだろうね……。
「ナツキ・スライダーと言うアンドロイドは初めから存在しないわ」
ハルカはそこで言葉をいったん切る。
そして俯きながら言葉を続けた。
「確かにカナタは15年前に死んだわ。でもスライダー氏によってアンドロイドボディに生体脳を移植することで生き延びることが出来たの」
「そんな…………」
リュークは信じられないと言った様子でつぶやく。
「ハルカ、もう良いよ」
その言葉にハルカは小さく頷いた。
それを確認すると、私は再びリュークを見た。
「俺は……俺は…………」
リュークは鎌を落とし、その場に膝を地につける。

”ガサ”

その時、公園の植え込みの中から白衣の老人が姿を見せた。
その手には何かのスイッチを持っている。
「この役立たずめが! だが、まさかあの『銀の閃光』立ったとは思わぬ収穫じゃ」
そいつはスイッチを押した。
その瞬間、リュークが頭を押さえ苦しみだした。
「リューク!! ハルカ、あいつを捕まえて!!」
私はハルカにそう言うと、リュークに駆け寄る。
「ラバータ!!」
ハルカのラバータは奴に命中したが、テクニックシールドを張っているらしく効かなかった。
だけど、ゼロが手裏剣でその足を止め、カルロ君達がその身柄を確保した。
私はリュークの側で横目で確認すると彼を見る。
「ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「リューク……」
その肩に手を置こうとしたとき、リュークは私を殴り飛ばすように腕を振り抜く。
私は咄嗟に後方へ下がり、攻撃を避けた。
「リューク……まさか、リミッターカットによるAIの暴走!?」
「ぅぅぅぅぅぅぅ」
リュークは足下の鎌を持つと私の方を向いた。
完全に私を敵と認識し攻撃態勢に入っている。
「がぁぁぁぁぁぁ!」
私との間合いを一気に詰め鎌を振り下ろす。
その攻撃を後方へと下がることで避ける。
すると今度は下から斬り上げる。
だけどその攻撃も一歩下がることで避けた。
「リューク! 自分を取り戻して!! そうじゃないとあなたは……あなたは!!!」
でも私の声はリュークに届くことなく、彼は次々の攻撃を仕掛けてくる。
私はどうして良いか分からず、その攻撃を避け続けた。
「ナツキ……いえ、カナタ!!」
その声にハルカを見る。
「リュークを止めることが出来るのはあなただけ」
「でも!!」
「でもじゃない! あなたは初恋の相手をそのまま苦しめる気なの!!!」
「っ!」
私はハルカの言葉に意を決すると、さらに後方に飛び下がると、両肩のアーマー内部に収納しているWセイバーとセイバーを抜いた。
右手にWセイバー、左手にセイバーを持つと身を屈め構える。
「リューク、最大奥義であなたを止めてあげる……リミッターオフ」
迫り来るリューク目指し神速の動きで斬りかかる。
「『蒼空無心流 天龍閃光斬』!!!」

これは『銀の閃光』と呼ばれるようになった所以の技。
神速の動きで繰り出す乱撃。
その時相手には光に反射する銀髪の輝きの残像のみがその目に残り、次の瞬間、相手は空中高く吹き飛ばされる。

私はリュークを空中へと吹き飛ばした。
そして彼は地面に叩き付けられた。
そのショックで片手片足が吹き飛んだ。
「……リューク」
その時、両足の膝のギアが割れ、その場に崩れた。
「ナツキ!」
ハルカ達が駆け寄ってきた。
「ハルカ……私をリュークの所へお願い」
「あ、うん」
ハルカが私に肩を貸そうとしたとき、その横からゼロが何も言わずに私を両手で抱きかかえた。
「ゼ……ゼロ?」
「これは拙者の役目でござる」
「ありがとう……」
ゼロはリュークの側に来るとゆっくりと彼の横に下ろしてくれた。
私は残る右手を握ると彼を呼ぶ。
「リューク、聞こえる?」
「……カ…………ナ……タ?」
「うん」

「すまなかった……俺は奴の口車に乗ってお前達に酷いことをしてしまった。お前を怒らせれば真の力を発揮すると聞いて俺は…………」
「リューク……」
「謝って許されることではないが…………本当にすまなかった……」
「もうしゃべらないで! ハルカ、レスタをお願い!!」
私は振り向くと、後ろに立つハルカに言う。
「う、うん」
ハルカは両手をかざすとレスタを使おうとした。
「ハルカ、止めてくれ」
「リューク!?」
「AIの暴走がどういう結果を招くかは重々承知している」
「でも!」
「いいんだ……。カナタ、聞いてくれるか……」
「……うん」
「お前が死んだと聞かされてから、俺は生きる目的を見失った。結局ハルカの前からも姿を消し、ライセンスを破り捨て死に場所を求め彷徨い、それでもハンターズ以外に生きる道の無い俺は偽名で再登録しこの船に乗ったんだ」
「だから、あなたのことを私達は知らなかったのね」
「だが、ここにいても何も変わらないまま時間だけが過ぎていった。そんなときに奴にあった。奴は俺のことを知っていた。だから近づいてきんだろな。そして『最強』と言う名の魅力に負け口車に乗ってしまった」
「リューク……もう……もう良いから……」
「カナタ……最後にお前に出会い再び剣を交えることが出来て良かった……」
「リューク………」
「ありがとう…………」
その言葉を最後にリュークの目から光が消え、私が握るリュークの手から力が抜けた。
「リューク? ………リューク……リューク!……リューク!!
リュークの名を呼ぶ声が公園に響き渡った。



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<あとがき>
絵夢「はい、そういうわけですべてが終わりました」
恵理「ナツキとハルカの会話で謎っぽいのがあったけど………そう言うことだったのね」
絵夢「予想できた人がどれだけいるのかな?」
恵理「近いところまで予想した人は多いんじゃないのかな?」
絵夢「でも本人と思った人はいなかっただろうね」
恵理「無理無理(^^;;」

絵夢「そんなわけで次回最終回<エピローグ>」
恵理「どうぞお楽しみに〜」
絵夢&恵理「またね〜」