ファンタシースターオンライン
『MEMORIES』
エピローグ
あの後ナツキは行動不能に陥る。
検査の結果、彼女のメインフレームの全てにひびが入っていて修復程度ではどうすることも出来ないことが判明した。
その結果、ハルカの指示の元、ナツキの生体脳を新たな身体への換装が行われる事になる。
新しい身体はハルカが今までと全く同じデザインの物を用意していた。
換装終了から24時間後にナツキは意識を取り戻す。
その報告を聞きハルカが駆けつけたときには病室から姿を消していた。
何処に行ったかと探してみると、ナツキはシミュレーションルームで剣を振るっていた。
リハビリと慣らしと呼ぶにはあまりにも激しいそれはまるで何かを振り払うかのようだったと言う。
そして1ヶ月あまりが過ぎた。
応接室から疲れた顔をしたハルカが事務所に戻ってきた。
「フローラ室長、お疲れ様です」
ユーリがそんなハルカに労いの言葉をかける。
「ホント、疲れたわよ」
ハルカは不機嫌な顔で事務所にある自分の机の元に向かい座った。
「口止めは完全に出来ないとは思ってたけど、まさか1ヶ月も立たない内に知れ渡るなんて……」
「仕方ありませんよ。スライダーさんがあの『銀の閃光』だったんですから」
「でもねぇ……あの時、連れて行かなければ良かったような気がしてるわ」
ハルカの愚痴にユーリは苦笑で答えた。
「ところでナツキを知らない? 駐車場にあの娘のホバーバイクが停まっていたんだけど」
「えっとスラ……じゃなくて……」
ユーリは何故か言葉に詰まるが、ハルカはその理由がすぐに分かったようだ。
「ナツキ・スライダーよ」
「あ、はい。えっと私はスライダーさんは見てません」
「そう……ありがとう。私は部屋に戻ってるから何かあったらすぐに連絡してね」
「はい、分かりました」
ハルカはそのまま廊下をはさんで反対側にある室長室に入った。
「あなた、そこで何をやってるの?」
ハルカが部屋に入ると、室長室の一番奥の机にはナツキがいた。
ナツキはそこにあるパソコンで何かをやっている。
「ん〜隠れてるの」
「隠れてるって……」
「取材がうるさくてね」
「……何となく分かるわ」
「まったく私は私だって言うの」
その間、ナツキはモニターから目を離さずに作業をしながら答える。
そして作業が終わったのかマウスから手を離しハルカを見る。
「でもソラ達が今まで通りに接してくれるから良いけどね」
「だけどあの娘たちも初めはよそよそしかったもんね。何て言ったの?」
「『私は私なの。たしかにカナタ・トラッシュだったけど、15年前に生まれ変わって今はナツキ・スライダーなの。聞くけど今まであなた達と過ごしてきた私は誰なの?』ってね。そうしたら今まで通り……とは行かないけど普通にはなったよ。でもカナタは……」
「あの娘があの時のレンだったなんてね。あの娘にしてみたら知らなかったこととは言え恩を仇で返したようなもんだもんね。どうするの?」
「ん〜近いうちに一緒に下に行こうと思ってる」
「そうなんだ」
「でもねぇ。会えないんだよね」
「なるほど、頑張れ」
「うん、頑張る」
その時、ハルカが何かを思い出したようだ。
ポケットから小さな箱を取り出して机の上に置いた。
「これをあなたに渡そうと思ってね」
ナツキはその箱を手に取ると蓋を開けた。
「これは……もしかしてリュークの?」
「うん」
そこにはひび割れたAIチップが入っていた。
ナツキはそれを手に取ると、ジッと見つめる。
「解体処分になったんだ……」
「うん。記憶メモリ、戦闘データの完全消去も含めてね」
「え!?」
その言葉にナツキは顔を上げ驚きの声を上げる。
「そんな……それじゃあリュークは……」
「ごめんなさい。私も何とかそれだけは残させようとしたんだけど結局……」
「リューク……」
ハンターズや軍のアンドロイドは死ぬとその身体は解体されるが、記憶メモリと戦闘データは一定期間保存されることになっている。
だが重犯罪者の場合、それらのデータも消去され、存在そのものを完全に抹消される。
「私達と出会う前の事が今回の決定の間接的な原因のようよ」
「でもあれは、チームを組むことでほとんど許されたはずじゃ……」
ナツキは勢いよく立ち上がりハルカに抗議する。
「でもデータは残っていた。そして今回、同じ事を繰り返した……だから……」
「そんな事って……」
ハルカの言葉に力無く椅子に座った。
「だからせめてそれだけでもって強引に貰ってきたの」
「………ありがとう」
ナツキは手の中のAIを見ながら礼を言う。
そして胸のIDプレートの開けるとその内側にAIチップ貼り付け閉じた。
「リューク……」
ナツキは胸に手を当て小さくつぶやいた。
「それから、リュークをそそのかした奴のことが分かったわよ」
「ホント?」
「あいつ、政府のラボに所属してたみたいなの。そして3年前にある計画を提案したの」
「それは?」
「アンドロイドから感情を取り除き、完全な戦闘マシーンを作ること」
「人権を無視した計画だね」
「だからラボから追放されたの。それから紆余曲折あって自分の計画が正しいことを証明するために独自に作っていたようよ」
「つまりあいつはそのアンドロイドに組み込むための戦闘データを集めていたって事?」
「ま、そうなるね」
「そんな事の為にリュークは………」
ナツキは怒りを抑えるために拳を固く握りしめる。
「ちなみに記憶修正処分になりそうよ」
「事実上の処刑って訳ね」
「そうね」
そして二人の間に沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのはハルカの方だった。
「あとね、カエデの事なんだけど」
「?」
「リュークがどうしてカエデを破壊するのではなく、機能だけを停止させたのか不思議に思って調べてみたの」
「うん」
「そうしたら、あの娘に移植されている戦闘データがリュークの妹の物だったの。妹と言っても同じラボで生まれたレイキャシールなんだけどね」
「そうだったんだ……戦闘データの移植は戦いの癖までコピーするからね。だからリュークには分かったのかもね」
「そうね……」
そして再び沈黙。
ナツキは作業の続きを始めた。
そんな彼女に肩をすくめると、ハルカは机の前の並べられている応接セットのソファに座りテーブルに置いてある本を読み始めた。
それから数十分後……。
作業が終わったのか椅子から立ち上がり背筋を伸ばした。
「出来たの?」
「うん」
「一体、人のパソコンを使って何をやってたの?」
「見てみる?」
ハルカはモニターをのぞき込んだ。
「これって……」
「欲しいなら残していくよ。私の分は自宅に送ったから」
「ぜひ頂くわ」
ハルカの微笑みにナツキも微笑みを返した。
その時、ユーリが慌てて部屋に飛び込んできた。
「ユーリ、どうしたの?」
「もう少し落ち着いたら?」
「え、あ、スライダーさん、こちらにいらっしゃったんですか。あのそのホワイティルさんとリンクスさんがまた訓練施設で騒ぎを起こしているそうなんです」
「分かったわ。すぐに行くことにする」
ナツキはすぐに部屋から出て行こうとしたが、それをハルカが呼び止めた。
「なに?」
「気づいてないみたいだから言うけど、換装の時に精神力があることが分かったから昔使っていたテクニックをそのままインストールしておいたわよ」
「え?」
「フォイエ3種オール30とレスタ15」
ナツキはその事実にきょとんとするが、すぐににやりと笑った。
「あなたもなかなか面白いことをするわね」
「だてにあなたのパートナーを長くやってないわよ」
「ありがとう。それじゃ、早速止めるために使わせて貰うわ」
「まぁ余り壊さないようにね」
「オッケ!」
ナツキは室長室から出て行った。
「ユーリ」
「あ、はい!」
「警備の人にナツキが向かったことを連絡して」
「分かりました」
ユーリはそう言うと急いで出て行った。
一人残された部屋でハルカはモニターに映る絵を見る。
「合成でここまで出来れば上等ね」
そこにはナツキ、ハルカ、ソラ、カエデ、エア、カナタ、ゼロ、そしてリュークの8人が仲良く並んでいる集合写真が写っていた。
Fin
<あとがき>
絵夢「これを持って『MEMORIES』終了です」
恵理「おつかれさま〜」
絵夢「いや〜間に半年空いたときはどうしようかと思ったけど、ちゃんと終わることが出来て本当に良かったよ」
恵理「うんうん、一応ハッピーエンドだよね」
絵夢「そうだね」
絵夢「そんなわけで次はどうなるか分かりませんがこれからもどうぞよろしくです」
恵理「みなさん、今までありがとうございましたです」
絵夢「それでは」
絵夢&恵理「またね〜〜〜」