ここは夢園荘NextGeneration
Wonderful Street
十月(三)
100人は軽く入れるほど広い露天風呂に1人で入るのは気持ちが良い。
一応クラス事に入る時間は決まっているのだけど、全クラスが入った後は自由に入っても良いと言うことで私−早瀬春香は消灯まで2時間程ある この時間に入りに来ていた。
今日で修学旅行も三日目が終わり。
明後日には夢園荘の自室でぐた〜っとしていることだろう。
とりあえず今日は長崎のホテルを出発した後、天草の方を回って阿蘇山観光。
そのまま今日宿泊する旅館に着と、のんびりとしたスケジュールだった。
そう言えば昨日の5人組と同じ制服の男子達もたくさんいたなぁ……あれも私達と同じ修学旅行だったのかな?
そんなことを思い出していると、入り口のガラス戸が開く音が聞こえた。
「独り占めはここまでか……」
私は残念な気持ちをそのまま小さくつぶやくと、ずっと背を預けていた岩の影から入り口の方を見る。
入る前に洗い場(?)でお湯で身体を流していて顔まで確認できないけど、小振りな胸に引き締まった体型に特徴的な髪型。
しかもタオルは持ってきておらず、初めから隠す気は無いらしい。
そこまでオープンな人物は1人しかいないだろう。
そして彼女は洗い場から立ち上がると湯船に足をつけようとしたとき私と目が合う。
「あ、いたんだ」
「いたよ。それよりも恥ずかしくないの?」
私は濡れないようにおけに入れて持ってきていたタオルで身体を隠しながら立ち上がる。
「なんで? 女の子同士で何を恥ずかしがるの?」
「なんでって、ここは露天風呂だよ。どこから見られているか分からないじゃない!」
彼女は「あ〜」と納得したように手を叩く。
「全く……冬佳らしいと言うか何と言うか……」
「覗きに対しては旅館側がどうにかしてくれてるでしょ。と言うことでタオルを湯船につけないでね」
冬佳はそう言いながら、湯船に身体を沈める。
なんか「あ〜ごくらく〜」とか言ってるし、幾つよと激しくツッコミを入れたいのを我慢しながらタオルをおけに戻しながら湯船につかる。
すると冬佳は私をじ〜っと見ると、湯船をす〜っと泳ぎながら近づき私の前に座る。
「なに?」
私の問いに冬佳はふふふと笑う。
なんか非常に嫌な予感がする。
「えい!」
「きゃ!!」
冬佳は両手でいきなり私の両胸を掴んできた。
すぐに離したけど、この娘の行動は理解に苦しむ。
私は胸を両手で隠しながら冬佳を文句を言う。
「いきなり何をするのよ!!」
だけど当の冬佳は両手を自分の胸に当てて軽く溜め息をつく。
「でも春香は胸の大きさが変わってないから良いか……」
「もしかして会う人会う人全部の胸を触って歩いてるの?」
「まさか。そんなことしたらただの痴女だよ」
いや、今のあなたの行動がすでにその物なんだけど……。
「まったく……酷いことを考えてるでしょ」
「え?」
「嘘、分かるわけ無いじゃない」
私が驚きの声を上げると同時に冬佳は否定する。
「ただ春香は顔に出やすいと思うよ」
「う……それは……」
冬佳はクスクスと笑うので余計言葉に詰まった。
「それはさておき、この胸に少しだけコンプレックスを感じてるから」
そう言いながら湯船から上半身を出すと控えめな胸を無理矢理持ち上げて谷間を作ろうとするが出来ない。
そしてすぐに諦めて「ねっ」と言ってまた湯船につかる。
「ま、まぁでも小さい方が良いって言う男の人もいるわけだし……」
私はフォローを入れる。
「そう言うシュミはともかく私は男に興味ないから」
「あなたは楓一筋だからね」
「そうそう」
ニコニコする冬佳。
まったくシスコンなんだから……。
「それはそうと、昨日のあれの種明かしを知りたいんだけど」
私が何気なく昨日のあれを聞いてみると、冬佳は一瞬眉をしかめた。
他言無用と言っていたし聞いちゃいけないことだったかな?
冬佳は私から視線を外して軽く溜め息をつくと、真剣な面持ちで私を見る。
「昨日のあれを見てもなお変わらない春香には驚いたけどね」
「だって冬佳が『自分は自分』って言ったでしょ」
「まぁね……もしかして早瀬家の家系は何があっても動じないのかな……」
「う〜〜ん、どうなんだろう……」
「とりあえず、知らない方が良いと言うことで片づけておいて」
「え〜〜〜!」
「え〜じゃない。……分かってよ」
少し悲しそうな顔をする冬佳に私は頷くしかなかった。
昨日の一件は私1人の胸の中で忘れることにしましょう。
「ありがとう」
「いいって、助けてもらったのは私達の方なんだから」
「うん」
冬佳は笑いながら頷くと私の横に並んで後ろの岩に背をあずけて背伸びをする。
間近に見る冬佳の肌はすごく健康的で綺麗だと思った。
「ん? エッチ」
「な、なにを言ってるの!」
「冗談だよ〜」
クスクス笑う冬佳に本当に一生勝てないなぁと思う。
「そう言えば、今日阿蘇山に奴らがいたよ」
「え、ホント? 確かに似ている制服がいたのは知っていたけど」
「うん。それで私の顔を見るなり逃げ出したから追いかけていったの」
「それで?」
「それで追いついたら、その場で土下座しちゃって『許してください!』だって」
その時の様子を思い出したのか声を出して笑い始める。
「まったくあの人達も災難ね……」
「自業自得だよ。んで、ミネラルウォーターをおごらせて解放してあげた」
「可哀想にね」
私は言葉では同情しているけど少し笑ってしまう。
「まぁ200円程度で許してもらえるんだから安いものじゃない?」
「そうね。私もその様子見たかったな」
「いたら一緒におごってもらえたかもね」
「あ、そうか。惜しいことしちゃったな」
私達は一緒になって声を出して笑った。
露天風呂から出て私達は同じ方向へ歩きつきあたりでそれぞれの部屋に戻るために左右に別れる。
そこで冬佳は何かを思い出したように足を止め私を呼び止めた。
「楓に来るなら点呼が終わってから来るようにって言っておいて。たぶん今頃舟を漕いでいると思うけど」
「うん、わかった」
昨日楓が点呼前に冬佳の所に行ってしまって少しだけ騒ぎになってしまったのを思い出した。
騒ぎと言ってもすぐに私が先生に冬佳の所にいると伝えたので大丈夫だったのだけど……。
私が割り当てられている10人部屋に戻ると騒いでいるクラスメイトをよそに楓は隅の方でうつらうつらしている。
「楓、大丈夫?」
私は楓の側に寄ると聞いてみた。
「ねむい〜と〜かのところにいく〜〜」
楓はそう言うとゆっくりと立ち上がろうするので慌てて彼女を座らせる。
「む〜〜」
恨めしそうな目で私を睨んでくる。
「いやね、冬佳が点呼が終わってから来るようにって言伝ってるの」
「と〜かが?」
「そう」
「う〜〜」
まぶたが半分閉じている感じから既に限度を超えかかっている感じ。
そう思っていると楓は私の方にもたれ掛かってきて、そのまま膝の上に頭を置いて腰に腕を廻して寝息を立て始める。
「ちょっと……楓?」
「す〜〜す〜〜……」
「お〜〜い?」
反応が無い……完全に熟睡してしまっている。
周りを見ると相変わらずいろんな事をして騒いでいる。
だけど楓は起きる気配はない。
「仕方ないか……この」
楓のホオと指でつんと押す。
この寝顔を見ていたら冬佳が楓を第一に考える理由が何となく分かるような気がしてくる。
だけど……。
「今夜、どうやって寝れば良いんだろう……(涙)」
<あとがき>
恵理「楓ちゃん、可愛い!!」
絵夢「幼児化が進んでいますが気のせいです」
恵理「あはははは〜」
絵夢「楓は寝たら普通のやり方だと起きないので、春香は大変だろうね」
恵理「たぶん、冬佳ちゃんを呼び出すのかな?」
絵夢「その当たりは想像にお任せしま〜す」
絵夢「ということで10月、あと1回やるかのぉ」
恵理「と言うことは最後は和沙ちゃんだね」
絵夢「さぁ?」
恵理「お〜〜い(汗」
絵夢「であ次回もどうぞ見てみてね」
恵理「みなさん、まったね〜♪」