NOVEL



ここは夢園荘NextGeneration
Wonderful Street

十月(一)


冷房の効いた新幹線を降りるとそこは暑かった。
「なんでもう10月なのにこんなに暑いのよぉ!!」
あ、向こうの列で冬佳が叫んでる。
4時間前後の長旅だったのに元気だなぁ……。

私達2年生は修学旅行で九州に来ている。
ルートは長崎で二泊、阿蘇山の方で一泊、最後は帰りのフェリーの中で一泊と四泊五日の旅なの。

現在の時間は10時半。
新幹線を降りた私達はガイドさんに導かれるままクラス別にバスに乗り込み、一路長崎に向けて出発した。
長崎までは直行で行くためお昼ご飯はバスの中でお弁当が配られた。
バスの中は賑やかで、ガイドさんの説明を聞いているのは前の方だけ。
後ろの方はトランプをやったり携帯でメールのやりとりをしたりと様々。
私は隣に座る春香さんと何かしようと思っていたら……。
「楓……私寝るから……」
と、酔い止めの薬を飲んで早々に寝てしまっている。
仕方なく真面目にガイドさんの話を聞いていたけど、すぐに飽きてしまった。
そんなとき私の携帯で先行するバスに乗る冬佳とメールが来たので、返事を書いたりして時間をつぶしていた。
メールの内容を見る限り、向こうもこちらと似たような状況みたい。

それから途中2度のトイレ休憩を挟んで8時間後、ホテルに到着した。
バスを下りると周りはすっかり暗くなっている。
「やっと着いたぁ」
ずっと座りっぱなしで固くなった腰を伸ばす。
「でも冬佳じゃないけど、本当に暑いなぁ」
「う〜……」
小さなうなり声にそちらを見ると少し青い顔をした春香が口を押さえている。
「大丈夫?」
「ずっと寝てたからなんとか大丈夫」
「でも車に弱いってなんか意外だね」
「これだけ長距離乗るのはちょっと辛い」
「部屋着いたら少し横になった方がいいね」
「そうさせてもらうわ」
「やっほ〜楓〜♪」
これ以上ないぐらい元気な声が私を呼ぶ。
そちらを見ると3組の集まりの外側で冬佳が右手を高く上げて振っている。
その横で和沙も手を振っている。
私は2人に向かって手を振りかえすと2人はサムアップを見せて、集まりの中に戻っていった。
う〜ん、冬佳はいつもの通りだけど和沙までというのがすごく意外。
旅行は人を変えるものなのかも。
「……2人とも元気ね」
2人とは正反対にまったく元気の無い春香さんがつぶやくように言う。
「冬佳はいつも通りだけど……和沙まではしゃいでいるのはすごく珍しいかも」
「冬佳菌が感染したんでしょ」
「本人に聞こえたらカバンで頭叩かれるよ」
「今の状態でそれは勘弁……」
春香さんは力無く笑う。
本当にやられたら倒れそうな感じ。
私は春香さんに肩を貸すと一緒にホテルに入っていった。

部屋は3人部屋。
もともと2人部屋のところにベッドを追加したようだ。
そして春香さんは部屋に入るなり一番手前のベッドに倒れ込んだ。
「大丈夫?」
私はのぞき込むように顔を見ると、力無い笑顔で「もう少しで復活するから」と言う。
「楓、春香はどう?」
一番窓側のベッドの上に荷物を置く同室の田中夕紀が心配そうに尋ねてきたので私は手を左右に振って「ダメっぽい」と答えた。
「まさかあの春香が車酔いとは……ちょっと意外かな?」
夕紀は制服からジャージに着替えると苦笑しながら春香を見る。
春香はあはは〜と複雑な笑みで答えるだけだった。

夕紀はショートヘアで元気に動き回る冬佳みたいな性格だと思う。
でも冬佳と決定的に違うのはトップでGカップの胸かな?
スリムな体格で170cmを越える長身なので胸は余計に目立つ。
そのため街を歩くと男の視線がすごいらしい。
でも本人はそんなことよりも肩こりの方が深刻な問題なんだって。
そして上はTシャツ、下はジャージに着替えた夕紀を見ると、明らかに胸だけ異様に見えるのは内緒の話。

脱線を修正。

私は再び春香の顔をのぞき込む。
「すぐに夕飯だけど、無理だよね」
「……うん」
私の問いに春香は小さく頷く。
「今食べたら戻しちゃうんじゃないかな?」
夕紀はそう言いながら私の頭の上に両方で1kgを遙かに越える胸を乗せながら春香の顔を見る。
……お、重いんですけど。
「どうしようか……」
「先生に言って、おにぎりか何か作ってもらってくるよ。それよりも夕紀……」
私は顔を上に上げて夕紀の顔を下から見る。
……胸が邪魔で顔が見えない。
「何?」
「重いんだけど……」
「あ……」
夕紀は慌ててパッと退いた。
「ごめ〜ん、なんか楽だなぁと思ったら乗せてたんだね。すぐに言ってくれれば良いのに。もう楓は人が良いんだから」
「まぁいいんだけど……」
笑いながら言う夕紀に私はただただ呆れてしまった。


私は早々に着替えると夕紀と一緒に食堂代わりになっている大ホールへ移動した。
そして私達はすぐに担任の先生を捕まえて春香さんの事を話した。
先生はすぐに理解してくれて、おにぎりを用意してくれるように手配してくれた。


大ホールに入ると全員の人数にあわせて長テーブルと椅子が用意されていて、壁側にたくさんの料理が用意されていた。
いわゆるバイキング形式だ。
まだ人はまばらでまだまだ始まったばかりのようだ。
私と夕紀は料理を取るための取り皿を取ろうとした。
その時、後ろから私達を呼ぶ声に手を止め振り返る。
そこには冬佳と和沙と確か陸上部の人がいた。
「楓達も早いね」
「込む前にね。それにお腹も空いたし」
「考えることは同じか。ところで春香は?」
冬佳はきょろきょろと周りを見る。
「それが車酔いで今部屋で寝てるの」
それを聞いて「あ〜」と手を叩く。
「さっきバスから下りてきたところを見たとき顔色が優れないなぁと思ったらそう言うことだったんだ。大丈夫かな……」
「とりあえず、寝ていれば大丈夫みたいなこと言っていたから大丈夫だよ」
「なら良いけど……」
冬佳はどこかつまらなそうな顔をしている。
しかしその目に夕紀の姿が映ったとき、にやりと笑った。
そして夕紀もその視線に気づいて顔を引きつらせる。
「そう言えば夕紀とこうして話すのって1年生の時以来だよね」
「え〜っとそうだっけ?」
「うん、そうだよ」
そうにこやかに言うと、逃げる間も与えない程素早く夕紀の後ろに回り込むと彼女の大きな胸を揉み始めた。
「ちょ、ちょっと冬佳止めてよ〜」
「1年の時よりも大きくなったよね。まだ成長してるの?」
「だから……あの……あ、あああ……ああぁぁぁぁ」
「なんか羨ましいなぁ……」
「あん……ああ……ん……」
夕紀は口から零れる言葉は次第に拒絶の言葉よりも別の言葉が多くなってきた。
その様子を見ていた私は和沙と目を合わせると軽く溜め息をつくと取り皿を取って料理を持って行くことにした。
でもただ1人、陸上部の人が唖然とその様子を魅入っている。
「小石、放置して良いからね」
「え、でも和沙……良いの?」
「先生も放置してるでしょ」
「はぁ……」
和沙の言うとおり、先生も他の生徒もごくごく普通の光景のように放置している。
本当は冬佳の暴走に巻き込まれたくないというのが本音なんだろうけど……。
ある意味学校を裏から支配していると言っても過言じゃないんだろうなぁ。
そんなことを思いながら、私は自分の分と夕紀の分を、和沙は自分の分と冬佳の分を、そして小石さんはまだ2人の事を気にしながら自分の分を取り皿に取り分け、テーブルの一角を陣取った。
それと同時に大ホールに夕紀の大きな声が響き渡る。
「あ、終わったみたいね」
私の言葉に和沙は頷き、小石さんは何が起きたのか分からずあたふたしている。
他の人達も一瞬ビックリしたようだけど平然としているし(小石さんと同じ反応をしている人もいるけど)、馴れって怖いね。
「いや〜楽しかったぁ」
ニコニコしながら来る冬佳。
「……すごかった」
その後ろから頬を染め潤んだ瞳で悦に浸る夕紀。
さらに遠巻きに羨ましそうな目で夕紀を見る一部の人達。
確か胸を揉んでいただけだよね……。
夕紀……なるべく早くこっちに戻ってきてね。

とにもかくにもまた1人冬佳の虜になってしまったのは言うまでもない。
まったく、初日からこれじゃ最終日まで何が起こるのかなぁ……。



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<あとがき>
恵理「冬佳ちゃんってレズ?」
絵夢「いや、どノーマル」
恵理「にしても……」
絵夢「ただのテクニシャンだな」
恵理「……(汗)」
絵夢「楓で馴れてるんじゃないのか?」
恵理「それもどうかと……」
絵夢「まぁ色々とな」
恵理「う〜〜む」

絵夢「であ次回もどうぞよろしくです」
恵理「二日目だよね」
絵夢「次で終わるかも知れないけど(w」
恵理「(汗)」
絵夢「その時の気分〜で決まる話数。というわけでまったね〜♪」
恵理「お〜い」