NOVEL



ここは夢園荘NextGeneration
Wonderful Street

四月(一)


「楓〜早く!」
学校に行く支度をして階段を下りていると、先に下に行った双子の妹の冬佳が玄関で私をせかす。

冬佳は視力も悪くないのにメガネをかけている。
なんで?と聞いても曖昧に返事をするだけだから、それについてはもう聞かない事にした。
髪型はショートヘアで両脇の髪が少しだけ長いの。
ちなみに私はセミロングで肩よりもやや下ぐらいの長さ。
顔は同じだけど髪型とメガネの有無で私達は見分けられるの。
そして今、私も冬佳も同じ小豆色の制服に身を包んでいる。
この制服を始め見たときスカートが少し短くてちょっと……と思っていたの。
でもお母さんも同じ制服を着ていて、当時からスカート丈は変わっていなと言っていた。
それにお父さんがデザインした制服と言う事を聞いて好きになっちゃったの。
そして去年から私達はこの制服を着て、お母さんが通っていた学校に通っている。

「まだ大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないの。あいつにだけは負けたくないの!」
「はは……」
冬佳は隣の夢園荘に住むライバル……正しくは天敵に対して燃えている。
「だったら先に行けば良いのに……」
玄関で靴を履きながら言う。
「楓を置いて先に行けるわけ無いじゃない」
冬佳は何故か拳を握り力説する。
物心が付いたときから冬佳は何時も私の側にいて、あっくんにスカートをめくられたりして泣くといつも助けてくれたの。
どんなときでも私を守ってくれる冬佳は全てを任せられるすごく頼りになる人。
でも時々ちょっと過保護過ぎるかなぁと思う所もあるんだけど、全部私を思ってやってくれてる事を知っているから私も頼り切っちゃってるの。
そうこうしているうちに靴を履き終えると立ち上がると冬佳に声をかける。
「行こ!」
「オッケ!」
「「いってきま〜〜す!」」
私達は居間でくつろいでいるお父さんとお母さんに声をかけた。
すると二人は姿を見せて「「行ってらっしゃい」」と言う。
お父さんがこの時間にまだ家に居ると言う事は今日は家で仕事をすると言う事。
週の半分を会社で、半分を家で仕事をしているの。
お母さんが側にいて仕事がはかどるのかどうかは疑問だけど、大丈夫みたいなんだよね……謎。
と言うわけで二人に見送られて私達はドアを開けて外に出た。


空は何処までも青く澄み渡っている。
思わず気持ちよくて深呼吸をする。
「か〜えでぇ〜〜〜〜、と〜〜〜かぁ〜〜〜〜」
声のする方を見ると、門の所で和沙が手を振っている。
私達の家と夢園荘は同じ敷地内にあるので門が同じなの。
私達は一緒に和沙の所へ駆け寄った。
「おはよ〜」
「おはよ〜」
「よ〜っし、勝ったぁ!」
私と和沙が朝の挨拶を交わしている横で冬佳は大喜びしている。
そんな彼女の様子に私達はただただ苦笑を漏らすだけだった。

鷹代和沙−生まれたときからのつき合いでいわゆる幼なじみ。
そして私達と同じ学校に通っている。
和沙は高校に入学と同時にこの夢園荘に住み始めた。
でも実家はここからバスで30分ぐらい乗っていく駅前の商店街の入り口にある喫茶店なんだよね。
学校へは確かにここの方が若干近いんだけどそれだけでわざわざここに住む理由は無いんだけど……。
まぁそれぞれの事情があるから良いんだけどね。

冬佳の声が響いているとき、夢園荘から私達と同じ制服を着た娘が出てきた。
「あ〜〜何で私より早いのよ!」
「へっへ〜あんたなんかには負けないよ。やっぱり春香叔母さんは年かな?」
「同い年なんだからおばさんって言うなぁぁぁ!!」
そして今日も口喧嘩が始まる。
取っ組み合いの喧嘩にならないだけマシだけど……。

彼女は早瀬春香。
お父さんの実の妹にして私達と同い年。
お父さんと一体いくつ年が離れてるのって言うか、おじいちゃんとおばあちゃんは元気すぎ。
二人は今も海外に住んでいて、春香さんは高校入学を機に日本に来た。
いわゆる帰国子女なんだけど……日本語以外全く話せないの。
本人曰く、周りが日本人ばかりで日本語以外聞いた事無いとのこと。
そして先も言ったとおり、お父さんの妹と言う事で私達から見たら叔母さんに当たるんだけど……なんか冬佳は春香さんの事が嫌いらしく、いつもああやって「叔母さん」と呼んでるんだよね。
なんでだろう?

「お姉ちゃん達、おはよ〜!」
口喧嘩をする二人をあきれ顔で見ている私達にセーラー服を着た女の子が挨拶をしてきた。
「あ、おはよう、夏美ちゃん」
「夏美、おはよ〜」
「冬佳お姉ちゃんは……また春香さんと喧嘩ですか?」
「いつもの事だからね」
夏美ちゃんは冬佳達の方を見ながら言うと、和沙がそう答えた。

彼女は原崎夏美。
近所に住む中学三年生なんだけど、私と冬佳、和沙とは幼なじみで一人っ子の夏美ちゃんから見たら私達三人はお姉さんみたいなものみたい。
だから「お姉ちゃん」といつも私達を呼んでるの。
私達から見ても可愛い妹みたいな存在なので「お姉ちゃん」と呼ばれるとすごく嬉しいの。

ふと視線を感じて、夏美ちゃんを見るとじ〜と私達の制服を見ていた。
「どうしたの?」
「来年は私もこの制服を着る事が出来るように頑張ります」
「そっか、夏美は今年受験なんだよね」
「そうですよ。その制服を着てお姉ちゃん達と同じ学校に通うのが私の目標なんです」
「夏美ちゃん、頑張ってね」
「はい!」
「「夏美〜〜〜おはよ〜〜〜〜!!」」
そこへ夏美ちゃんを呼ぶ二つの声。
その声に夏美ちゃんは「亜衣、亜樹〜おはよ〜〜!」と声の主達に手を振る。
そこには夏美ちゃんと同じセーラー服を着た全く同じ顔をした二人の女の子が夢園荘の階段口からこちらに駆けてきた。

二人は城田亜衣、城田亜樹と言う。
名字が同じで顔も似ているからと言って双子ではなく、なんでも異母姉妹らしい。
そして二人の母親が双子とのこと……。
だからそっくりなんだと納得出来るけど、生まれた日も同じと言う事で双子と言っても過言では無いような気がする。

「「楓さん、和沙さん、おはようございます」」
「「おはよう」」
二人の息のあった挨拶に私達も自然と声が重なった。
「それで……」
「またなんですね」
「うん、毎朝の日課みたいな感じなの」
冬佳と春香さんの方を見て言う亜衣ちゃんと亜樹ちゃんに私は困ったように答える。
「私が行ってきましょうか?」
横にいる夏美ちゃんが口を開いた。
「またお願い出来る?」
「はい!」
夏美ちゃんは大きく頷くと、鞄からノートを取り出して丸めて右手に持つ。
「亜衣、鞄お願いね」
「うん、がんばってね〜」
亜衣ちゃんに続くように私達も口々に「がんばれ〜〜」と声援を送る。
夏美ちゃんはそのまま二人に近づくと「喧嘩はダメです!!」と大声で叫び、右手に持つ丸めたノートで二人の頭を叩いた。
しかもすごくいい音で……たぶんいつもご近所さんには聞こえているはず。
そして叩かれた二人は後頭部を抱えていた。
「ううう……夏美、もう少し手加減してよ」
「そうだよ!!」
二人は涙目で夏美ちゃんに訴える。
「手加減してたら、二人の喧嘩はいつまで経っても終わらなくて私達が遅刻しちゃうじゃないですか!!」
「「う………」」
ビシッと言う夏美ちゃんに二人はそれ以上何も言えなくなった。
どうも二人とも夏美ちゃんには弱いみたいなの。
別に弱みとかを握られているとかそう言う事じゃないんだけど……。
何て言うか、冬佳曰く生理的に逆らってはいけないという風に感じるんだって。
私にはよく分からないんだけど、簡単に言えば泣かしたくないと言う事じゃないのかな?
そうやって夏美ちゃんに怒られてシュンとしている二人に声をかけた
「さ〜てと、二人とも行きましょう」
すると二人は軽く溜め息をつくと、黙って私達の元に戻ってきた。
「全員揃ったところで、学校に行きましょう!」
「「「「「「は〜〜い」」」」」」
そうして私達は学校へと向かった。
ちなみに私達の学校と夏美ちゃん達の学校への道は途中まで同じだけど、少し行った三叉路で右と左に別れるんだけど……。
立ち話に花を咲かせてしまう私達。

「余裕があるからってあんまり話に夢中になっていると遅刻しちゃうよ」
その声に私達は振り向くと、そこにはショートヘアで春物のワンピースを着た女性が立っていた。
「麗奈さんがいると言うことは、もうそんな時間ですか!?」
私が驚きの声を上げると麗奈さんは首を静かに左右に振る。
「講義の始まる時間が早くて……いつもなら午後からなのに教授の都合なの」
麗奈さんは肩をすくめながらやれやれと言った表情をする。

彼女は早川麗奈さん。現在大学二年生で私達よりも四歳年上。
それでなんで私が驚いたかというと、麗奈さんが取っている講義はほとんど昼前後から午後に駆けての物が多く、この時間はだいたいまだ寝ているの。
でも……本当に麗奈さんってお淑やかで素敵な女性だなぁって思う。
私もこんな素敵な女性になれたら、きっと敦史さんも……。

「楓、顔を赤くしてどうしたの?」
少し妄想に更けていると冬佳がのぞき込むように聞いてきた。
「あ……いや……別に……」
「なら良いけど……」
冬佳が首をかしげていると、その後ろから和沙が口を開いた。
「もしかして、敦史君のことでも考えていたとか?」
その言葉で私は顔が熱くなった。
「あ、図星だ」
「敦史……ふ〜〜ん、まぁ良いけどね」
和沙は笑っているけど、冬佳はちょっと不機嫌。
冬佳は敦史さん……宮本敦史さんの事が嫌いなの。
理由は小さいときに私をよくいじめてたから……。
でもそれは恋愛感情の裏返しだったことを知って私は……。
「とりあえず、遅刻する前に学校に行こう」
冬佳はぶっきらぼうに言って歩き始めた。
やっぱり少し機嫌が悪くなってる。
他のみんなは苦笑を漏らしてるけど……。
「あ……」
冬佳が小さな声を出して足を止めた。
そこには先ほどから話に登っている敦史さんが立っていた。
一色触発の気配。
「おはよう」
「………楓なら後ろだよ」
「相変わらず嫌われているな」
「当たり前でしょ。私は楓をいじめたあんたが嫌いなの」
「いじめたって……ガキの時の話だろ」
「それでも一緒」
「冬佳ぁ……おはようございます」
話がややこしくなりそうだったので私は冬佳の側に駆け寄り、敦史さんに挨拶をした。
「おはよう」
「冬佳ダメだよ、そんな言い方したら」
「これだけはダメ」
冬佳は短くそう言う。
その答えに敦史さんは苦笑を漏らすけど……。
「ま、いいさ。俺が楓にしたことを考えれば冬佳の反応も当然だからな」
敦史さんはそう笑って大学の方へと歩いていった。

宮本敦史さんは現在大学二年生で実は麗奈さんと同じ大学同じ学年なの。
麗奈さんは一年浪人してるわけだけど……。
それはともかく冬佳は先の理由で敦史さんの事を嫌ってるの。
どうしたらいいのか私には分からないよ。

気まずい空気は私達の後ろのみんなにも伝わっているらしく空気が重い。
「はいはい、早く行かないと本当に遅刻しちゃうよ」
そんな空気を打ち破るように麗奈さんが明るい声で言う。
その声に気を取り直したのかみんな動き始めた。
そして私達も……。
「楓、皆勤賞狙いなんだから行こう!」
冬佳は笑顔で私に言う。
そんな冬佳に私も笑顔で大きく頷いた。

「それじゃ麗奈さん、行ってきます!」
私達は口々に麗奈さんに挨拶をすると、私達は高校へ、夏美ちゃん達は中学校へと向かった。



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<あとがき>
絵夢「はい、第一話です」
恵理「今回のサブタイトルは今までとはまた違うんだね」
絵夢「このシリーズは月ごとに書いていこうと思ってね。で各月2話ずつ」
恵理「あ、なるほど。そうしたら全部で24話?」
絵夢「一年? 今のところ18ヶ月計36話の予定」
恵理「はぁ……それは今までのシリーズ最長になるね。でも卒業まではやらないんだ」
絵夢「今のところそこまで考えてない」
恵理「それで私の出番は?」
絵夢「母親は母親らしくジッとしてない」
恵理「あの娘達は私の子供じゃなくて、恵理の子供だもん」
絵夢「そう言う理屈なら初めから君の出番は無いよ」
恵理「うわ〜〜〜ん」

絵夢「と言うわけで次回「四月(二)」をお楽しみに〜」