NOVEL



ここは夢園荘 サイドストーリー

煌玉との邂逅


「鷹代さんや亜沙美さんや澪さんはどうやって『石』を手に入れたの?」
私の突然の発言にお兄ちゃん達四人は「は?」と言ったような表情で私を見た。

私の名前は早瀬冬佳。
私は土曜日の放課後をお兄ちゃん達のクラスでそれぞれが持ち寄った昼食を取りながら過ごしていた。
初めは明日何処に行くかの相談していたのだけれど、途中から脱線してしまったので、前々から疑問に思っていた事を口にした。
そうしたら四人ともそんな顔をするからちょっと不機嫌。

「もう、そんな顔しなくてもいいじゃない」
頬をふくらませて文句を言うとお兄ちゃんがなだめるように頭を撫でる。
「いきなりそんなことを聞くから驚くよ」
そしてお兄ちゃんの言葉に続くように三人もそれぞれに口を開いた。
「うんうん」
腕を組んで頷く鷹代さん。
「ふぁんねんもふふぃふぁっていてふぁじめてふぃくふぁら(三年も付き合っていて初めて聞くから)」
持参したパンを食べている澪さん。
「う〜〜ん」
少し困った顔をする亜沙美さん。
四者四様の反応に思わず苦笑が漏れた。
「それで、どうやって?」
「どうと言われてもなぁ……」
鷹代さんはやっぱり腕を組んで唸っている。
その横で、澪さんはパンを加えたまま言う。
「ふぁざふぁざふぃうことでも……」
「澪、食べながらしゃべるのは行儀が悪いよ」
「ん……んぐ……うん……わざわざ言うことでも無いからなぁ」
「だからと言って言い直さなくても」
「まったく亜沙美ちゃんは細かいんだから」
「澪がおおざっぱ過ぎるよ」
「あははは〜」
澪さんが笑う横で亜沙美さんは軽く溜め息をつく。
「そういえば澪と亜沙美ってつき合いが長そうだよな?」
お兄ちゃんが箸を止め口を開く。
「そうだね、亜沙美が転校してきてからのつき合いだからね」
「だから……五年ぐらいになるのかな?」
「あたしが『水の石』を手に入れてからすぐだからそのぐらいになるのかな?」
う〜んと考える澪さんに鷹代さんが口を開く。
「澪もそのころ手に入れてたのか」
「『も』って事はタカもなの?」
「ちなみに私も澪と出会ってからすぐだよ」
亜沙美さんはピースサインを出しながら鷹代さんと澪さんに言う。
でも五年前ってことは三人とも十歳なわけで、十歳と言うことは……。
「お兄ちゃん、もしかして……って何やってるの?」
「んっと三つ編み……なかなか難しいな……」
いつの間にかお兄ちゃんは私の後ろに座って髪の毛で遊んでいた。
お兄ちゃんって私の長い髪を触るのが好きみたい。
私もお兄ちゃんに触られるのは好きだから良いんだけど……。
「お兄ちゃん、鷹代さん達が呆れてるから……」
「ん………」
お兄ちゃんはほんと〜に名残惜しそうに髪から手を離すと、元いた場所に戻る。
「俺が三人が『石』を手にする切っ掛けを作ったような物だよな」
「そうだね」
と私が同意すると、三人は一斉に「えっ!?」と私達を見た。
「なにそれ、初めて聞いたぞ」
「どこからともなく飛んできたんだよ」
「澪が危ないときに空から降ってきたよ」
口々に言う。
「話してなかったか……とりあえずそう言うことだ」
「お兄ちゃん、それじゃ分からないって」
三人は私の言葉に頷く。
「う〜〜ん……」
この態度は絶対に話すのが面倒だなぁと一瞬思っているに違いない。
「お兄ちゃん」
「ん……ああ」
私が促すとお兄ちゃんは少し考えて改めて三人を見た。
「水瀬神社って知ってるかな? 山の方にある神社なんだけど、四つの石はその境内の奥の方にある大きな岩の中から見つけたんだ」
三人ともきょとんとしてる。
その中でいち早く元に戻った鷹代さんが口を開く。
「それがなんで俺達のところに飛んできたんだ?」
「だから文字通りだよ」
「お兄ちゃん、それじゃ絶対に分からないって」
私は完結に答えるお兄ちゃんに苦笑を漏らしながら言葉を繋げた。
「実際、わたしもその場にいたんだけど、その大きな岩の下に子供が一人入れるぐらいの穴が空いてたの。その時、お兄ちゃんは何かに引き寄せられるような感じで私が止めるのも聞かないでその穴に入ってちゃったの」
「突然頭の中に『あなたを待っていました』って女の人の声が響いてね。その後はよく覚えてないんだけど、気づいたら岩の中で箱を見つけたんだよ。結局あの声は何だったのか未だに分からないけどな……」
お兄ちゃんは私の説明をフォローするように言葉を繋げた。
そしてその後も言うのかなと思ったら、私に続きを言うように促す。
……手抜きだよ、それじゃ……。
「ま、いいけどね……それでその箱を持ってて、その中にお兄ちゃんの指輪や鷹代さん達の『石』が入ってたの。それを見ていたら突然光り出して、気が付くと指輪がお兄ちゃんの手の中に。そして他の三つがどこかに飛んでいっちゃったの」
私の説明に三人は目を丸くした。
そして澪さんが体を乗り出すように私達に聞いてきた。
「飛んでいったってどういう事!?」
「言葉通りだけど……なぁ」
お兄ちゃんは私の方を向いて同意を求めて来たのでコクンと頷く。
「そ、そうなんだ……」
そう言いながら澪さんは元の位置に座り直した。
「俺達の所に来たときの事を考えれば……」
鷹代さんは自分の胸元の手を当てた。
たぶん、その当たりにペンダントがあるんだろう。
「そっか……」
「だよねぇ」
澪さんと亜沙美さんも頷きながら自分の『石』を見る。
「で、みんなはどうやって手に入れたの?」
私は話を最初に戻して改めて聞く。
言いにくそうにしている三人だったけど、最初に澪さんが口を開いた。
「どうやってと言われても……小学校の飼育小屋の動物が殺される事件覚えてる?」
私達は一様に首を縦に振る。
お兄ちゃん達が小学4年の時に起こった事件。
その時、私もショックを受けた一人だったからしっかりと覚えてる。
「あたし、飼育係でね意地でも犯人を捕まえてやるんだって、夜中に家からこっそりと抜け出して何日も見張っていたんだ」
澪さんは当時の事を思い出したのかだんだん語尾が荒くなっていく。
「澪って昔から無茶していたんだな」
「「うんうん」」
鷹代さんの言葉にお兄ちゃんと私が頷く。
亜沙美さんは少し苦笑いを浮かべてるけど。
「ジッとしているのは性に合わないし、許せないじゃない!」
そう言ってコンクリの床を殴る。
そして殴った手を軽く振る。やっぱり痛かったみたい。
でもコンクリに少しひびが入ったのは……見なかったことにする。
「何日か経ってようやく犯人を見つけて怒鳴りつけてやったんだ。そうしたらナイフを持っていてあたしに襲いかかってきたんだ。武器を持ってなかったことを後悔した瞬間だったかも。その時、水色の光が私と犯人との間に降りてきて……」
澪さんは右手のブレスレットを見る。
「頭の中にね『弱きものを助けようとせし者よ。我を受け取れ』……だったかな? そんな感じの言葉が響いてね。私は無意識のうちにその光を手にしてたんだ。そのあとちょっと記憶が曖昧なんだけど……気づいたらそいつ、びしょ濡れで気絶してた。
その時は分からなかったんだけど、これを持っていると水を自由に扱えるようになることを知ったのはそれから何日か経ってからなんだけどね」
ブレスレットから視線を上げるとあはっと笑った。
「亜沙美が転校してきたのってその後だよね」
「うん」
亜沙美さんが頷く。
「亜沙美さんはその時には『火の石』を持っていたんですか?」
「だから転校してきてからだって」
「あ、そうか」
「そうそう」
亜沙美さんはニコリと笑う。
「私がこれを手に入れたのは澪を助けようとしたときなんだよ」
「そうそう、あの時は本当に危なかったからなぁ」
亜沙美さんと澪さんは楽しそうに言う。
私は身を乗り出すように二人の話を聞こうとする。
それに気づいたのか、二人は私に微笑むと話し始めた。
「転校して来たばかりの私に最初に話しかけてきたのが澪だったんだよね」
「それからすぐに仲良くなって……そしてあの事件で親友になったわけ」
そう言うと澪さんと亜沙美さんは真剣な目になる。
「澪がやっつけた犯人……結局三ヶ月ぐらいで解放されちゃったの。黙秘を続けた結果、証拠不十分って奴でね。あと精神失調もあったみたい」
「そしてあたしに復讐しに来たんだ。下校時に亜沙美と一緒に歩いていると車で近づいてきて、あたし達を一緒に誘拐した」
「向こうが一人なら何とかなったかもしれないけど……そいつ、仲間と一緒だったの」
そこまで聞いて、私は疑問を口にした。
「澪さんはその時、どうして『力』を使わなかったんですか?」
「亜沙美に嫌われたくなかったから」
そう言うと澪さんと亜沙美さんは互いに微笑んだ。
なんか二人の関係ってすごくいいな……。
そう思いながら、続きも気になっていたので聞いてみる。
「それからどうなったんですか?」
「どこかの倉庫に連れ込まれて……」
そこで亜沙美さんが言葉を詰まらせ、澪さんを見る。
「そいつらあたし達を輪姦しようとしたんだよ」
澪さんの言葉に私は思わず口を押さえた。
「あたしはその寸前までいったけど……それでも亜沙美に嫌われたくないから『力』を使うこと出来なくて……」
「その時に私の元に赤い光が舞い降りたの。きっと澪を助けたい気持ちが通じたんだと思う」
そう言いながら、胸のポケットにしまっている小袋から『火のイヤリング』を出して見せてくれた。
「これのお陰で、澪は助かったんだよね」
「無事じゃないって。その時着ていた服、下着以外ぜ〜〜んぶ破かれたんだよ」
「でも処女膜は無事だったじゃない」
「処……って亜沙美、さっきから黙ってるから忘れてるかも知れないけど、夏樹やタカだっているんだよ」
「あ……あはははは……」
亜沙美さんは目を逸らす鷹代さんを見て乾いた笑い声を出す。
お兄ちゃんはと言うと、別にどうも思ってないみたい。
私と大人の関係だから当然かな?
「澪さんと亜沙美さんはそれから親友になったんですよね。なんか良いですよね」
その言葉に二人は少し照れた感じになった。
「さてと、最後はタカの番だからね」
澪さんは鷹代さんに話すよう促す。
「俺のは……聞いてもつまらないから……」
「良いから、話せ〜〜〜〜」
そう言うと素早く鷹代さんの後ろに回り込み、こめかみに拳を当てグリグリする。
「いたいたいたいたいたいたいたい〜〜って、話すからやめろって!!」
鷹代さんはむくれながら澪さんを引き離すと私達の方を見る。
澪さんも自分の場所に戻ると鷹代さんの話に耳を傾けた。
「俺は……当時、好きな娘がいたんだけど、その娘はクラス全員からいじめられていて……でも何も出来なくて……そうこうしていると彼女、屋上から自殺しようとしたんだ」
その話に私達は気まずい空気に包まれた。
鷹代さんもその空気を感じ取っているはずだけど、それでも言葉を続けた。
「なんとか助けたい……死なせたくない……そんな気持がこいつを呼んだんだろうね」
そう言うと胸元から『地のペンダント』を取り出した。
「結果的に飛び降りた彼女を俺はこの『力』を使って助けることが出来たんだけど、そのあと彼女は遠くへ転校したんだ。表向きは親の仕事の関係って言ってたけど……本当は違うだろうね。そして俺が荒れ出したのはその後すぐだ」
そこで鷹代さんは一息つく。
私達の間に重い空気が流れる。
なんて声をかけていいのか、私はもちろん、澪さんも亜沙美さんも分からない様子。
だけどその空気を破ったのは意外にもお兄ちゃんだった。
「本気で好きだったんだな」
「今となってはどうだったのか分からないけどな」
お兄ちゃんの言葉に鷹代さんは苦笑を漏らしながら言う。
「それにしても、澪や亜沙美みたいにもう少し明るく話せないか? 空気が重くなる」
「それは無茶というものだろう。第一、俺のイメージに合わないだろ」
「と言ってるけど、お三方どう思う?」
お兄ちゃんは私達に話を振ってきた。
「タカはもっと明るく話した方が良いね」
「内容が内容だから……でも確かに暗いよね?」
「お兄ちゃんの言っていることの方が正しい……かな?」
私達が口々に言うと、鷹代さんは肩を振るわせる。
「お前らなぁ……好き勝って言ってくれてるな……」
「まぁまぁ、落ち着け」
「お前が原因だろ」
「知らん」
「夏樹〜〜〜!!!」
お兄ちゃんは素早く立ち上がると逃げ出した。
そして鷹代さんもその後を追いかける。
その様子を私達女性陣は笑いながら眺めた。
「さすが夏樹だね。空気を元に戻したよ」
「そうだね。夏樹がいなかったらどうなっていたのかな?」
「私のお兄ちゃんなんだから当然のことですよ。やっぱりお兄ちゃんは格好いいですよね」
胸を張ってお兄ちゃんを自慢する私に二人は妖しげな笑みを浮かべてジッと私を見る。
「な、何ですか?」
「いや〜、その格好いいお兄さんとどの辺まで行ったのか聞きたくてね」
「え……どこまでって?」
「私は別にいいんだけど……」
「亜沙美も聞きたいよね」
「あ……はい」
「と言うわけで冬佳ちゃん、答えなさい」
二人が私に詰め寄る。
「長野の方へ……」
『行った』と言う前に澪さんがにこやかな笑顔で私の両肩を掴んだ。
「夏樹とタカのおいかけっこが終わるまでにちゃ〜んと話そうね」
「いえ、あの……その……」
「ね☆」
「だからぁ……」
もう私は泣きたい気分だった。
逃げたくても逃げられない。
頼みの綱のお兄ちゃんは鷹代さんとおいかけっこ。さらに亜沙美さんも澪さんの後ろでごめんのポーズを取ってる。
「誰か助けてよ〜〜〜!!」
「話してくれたら助けてあげる」
「うわ〜〜〜ん!」

結局、お兄ちゃんとのことを根掘り葉掘りとまでは行かないけど、さわりの部分を話す羽目になった。
本気で泣きたいよ。



Fin


<あとがき>
絵夢「今回は冬佳の視点で、『石』を手に入れる話でした」
恵理「リクエストをくれた皆さんは納得するかな?」
絵夢「さぁ?」
恵理「相変わらずアバウト(汗」

絵夢「しっかし、前回が冬佳が死んだ後の話で今回は生きているときの話。混乱する人は混乱しそうだね」
恵理「それを狙ってバラバラに書いてるんじゃないの?」
絵夢「当たり」
恵理「おいおい」
絵夢「それは半分冗談としても、時間の流れに関係なく書けるのがこのSSの良いところですから」
恵理「簡単にいえば好きなときに好きな物を書くという事ね」
絵夢「そういうこと〜」
恵理「ホント、分かり易いわ」

絵夢「そんなわけで次回はどうしようかな?」
恵理「まだ本編は書かないの?」
絵夢「秋まではちょっとね」
恵理「ここ夢2周年あわせではじめるの?」
絵夢「そんな感じ」
恵理「なるほど……ところで最近私出てないんだけど」
絵夢「……であであまた次回も見てみてくださいね」
恵理「だから私の出番……」
絵夢「皆さん、まったね〜〜」
恵理「……くすん」