NOVEL



ここは夢園荘 サイドストーリー

とある異常な日常


「はぁ……退屈……」
私は畳の上をごろごろ転がっている。
「ん〜〜そういえば何処にいちゃったのかな?」
姿が見えない同居人の気配を探ってみる。
案の定、中にはいない。
「あの娘、この時間になるといつも外みたい……何やってるんだろ」
今の時間はたぶん12時頃……だと思う。
思うというのは、ここに存在し始めてから時間なんて気にしたこと無いから。
ここには時間の流れと言う物が存在しないから……。


私は楓。
戦いで里が炎で焼かれていく中、冷たくなっていく焔様を抱きしめていた私は、煌玉を手に入れようと迫ってくる敵勢に対して風の力を暴走させた。
風は嵐となり周囲にある物すべてを吹き飛ばし、気づいたときには何も無かった。
嵐が過ぎ去った後には何もない荒れ野だけだった。
それが私が生きていたときに見た最後の風景。
力の暴走は私の命を吸い尽くしたようだ……。

次に気づいた時、、私は何もない空間にいた。
ここが風の煌玉の中だと私はすぐに気づいた。
風の煌玉の”意識”が私の中に入ってきたから……。
それから私は一人だった。
孤独で何度もおかしくなりそうになった。
そんな中でいつしか考えることを止めて意識を止めた。
どれほどの時が流れただろう、ある時、温かい意識を感じ目を覚ました。
それが早瀬夏樹との出会い。

それから私は彼と共に歩むことを決めた。
そう、焔様に雰囲気の似ている彼と共に……。
たとえそれが自分を慰めるだけの行為に過ぎないと分かっていても……。

夏樹さんと出会い外の世界の時間にして7年ほど過ぎた時、あの悲劇は起こった。
夏樹さんの最愛の妹、冬佳さんが通り魔に刺殺される事件。
私の時と同じように引き起こされる力の暴走。
私は止めようとしたが、煌玉に取り込まれた私には止める術はなかった。
『このままでは夏樹さんが死んでしまう!』
そう思った時、消えていく冬佳さんの意識を感じた。
最愛の兄を救いたいと願う心。
私は冬佳さんの魂を煌玉の内側に引き寄せ、力を封印して貰おうとした。
大きな賭けだった。
失敗すれば夏樹さんは死に、冬佳さんは私と同じ運命を背負うことになるから。

そして私は賭けに勝った。
冬佳さんの夏樹さんを守りたいという強い気持ちに煌玉が反応しその力を凍結したのだ。
それは彼女の心が力の封印となった結果だった。

それから私は孤独でなくなった。
冬佳さんと言う友達が出来たから……。


畳の上に置かれた大きめのちゃぶ台に腕を置き、腕を枕のようにして頭を置いた。

どうしてこういう物があるかと言うと、想像力でなんとでもなる物みたい(^^)
発見者は冬佳さん。
『夢みたいな世界なら強く念じれば出てくるはず!』
こう力説して本当に出してしまったの。
これを見た私は、これから絶対に飽きることは無いかもと思ったのは彼女には内緒。

「でも……本当に何処に行ったんだろう……」
姿が見えない同居人にため息をもらす。
「ただいま〜!」
噂をすれば何とやらでは無いけど、タイミング良く戻ってきた。
「お帰り」
「まだ起きてたんだ」
冬佳さんはちゃぶ台を挟んで私の真正面に座る。
「起きてたって言っても時間なんて関係ないし……」
「そんなこと言ってるとお肌が荒れちゃうよ」
「ははは……(^^;」
そう言う心配をする必要も無いと思うんだけどなぁ……。
「ところで何処に行ってたの? と言っても行くところ何て限られてるけど」
「知りたい?」
冬佳さんはまるでいたずらっ子のような笑顔を見せる。
「ちょっと気になったから……それにほぼ毎日だし……」
「実はね……」
「実は?」
身を乗り出して顔を近づけてくる。
私もそれにつられて身を乗り出す。
「ん〜〜どうしようっかな〜」
”ダンッ!”
思わず顔をちゃぶ台にぶつけてしまった……痛い……(;_;)
「楓さん、そんな古典的な反応をしなくても……」
「誰のせいよぉ」
「ごめんねぇ」
涙目で抗議するも全く通用してない。
この娘とつきあい始めて大分立つけど未だによく分からない(-_-;
「実はね、恵理の感覚と同調してたの」
「はい?」
「だから同調」
「同調っていわゆる取り憑くと言う感じ?」
「違うよ。私がしてるのは恵理が感じたことをそのまま私が感じることが出来るようにしてるだけ。だから恵理の意識はそのままだよ」
彼女の話は何となく分かるんだけど、やっぱりよく分からない。
「なんでそう言うことを……」
「それは、お兄ちゃんに抱かれている感じを感じたいから」
「……え?」
「最初はね、恵理の初めての時、あまりにも痛そうで可哀想だったから感覚的に同調して痛みを和らげてあげたの。でもそれがあまりにも良かったから、ちょっと病み付きに……」
てへへへへと照れ笑いする冬佳さん。
「な、何考えてるんですか!?」
「そんなに怒ること無いのに……」
私が大きな声で怒ったことでちょっとすねる感じで言う。
だけどそんなことは関係ない。
「怒るのは当然のこと。いくらかつて関係があったからと言っても、他人の秘め事を覗くなんて悪趣味です!」
「覗くんじゃなくて感じてるの」
「同じです!」
「それに他人じゃなくて、実のお兄ちゃんと義理の妹だよ」
「だから同じですっ!!」
「もう楓さんってば堅いんだから」
「堅いとかじゃなくて、常識的に言って……」
「とか言いながらも羨ましいとか?」
「え……そ、そんなわけ……」
思わぬ反撃に言葉がしどろもどろに……。
「もう言ってくれれば一緒に行くのに」
「冬佳さん! 私はそんな風には思って……」
「無いの?」
「そ、そうです」
「どもってるよ」
「気……気のせいです……」
私は正直言って自分に正直な冬佳さんが少し羨ましかった。
だからと言ってそれとこれとは別問題。
ここは毅然とした態度で……。
「そうだよね……」
その時、冬佳さんは急にまじめな顔で何か考えるように口を開いた。
「なんですか?」
「楓さんだって昔は好きな人に抱かれた経験だってあるだよね」
「な……!?」
「その人以外は絶対に嫌と言う気持ち分からなくはないもんね。私だってなんだかんだ言ってもお兄ちゃん以外は嫌だから」
「どうしてそう言う結論に達するんですか!?」
「だってそうなんでしょ」
「違います! 私が言いたいのは……」
「もしかしてまだ経験したことがない、とか」
ズバッと言い当てる冬佳さん。
私はさっきまでの勢いはどこかに行ってしまった。
「そ……それは……そんなわけ……」
私の脳裏に焔様が浮かぶ。
焔様と何度も結ばれることを夢見た少女時代。
そして守護者となった後も……。
それは叶わぬ夢だったけど……。
「あ……」
「な、何!?」
「楓さん、早速チャンス到来。さすがはお兄ちゃん、それに付いてく恵理もすごい」
「と、冬佳さん何を……」
何となく彼女が何を言っているのか分かるような気がした。
そしてそれは想像通りだった。
「よし楓さん、一緒に同調しよう!」
「だから私は……」
嫌がる私の耳元に冬佳さんは顔を近づけ、小声で「気持ちいいんだよ」とささやくと、ふっと息を吹きかけてきた。
瞬間、背筋に電気が走ったように感じた。
「だからって……」
「大丈夫」
そう言いながら笑みを浮かべる冬佳さんが鬼か悪魔のように見えた。
「さぁれっつご〜〜!」
「だから私は〜〜〜〜〜!!」
叫び声もむなしく引きずられていく私。

これが私の運命なの?
もしかしたら冬佳さんと出会った事って私の最大の不幸かも(涙)



Fin


<あとがき>
絵夢「ご愁傷様です」
恵理「あの……冬佳さんって一体」
絵夢「こういう娘なんだ」
恵理「薄々感じてたけど、ここまでとは……」
絵夢「だから、ここ夢最強なんだよ」
恵理「冬佳さんに比べたら私の暴走なんて可愛いものだよね」
絵夢「児戯に等しいな」
恵理「あはははははは……」
絵夢「そういうわけだから、一緒に楓の無事を祈ろう」
恵理「もう手遅れのような気がするけど、そうしましょう」
絵夢&恵理「なむ〜」

絵夢「ではまた次回も」
恵理「お楽しみに〜」