NOVEL



ここは夢園荘 サイドストーリー

風の心(エピローグ)


時間は夜9時過ぎ。
私達は夕飯のあと小休憩して温泉に入り、浴衣姿のまま遊技場(?)で卓球で遊んでいた。
鷹代さんと卯月、空とみなもとそれぞれペアになってのダブルス戦。
私はと言うとじゃんけんで負けて審判をしてるの。
で、夏樹さんはと言うと……何処に行ったのかな?

「鷹代さん」
「ん?」
「こう遊びながら聞くのも何ですけど、なんで卓球なんですか?」
「お約束と言う奴かな?」
「「「お約束って」」」
「高志さんってお約束を守る人なの」
「お約束は大切だぞ。すべての基本なんだから」
「「「「はぁ」」」」
何故か力説する鷹代さんに私達は曖昧な返事をした。

「ところで鷹代さん、夏樹さんはどこだか分かりますか? 夕飯が済んでから全然姿が見あたらないんですが」
「ああ、小島さん達と話してたみたいだよ」
「もしかして夕方の……」
「確かにあれはちょっとやりすぎたかもね」
「でも恵理さんにしたことを考えたら当然です」
「「あんた(みなもちゃん)が一番やりすぎ」」
「卯月さんに姉さん、二人同時に言わなくても……一応反省はしてるんですよ」
みなもちゃんは二人に言われてシュンとしてしまった。
私の為にやってくれたんだからちょっと可愛そうかな(^^;
「ところでみなもちゃん、あの縛り方って何処で覚えたの?」
「えっと、里亜さんのところに用事で伺ったとき、テーブルの上に置いてあった本に図解付きで詳しく書いてあったんです」
「「「………………………………」」」
その言葉に私以外の3人は絶句してしまったみたい。
でも私にはなんのことだかさっぱり……。
「あの二人ってそんなディープなことやってるの」
「と言うことだよね……奥が深い……」
「勉強になりますよ」
「「しなくて良い!」」
「う〜〜」
「俺はノーコメント」
4人は口々に言うけど、やっぱり私にはさっぱり。
「ねぇどう言うことなの?」
すると4人は一斉に私を信じられないと言った様子で見る。
「な、何なの?」
「本気で言ってるの?」
「だって、分からないから……」
「恵理さん、私でも知ってるんですよ」
「みなもちゃんまで〜」
「恵理、SMって知ってる?」
「SM……………あっ!」
私は顔が真っ赤になるのが分かった。
なるほど……そう言うことなんだ。
「はぁ……知らなかったとは思わなかった」
「でも言葉だけは知ってるんだから良いんじゃない?」
「そんな風に言わなくても良いじゃない!」
顔を真っ赤にしたまま抗議する私。
だけど二人には全く通用しない……当然か……悔しい!
「ところで恵理ちゃん、話を戻すけど。様子を見たところみんなが危惧するようなことにはなってなかったようだよ」
「高志さん……一人だけ冷静でいないで欲しいんですが……」
「これが俺の持ち味だ」
卯月をはじめ私達はため息をもらした。
この状況下で一人だけ流されないと言うのは凄いことなんだろうけど、場の流れをよんでほしいなぁと希望してしまう(^^;
だけど……。
「本当ですか?」
「ああ、むしろ小島さん達が謝って、夏樹が困り顔をしてたからな」
「そうなんだ……良かった……」
思わず安堵の息をもらす。
「だけどそのあと何処に行ったのか……」
「そういえば私達がここに来る少し前に温泉の方に歩いているのを見ました」
みなもちゃんが思い出したように言う。
「温泉?」
「はい」
「そう……なの……」
温泉だと男女別になってるし、側にいること出来ないな……聞きたいことあるのに……。
「たぶん、小島さん達に捕まってて今頃になったんだな」
「大変だね、夏樹さんも」
「そうだ、恵理。どうせ私達しかいないんだし、混浴してきちゃったら」
「え!?」
「まぁ問題ないか」
「そうですよね。夏樹さんとはいつも一緒に入ってるんですよね」
「いつもって訳じゃ……」
「そうと決まったら早く行って来なよ」
「そうそう早く行かないと夏樹さんが出ちゃうよ」
空と卯月はそう言いながら私を遊技場から追い出すように背中を押す。
「ちょっと、二人とも!!」
「「「「いってらっしゃ〜〜い」」」」
私の抗議もむなしく、廊下まで押し出すと4人とも笑顔で送り出す。
「あのねぇ(^^;;」

私は『男湯』と書かれたのれんの前で立っていた。
確かにお風呂にはほぼ毎日一緒に入ってるけど、だからって状況が違うよ。
などと思いながらのれんを右手で上げると、そっと中の様子を伺う。
脱衣所には夏樹さんの着ていた浴衣が籠に入っていた。
そして竹で作られた壁の向こう側から夏樹さんの鼻歌が聞こえてくる。
「良かった。まだ入ってた……」
周囲に誰もいないことを確認するとそっと中に入っていき、浴衣を脱ぐと夏樹さんと同じ籠に入れ、一応タオルで前を隠しながら壁の向こう側を覗くように見る。
するとこちら側に背を向ける形で周囲の石にもたれかかっている姿が見えた。
私は気づかれないように半ば脅かすつもりで近づいていく。
そして後一歩まで近づいたとき……。
「ここは男湯だぞ、恵理」
「!」
ビックリして動きが止まってしまう私。
そうじゃないかなぁと思っていたけどやっぱり気づかれてたのね(^^;
夏樹さんは頭だけをこちら向け微笑んでいる。
「どうしたんだ、固まって?」
「意地悪……」
「混浴じゃないのに入ってくる方が悪い」
「う〜〜〜」
「そんなところでうなってないで、入ったらどうだ?」
「うん」
促されるまま私はお湯につかると、夏樹さんに背を預ける形でもたれかかる。
するといつものように後からお腹の当たりに手を回して抱き留めてくれた。
「広いんだからくっつくこと無いのに」
「いいの。意地悪したんだから」
「仕方ないなぁ」
そう言いながら何か嬉しそうな声。
私もこうしてると安心して嬉しいから良いんだけどね。
「ところで何か聞きたいことでもあるのか?」
「え……分かる」
「顔に書いてある」
「そっか……この指輪のこと教えて欲しいの」
「指輪のこと?」
「うん。あのね今日、冬佳さんに会ったの」
「冬佳に?」
「指輪の力で実体化した冬佳さんと話することで私強くなるって決心したの」
私は林の中での冬佳さん……じゃなかったお義姉さんとの事を話した。
夏樹さんは時折頷きながらじっと話を聞いてくれた。
そして話し終えたとき……。
「そっか……あいつ、そんなことを言ってたのか……」
「うん」
「これで恵理の口から冬佳の名前が出たことの疑問が解けたよ。まったくあいつらしいな」
苦笑いをしながらそう言う。
「驚かないの?」
「まぁな……」
すると湯船の中の私の左手を目の前にかざすように自分の左手で持ち上げ、真剣な眼差しで指輪を見つめる。
「この指輪のこと……風の石の事、俺の知ってることを話すよ」

その内容は私の想像もしていなかったことばかりだった。
風の石は人の思い、誰かを守りたいと願う心に反応すると言うこと。
その内に無念の内に亡くなった楓さんという少女が精霊となってが宿っていること。
そして冬佳さんもその一部になったということ……。

「人の心をその内に宿らせた石……それがこの風の石なんだ」
「そうなんだ……」
私はそれ以上言葉が出なかった。
そして二人の間に沈黙が流れる。
どれくらいの時間が流れたんだろう……。たぶん時間にしてみれば大したこと無かったんだろうけど、今の私には1分でも1時間ぐらいに感じられる。
そして私はその沈黙が耐えられず口を開いた。
「これ、夏樹さんに返す」
「いきなりどうしたんだ?」
「だってこれって夏樹さんにとって大切な物なんでしょ」
「かもしれないな」
「だったら……」
「だけどそいつは恵理にずっと持っていて貰いたいんだ」
「でも……」
「指輪を渡すときに言ったよな。『一緒に俺の気持ちも受け取って欲しい』と」
私はあの日、病院で交わした告白を思い出した。
「石は人の心を宿らせる力があるんだ。だったら15年以上の身につけていた俺の心が宿っていてもおかしくないだろ」
「夏樹さん……」
「好きだから渡したんだ」
「だけど……」
私は視線を左手の視線に落とす。
『もう、じれったいなぁぁ!!』
「「!?」」
湯船の上に小さな竜巻が起こり、その中から冬佳さんが姿を現した。
突然の事に呆然とする私達。
「恵理! お兄ちゃんはね、あなたのことが好きだからこそ風の指輪をエンゲージリング……ってたぶんお兄ちゃんのことだからマリッジリングと混合してるんだろうな……ってそんなことはどうでもいい。とにかく私が言いたいのはそう言うつもりで渡してるって事」
「はぁ……」
「それからお兄ちゃん、不器用過ぎ! そう言うつもりで渡す指輪に風の指輪を贈るからややこしいことになるんでしょ! あとでちゃんとした奴をあげなよ。そうじゃないと恵理が可哀想でしょ」
「あ、ああ……」
「もうとにもかくにも、二人とも愛し合ってるんだったらしっかりしてよ。私が言いたいことはそれだけ、じゃね」
「「はい」」
そして冬佳さんは捲し立てるように言いたいことだけを言って姿を消した。
「……なぁ恵理」
「うん」
「夕方出てきたときもあんな感じだった?」
「うん」
「本当に変わってないんだな」
「うん」
「ふ……ははは……」
「はははは……」
私達は互いに顔を見合わせて笑いあった。
「ねぇ夏樹さん。この指輪大切にするね。だってこれはエンゲージリングなんでしょ。だから結婚するときはちゃんとマリッジリングを贈ってね」
「ああ、でもエンゲージとマリッジって違うんだ」
「婚約指輪と結婚指輪だから全然違うの」
「そうなんだ」
なんか感心したような勉強になったって様子の表情……本当に冬佳さんの言うとおり混合してたんだ。
夏樹さんらしいと言えば夏樹さんらしい……のかな?(^^;
私はもたれ掛かっている夏樹さんから体を起こすと、振り向き夏樹さんの正面に座る。
「これからもお願いします」
湯船の中だけに三つ指ついてお辞儀って出来ないけどね。
「こちらこそ頼むな」
「うん!」

それから私達が温泉から出たのは1時間ぐらい経ってからだった。
さすがに出たときは少しのぼせ気味だったけど、それ以上に気分天国。
え、そんなに何をしてたかって?
それは内緒だよ(*^^*)

この一件でさらに深い絆で繋がった私と夏樹さん。
そのことで空や卯月、みなもちゃんにさんざん冷やかされながらも、そのことが気持ち良かったのも正直なところ。


そして長いようで短かったこの旅行も最終日。
ロビーで私達と小島夫妻が別れの挨拶を交わしてた。
「皆様、うちの孫が本当にご迷惑をおかけしました」
「そのことはもう良いですよ。すでに済んだことですし、それにこちら側も雪には酷いことをしてしまいましたし。お互い様と言うことで……」
雪さん? 忘れてたけど、そう言えばあれから姿を見てないような……。
私達のこと避けてたのかな?
……当然か(^^;
「樋山恵理!」
通路の向こう側から私を呼ぶ声。
噂をすれば何とかと言うのかな?
その声は雪さんだった。
「こら雪……」
「証拠にもなく……」
「ストップ!」
夏樹さんが行動を起こそうとした全員を右手を上げ制止する。
ありがと、夏樹さん。
私は雪さんをしっかりと真正面で見る。
「何ですか?」
雪さんは唇をかみしめ、何か言葉を選んでいるようだ。
そして……。
「夏樹くんと幸せになりなさいよ! じゃなきゃ許さないからね」
思いがけない言葉。
雪さんってなんだかんだ言いながら結局はいい人だったんだ。
私は一瞬きょとんとしてしまったけど、すぐに最高の笑顔でこう言った。
「もちろん!!」



Fin


<あとがき>
絵夢「終わりました」
恵理「ご苦労様〜」
絵夢「冬佳、再び登場、と言うわけで二人の愛のエンジェルと言ったところでしょう」
恵理「そうなの?」
絵夢「他に言いよう無いし。でもこれでしばらく出る予定がないので安心です」
恵理「何で?」
絵夢「理由は聞くな」
恵理「はぁ(^^;」

絵夢「そう言うわけでまた次回も」
恵理「よろしくです」
絵夢「では」
絵夢&恵理「またね〜」