ここは夢園荘 サイドストーリー
インターバル 『空の気持ち』
「恵理!!」
ロビーから突然に外に走っていく恵理を呼び止めようと叫んだ。
だけど、全然聞こえてないらしく、止まる気配なし。
「卯月、あの娘追いかけるから、あとお願い」
「ちょっと待って」
後を追いかけようとする私は卯月が止める。
「何よ! 早くしないと見失っちゃうよ」
「もう手遅れ」
「え?」
「それにああなったら夏樹さんに頼んだ方が良いよ。みなもちゃん、夏樹さんを呼んできて」
「みなもって……いつからそこにいたの?」
いつの間にかみなもが卯月のやや後に控えるように立っていた。
「最初からいたけど……姉さん、私のことに全然気づかなかったんですか?」
「ごめん、恵理のことで夢中で全然気づかなかった」
みなもは軽くため息を付いた。
「ま、良いですけど……夏樹さんを呼んできます」
「呼んだか?」
その時、夏樹さんが鷹代さんと一緒に階段を降りてきた。
タイミングが良いというか悪いというか……悪いんだよね。
そんなことで文句を言ってもしょうがないし、今は恵理のことがあるから、手短に事情を話すことにした。
数分後……。
「分かった」
一言そう言うとあの女を無言で睨んだ。
あの女は気まずそうに視線を下にそらしてその場に立ちすくんでいる。
「夏樹さん、私達も一緒に探しに行きます」
「ここは俺とタカの二人で行く。空達はここで待機しててくれないか。俺達よりも先に恵理が戻ってきたら携帯に連絡して欲しいから」
「分かりました」
「じゃ、頼むよ。タカ、行くぞ」
「おお」
「行っちゃったね」
「そうだね」
「どうする?」
「とりあえずやることは一つか」
「そうだね」
まるで他人事のように無感情に会話を交わす私と卯月。
そして未だに立ちすくんでいるあの女の方を向く。
「な、何よ。……あの女がいけないのよ! 私は小さいときからずっと夏樹くんの好きだったの。でもあの時は冬佳ちゃんの事ばかり見てて、『このシスコン』って思ったこともあったけど、でも好きだったから……で、冬佳ちゃんが死んで次は私が見てもらえると思ったら今度はあの女が……」
「言いたいことはそれだけ?」
「私達の親友を侮辱するの許せないんだよね」
「だから何よ」
「夏樹さんの事が好きで恵理に嫉妬してたと言うのは分からなくもないけどね。私も夏樹さんのことが好きだから……。だけどそれと同じぐらい親友として恵理のことが好きなんだよね。だから恋に破れた今も私は夢園荘にいる。二人のことが自分でもどうしようもないぐらい好きだから。それでも夏樹さんを好きだという気持ちは今でも変わらないから、時々ちょっかいかけて恵理に怒られたりするけど、……だけどあんたみたいに卑怯な手は使わない。あんたみたいに恵理を傷つけることはね!!」
私は思ってること一気に言う。
「空の言うとおり、あなたは誰よりも弱い恵理の心を傷つけた。だからそれ相応の報いは受けて貰います」
私達はあの女にじわりじわりと近づく。
女は後ずさって行くが、すぐに壁に遮られる。
「二人とも! 今はそんなことをしてる暇は無いはずです!」
さぁこれからと言うときに突然にみなもが私達を止める。
「その人をどうにかするのは後でも出来るはず。それよりも今は、恵理さんがいつ帰ってきても良いように玄関で待ってるべきじゃないんですか?」
あまりに当然のことであったが、目の前のにっくき女のためにそのことを失念してことに気づき言葉を失う。
「それは……」
「確かにそうだね……」
「分かったら玄関の方に行く」
「「分かりました!」」
私達は女から離れると玄関の方に向かった。
その時、みなもだけは女の側から動こうとしなかった。
「あれ、みなもも早く」
「先に行っててください。これが逃げないようにしないと行けませんから」
「? うん、分かった」
私は先に行ってる卯月の側に行こうとした。
その時、背後から小さいけどはっきりとした、そしてやや低い感じの声が聞こえてきた。
「助かったと思わないでね。恵理さんにもしもの事があったら、あの二人以上に何するか分からないから……」
その声に足を止めこっそりと振り返ると……みなものその表情はとても冷たい物だった。
私はそれを見なかったことにして卯月の側に寄っていった。
「どうかしたの?」
卯月は私の様子がおかしいことに気づいたみたい。
「どうもしない……」
「そう……ならいいいけど。早く帰ってこないかな」
「そうだね……」
「空、変だよ?」
「だ、大丈夫だから」
「そう?」
「そうそう(^^;」
「?」
卯月は納得してない顔をしてるけど、さっきのみなもの様子を話せる分けないじゃない。
あのことは私だけの胸にしまっておいて、早く恵理帰ってきて〜〜〜ってそう言えば……。
「ところで恵理は何で走って行っちゃったんだろうね」
「前にも一度似たようなことがあったの」
「そうなの?」
「うん」
「だけど……」
「実は以前、そのことで本人に聞いたことがあるの。そうしたら、心が強く痛みを感じることが長く続くと、自分でも何がなんだか分からなくなって走り出しちゃうんだって……。『パニック症候群みたいなものかな』って言ってた。結局、あの娘は誰よりも弱いのに何とかして強く生きようとしてるんだよね。だから今回みたいに強いショックを受けるとその部分が表に出てしまうと言う事みたい」
「………そうだったんだ」
私は卯月のその告白に強いショックを受けた。
私の中の恵理のイメージは夏樹さんのことになると目の色が変わるけど、だけど優しくて、誰からも好かれる頼りがいのある娘。だから今回の事も信じられないと言うのが正直な所だった。
でも、さっき卯月は恵理のことを『誰よりも弱い』と言ってたのはそう言うことだったんだと今理解できた。
「知らなかった……私今まで……」
「空……その上で私達に出来ることは、冷たいようだけどいつも通りに付き合うことだよ」
「え……?」
「そんな思い詰めた顔してたら、恵理が悲しむよ」
「だけど……」
「恵理から話を聞いたとき、私も今の空と同じような感想を持って暗くなっちゃったの。そうしたらあの娘何て言ったと思う? 『そんな暗い顔されたら私が困る』だって、あの娘らしいと思わない?」
卯月はその時の事を思い出したように微笑んだ。
「そっか……そうだよね。今の話はここだけと言うことにして、私は隙があったら夏樹さんにモーションかけるんだ」
「そして恵理に怒られるんだよね」
「言ったなぁ」
「本当のことでしょ」
「もう」
「ふふ……」
「ははは……」
私達は互いの顔を見合って笑い出した。
そして一通り笑うと暗くなっていく外に視線を移す。
「早く帰ってくると良いね」
「そうだね」
「そうしないとみなもがあの女をどうにかしちゃいそうでちょっと怖いんだ」
「みなもちゃんが? そんなわけ無いじゃない」
「私もそう信じたい」
「?」
卯月は不思議そうな顔をしているが、私はさっきのみなもの冷たい表情を思い出して身震いした。
続く
<あとがき>
絵夢「何となく空の視点で書くのって久々のような気が……」
恵理「気のせいでしょ」
絵夢「そうかな?」
恵理「そう言うことにしときましょ。ところでみなもちゃんって本当は凄く怖い娘?」
絵夢「普段おとなしい娘に限ってと言うことでしょうね」
恵理「はぁ……ここ夢キャラで怒らせちゃ行けない娘No1かな?(^^;」
絵夢「そうだね」
恵理「でも私ってみんなに凄く大切にされてるんだなぁって、う〜〜ん感激」
絵夢「お前じゃなくて、ここ夢の恵理がだろ」
恵理「そんなのはどっちでも良いの」
絵夢「はいはい……それでは次回『風の心(後編)』を」
恵理「お楽しみに〜〜」