NOVEL



ここは夢園荘LastStory
BEGINNING

エピローグ


お盆も過ぎたある夏の日。
”ピンポーン”
夢園荘101号室のチャイムが鳴る。
「は〜い」
リビングでくつろいでいた恵理は大きな声で返事をすると、大きなお腹に気をつけながら立ち上がり、玄関の所まで行きドアを開けた。
そこには空とみなもがケーキ屋の小箱を持って立っていた。
「二人ともどうしたの?」
「一緒に食べようと思ってケーキ買ってきたの」
「恵理さんがここのケーキが好きだって言ってたから買ってきたんです」
「ありがとう、上がって」
「「は〜い」」
二人が部屋に上がり、リビングにはいると赤ちゃん関係の物が増えていることに少し驚いた。
「確実に増えてるね〜」
「お義父さん達が送ってくるの。向こうだっているのにね……いま、麦茶入れるね」
「私やるよ」
「え、でも……」
「良いから良いから。恵理は向こうで待ってて」
台所で飲み物の準備をしようとした恵理を空が止めた。
恵理も空の気持ちが分かり、それに従いみなもが待つリビングに戻り座った。
「ところで向こうって?」
三つのコップに麦茶を注ぎながら、先ほどの恵理の話の続きを聞いた。
「言ってなかったっけ? 4月の始めにお義母さんに女の子が生まれたの」
「そうなの?」
「恵理さんのすごく年の離れた義理の妹さんになるんですね」
「そうなるね。そしてこの子にとっては叔母さんになるんだよね」
「生まれてすぐに叔母さんって言うのもなんだかねぇ」
コップをお盆に乗せて持ってきながら空が言う。
「ところで名前は何て言うの?」
「春香ちゃんって言うの」
「4月に生まれたからですか?」
「春って付くぐらいだからね」
「きっとそうだと思うよ。夏樹さんが夏に生まれてるから……」
「「………(^^;」」
空もみなもも冗談のつもりで聞いたことだったが、本当のことらしく思わず言葉を失う。
「夏樹さんもその名前を聞いたとき、『やっぱりか』って言ってたもん」
「「そ、そうなんだ……(^^;」」
「そだ、二人が折角買ってきてくれたケーキ食べようよ」
「そうだね。っとフォーク持ってくるの忘れた」
「それなら私が……」
「恵理さんは座っていてください。私が持ってきます」
「少しぐらい動いた方が……」
「良いから良いから恵理は座っててよ」
「う〜〜〜」
恵理は思い通りに動けないので、ちょっと不満気味になる。
とは言っても二人の気持ちも分かるので何とも言えない彼女であった。
みなもがフォークとお皿を持ってくると、空がそれぞれにとりわけ食べ始めた。
「ところで夏樹さんは?」
「今日もお仕事なの」
「盆明けの日曜日なのに?」
「うん、今日は打ち合わせって言ってた」
「そうなんだ」
一緒の会社なのに自分が休んでいるときに仕事してるなんてと少し悪い気がしていた。
「で、空は今日は休みなの?」
「うん」
「姉さん、今デザイン部にいるんです」
「製品開発部の試作課って言ってなかった?」
「最初はね。でも夏前にいきなり田所主任からデザイン部の一課に行くように言われたの」
「へえ……ところで一課って何?」
「えっと分かり易く言うと婦人服を専門にデザインする所だね」
「だったら今は作るよりもデザインする方がメインなんだね」
「まぁやりたいことと微妙に違うけどね……」
「でも頑張ってね」
「うん」
空は複雑な顔で頷く。
「恵理さん、話変わりますけど、いつ生まれる予定なんですか?」
みなもが話の方向を変えようと身を乗り出して聞いてきた。
「んっとそろそろかな?」
「だったらここにいないで、病院にいた方が良いんじゃないの?」
「そうなんだけど、病身だって歩いて40分程度の所だし、家にいた方が落ち着くし……」
「だからってねぇ……」
「あははは……っ!」
恵理は空の呆れた様子に笑って誤魔化そうとしたとき、突然痛みが走りうずくまる。
「「恵理(さん)?」」
「空……救急車……」
痛みに耐えながらなんとか言葉を繋ぐ。
「え!?」
「お願い……」
「分かった。みなも、美亜を呼んできて!」
「え?」
「あの娘の車を使った方が早いから、早く!」
「あ、うん」
みなもが外に出ていくのを見ると、空は恵理の額に浮き出た汗を手元にあったタオルで拭いた。
「大丈夫だからね」
「空……ごめん……」
「謝ること無いよ。後は私達に任せて」
「うん……」
痛みに耐える恵理の姿に空は一所懸命に励ます。
そこにドアを思いっきり開けてみなもと一緒に美亜と里亜が入ってきた。
「生まれそうだって!」
「そうなの。だから車をお願い」
「うん、分かった」
美亜はそう言うと裏の駐車場(と呼んでいる場所)に停めてある車を取りに行った。
そして時間にして1分前後で車を夢園荘の前に着けると、美亜を除く3人で恵理を車に乗せた。
空は付き添いとして一緒に付いていくことにして、里亜とみなもに夏樹に連絡を取るよう指示した。
「二人ともお願いね」
「了解!」
「姉さんもね」
「分かってる。美亜、安全運転で捕まらない程度に急いで!」
「空も無茶を言うね。でも任せておいて」
美亜はギアを入れると一気に走り出した。
急発進とは言わないが、その発進を始め病院までの運転に空は「この娘の運転には二度と乗らない」と心に誓った。
なお、恵理はそれどころじゃないため全然分からなかったらしい。


分娩室の前で空と美亜が待っていると、みなもと里亜が高志と卯月を連れてやってきた。
「もうすぐ生まれるんだって?」
「空、恵理は大丈夫なの?」
「ちょっとなんで二人が?」
来ていきなり詰め寄られて混乱する空はみなもと里亜に聞いた。
「あの後、夏樹さんに連絡取ろうとしたんだけど、二人とも番号が分からなくて」
「それでノルンまで……」
「二人から事情を聞いて、夏樹には俺から連絡を入れた。それで恵理ちゃんは?」
「大丈夫なの、ねぇ空」
さらに詰め寄る二人に落ち着けとばかりに押し返す。
「ちょっと落ち着いて! 恵理は大丈夫だから……」
「それなら良いんだけど……」
「二人とも慌てすぎ」
「「あ、あははは……」」
照れ隠しに笑う二人。
その時、空はこの夫婦も似た者同士だと思った。

夏樹と恵理が3月に結婚すると、まるでそれに即発されたかのように4月の終わりに高志と卯月も結婚した。
この結婚も同棲の時同様、卯月が半ば強引に押し切ったと言う形になったのは言うまでも無い。
なお、余談だが亜沙美と澪が主催した賭け−『どっちのカップルが先に結婚するか』は、夏樹達に賭けた澪達の勝利となったが、そのことが夏樹と高志の耳に入り、二人は二次会でえらい罰ゲームを受けることとなった。
さらに蛇足だが、この直後に『子供が生まれるのはどっちが先か』と言う賭けを懲りずにやろうとしたが、これは夏樹と恵理が出来ちゃった婚だと言うことを知り企画段階でつぶれた。

「鷹代さん、夏樹さんは?」
「すぐに来るって言ってけど、本社からだろ……だから時間が掛かると……ってなんでもう……」
高志の視線の先……廊下の向こう側に夏樹の姿があった。
「夏樹さん!?」
「みんな、ありがとう。恵理はまだ中か?」
「そうだけど……」
「お前、本社じゃなかったのか?」
「え、違うよ。仕事ではあるけど、H.I.Bじゃなくて詩の関係で出版の人との打ち合わせだから駅の反対側にいたんだ」
「「「「「「………」」」」」」
全員言葉を失う。。
事情を知る者は「そう言えばこいつはこういう事もしてたんだ」と思い、事情を知らない物は頭に?マークが飛び交っている。
「なに?」
「いや、何でもない……だけどそれならそうと電話で言ってくれれば……」
「言おうとする前に切ったのは誰だ? しかもその後携帯に何度コールしても出ないし……お前、慌てて携帯忘れたろ」
「あ………」
高志は一斉に全員の視線に晒され、小さくなった。
「ま、いいよ。ところで恵理が入ってどのくらいだ?」
「1時間ぐらいかな……」
その問いに空が答える。
「そうか……」
夏樹は分娩室の扉をジッと見た。
そして目を閉じ神経を集中し、恵理がいつも身につけている『風の石』を感じた。
それから(恵理、頑張れよ)と『風の石』へと念を送った。
後ろではジッと立つ夏樹に誰も声を掛けることが出来ずにいた。

それからどれくらい時間が流れただろう。
分娩室から赤ん坊の泣き声が聞こえた。
「生まれた」
夏樹が目を開け小さくつぶやく。
その後ろでは喜びで騒いでいた。
「やったな、夏樹」
高志が夏樹の肩を叩きながら祝いの言葉を掛ける
それに続くように空達も口々に「おめでとう」と言っていく。
夏樹は一人ずつに「ありがとう」と返す。
全員の祝福に夏樹は少し照れていた。
しかし喜びはこれで終わらなかった。
最初の泣き声から数分後、泣き声がもう一つ増えた。
そのことに全員戸惑い、それがどういう事なのかすぐに理解した。
「「「「「双子だぁ」」」」」
女性陣は声をそろえて言う。
彼女たちは再び夏樹に祝いの言葉を掛ける。
夏樹はだんだんどう対応して良いか分からなくなり、照れ笑いをするだけだった。

生まれた子供達は共に女の子で新生児室へと入り、恵理は病室へ運ばれた。
夏樹は最初新生児室の自分の娘達を見てから恵理の病室に行った。
そこでは高志達から祝いの言葉を受け取る恵理の姿があった。
母となった恵理は優しい微笑みで返していた。
それから病室と新生児室を行ったり来たりして看護婦に怒られる面々であったが、夏樹達には彼らの思いがとても嬉しかった。

夕方になり高志達が帰り、二人きりになる。
夏樹はベッドの横に置いてある椅子に座り恵理を見つめる。
「ありがとう恵理」
「え?」
「この場合、何て言って良いのか分からないけど、でも元気な子供達を生んでくれたから、ありがとう」
「それを言ったら私も夏樹さんにお礼を言わないと駄目だね。夏樹さんがいたからあの娘達を生むことができたんだもん。だから私からもありがとう」
「なんか変だな」
「そうだね」
病室に響く二人の笑い声。
「しかし、明日はもっとにぎやかになるだろうな」
「そうだね。みんなして押し掛けてくるだろうし、大変かも」
「その時はその時ってことで」
「そうだね。あ、今日の打ち合わせの方は……」
「それは大丈夫だよ。実は事情を話したらその人がタクシー呼んでくれたんだ」
「そうなんだ。じゃあその人にもお礼を言わないとね」
「また来週会うことになってるから、その時にね」
「うん……あ……」
恵理はフッと考える仕草をする。
「?」
「あのね私、あの娘達を見たときに思いついた名前があるの」
「名前?」
「うん、聞いてくれる?」
「それは奇遇だね」
「え?」
「実は俺もあの娘達の姿を見てすぐに思いついた名前があるんだ」
「そうなんだ」
「うん」
二人は互いを見つめ合う。
「一緒に言ってみる?」
「私の勘だと同じような気がするよ」
「そうか?」
「うん、絶対に」
「だったら、せ〜ので言ってみよう」
「分かった」
「「せ〜のっ………」」




































命名

長女 早瀬 楓

次女 早瀬冬佳




































A tale is finished and a new tale starts.




<あとがき>
絵夢「無事完結です。長い間ありがとうございました」
恵理「これで終わっちゃうの?」
絵夢「まだサイドストーリーは続けるのでご心配なく。それに新シリーズも……」
恵理「そうだよねぇ、LSだけでも伏線はり放題だもんね」
絵夢「近い内に発表できるかな?」
恵理「がんばれ〜」

恵理「名前ってやっぱりあの二人からなんだ」
絵夢「そう言うこと」
恵理「一見別の話に見えた青風とエアの話もLS全体からそれも含めて一つだったんだ」
絵夢「そしてLSのもう一つのタイトル『BEGINNING』の本当の意味、新しい世代の誕生」
恵理「そうか……」
絵夢「ここからすべてが新たな物語が始まるってことで」
恵理「そうだね」

絵夢「ではまた近い内にお会いしましょう」
恵理「次ってSSになるのかな?」
絵夢「その予定」
恵理「それではまたその時まで」
絵夢&恵理「またね〜」




<全体を通じて……>
長い間本当にありがとうございました
「ここは夢園荘」シリーズは10月の頭から初めて半年間でしたが、まさかこんなに続くとは思ってもいませんでした。
最初は「私のオリキャラを使って遊ぼう」という思いつきから始めた小説だったので最初の数話はノリだけでした(^^;
でも恵理がヒロインとなってから、夏樹と恵理という二人を軸に『物語』を進めることができて本当に良かったと思ってます。
とは言ってもまだまだ未熟で全体を通すと矛盾がいくらでも出てきそうで、笑うしかないかなと言う感じかな?

本編はこれで完結しますが、まだ外伝と位置づけているサイドストーリーはまだ続けます。
時間的には本編とLSの間の話を書いていく予定です。
時々時間がぶっ飛ぶかも知れませんが、それはご了承下さい。
でも登場キャラの位置づけなんかで分かると思いますが……どうでしょう(^^;

さてあとがきでも触れた新シリーズですが、設定をまとめたいので少し間を開けます。
それがまとまり次第発表と言うことで、そちらもどうぞお楽しみに。
(実は頭の中では初めと終わりはほぼ完成してたりする(^^;)

それでは最後に、「ここは夢園荘」を最後までお読み頂きありがとうございました
これは一応の完結と言うことでこれからもまだまだ続きますので、これからもどうぞよろしくお願いします。

絵夢なつき
2001/04/13