NOVEL



ここは夢園荘LastStory
BEGINNING

第14話


桜の花が咲き誇る山道を旅姿の男女が歩いていた。
それはカムイの里で青嵐と空と名乗っていた二人−青風とエアであった。
彼らは『守護者』の引継も終わり、里も安定したことを見定めると、自分たちの為すべき事が済んだと里を後にしたのだ。
旅の表向きの理由は修行と言うことになっている。
そう言うことにしないと納得してもらえそうに無かったことから思いついたでたらめでもあるが……。
そして里を旅立って一年が過ぎようとしていた。
「もう一年になるのか……」
桜を見上げ青風がつぶやく。
「私達が里を出てから?」
「ああ……」
「もしかしてホームシック?」
どこか懐かしそうな顔でつぶやく青風にエアがからかいの言葉を入れた。
「俺が? そんなわけあるわけないだろ」
「そうだね。青風ってそう言うのとは縁がない人だもんね」
「お前なぁ……」
やや呆れ気味に軽く溜め息をつく。
「そう言うお前こそどうなんだ?」
「私? 私は……青風がいるから全然オッケ〜!」
明るくピースサインを出す。
「はいはい」
「あ、ひっどぉい。そう言う態度を取ること無いのにぃ」
口を尖らせながら抗議する。
先ほどからコロコロと表情を変えるエアに青風は思わず苦笑を漏らす。
神となってから時間と言う言葉が意味を為さぬほど長い時を過ごしてきた彼らだが、いつまで経っても人間くささは抜けきっていなかった。
彼らは人であり続けようとしているのかも知れない。
「だけど……そうだな……。ここからなら普通に歩いても半日も掛からないだろうし、寄ってみるか?」
「ホント?」
「遠くから眺めるだけなら問題は無いだろうし」
「やったぁ!」
両手を上げて喜ぶ。
「さっきと言ってることが違わないか?」
「それはそれこれはこれ。楓ちゃん、元気でやってるかなぁ」
エアの心はすでにカムイに飛んでいるようだ。
「焔達もいるし、なんとかやってるんじゃないか?」
「でも私達がいなくなった為に、また虐められてたらどうしよう」
「まぁ、その時はその時だな」
「うんうん。と言うわけでレッツゴ〜!」
エアはそう言うと、カムイに向かって走り出した。
なんだかんだ言って、一番みんなに会いたがっていたのは彼女かも知れない。
青風はふとそう思った。

里に近づくにつれて二人は何か不愉快な感覚に囚われた。
「ねぇ……青風……」
「気づいたか……」
「うん……風が変だよ」
「里に何かあったのかも知れない。急ぐぞ」
「うん」
二人は里にいち早く着く方法を取った。
それは空を飛ぶこと。
風使いの二人にとって空を飛ぶことは容易いこと。
しかし非常時以外には決してそう言うことはしない。
それは人目に触れることを避けることと共に、先に述べたように人としているために自らそう決めているようだ。
二人は空中高く舞い上がり、カムイの里の方を見た。
その時二人が見たもの……それは里のあるはずの場所に円形状に更地が広がる光景だった。
「いったい……」
エアは言葉を失い、青風はジッと睨むように見つめた。
「エア、降りるぞ」
「うん!」
青風の声に我に返ったエアは彼に従い、更地となった場所に降り立った。
「青風、あそこ!」
広い更地の中央部に人がうずくまっていた。
青風もその影を確認すると二人は急いでその者の元へ駆け寄った。
近づくに連れ、影が一人ではなく誰かを抱きかかていることが分かった。
それは……。
「楓と……焔……?」
楓が倒れた焔を抱きかかえうずくまっていたのだ。
エアは楓の両肩を揺すり彼女の名前を呼んだ。
しかし反応はなく、目を開けることはなかった。
そして焔もまた身体に大量の矢を受け死んでいた。
「なんで……」
エアはわなわなと震え、涙を零した。
彼女にとって楓は妹のような存在だった。
たとえそれが楓が『守護者』になってから二人が旅立つまでの短い間であっても、間違いなくエアは楓の姉であり楓はエアの妹だった。
エアは楓を抱きしめ泣き続けた。
その光景を唇を噛んで見つめた青風は、辺りを見回した。
どうしてこうなったのか手がかりがあるのではないかと……。
(焔の身体に刺さる矢から里が何者かによって攻め込まれたのは分かる。だがこの光景は……)
青風は周囲の木々を見た。
木々はすべて同じ方向に傾いている。
「!」
何かに気づいた彼は続けて足下を見た。
そこには渦巻き状の跡が残っている。
その中心に楓達がいる。
「そうか……そうだったのか……」
青風は泣き続けるエアに近寄る。
「エア……」
「青風……どうして……」
「推測だが、何者かに攻め込まれ、最終的に楓の……『風の煌玉』が暴走したんだ」
「そんな……」
「その時楓は全生命エネルギーを使って、敵を駆逐した。だがその結果が……」
「そんな事って無いよ……なんで……」
エアは楓を強く抱きしめた。
”かさっ”
「誰だ!」
背後から聞こえるかすかな物音に青風が振り返りながら叫ぶ。
それは距離にして百数m離れた林の方からの音。
普通の人なら絶対に聞こえない音だが、風使いの青風達にはその程度の距離なら聞こえる音なのだ。
しかし反応はない。
こちらの声が届いていないのか、それとも……。
青風はエアを残すと、物音のした方へ瞬間的に移動した。
「出てこいよ」
そして林の前で確実に聞こえる声で言う。
するとそこから老人が姿を現した。
「やはり青嵐様でしたか」
その老人は懐かしそうに青風を見る。
「お前は水瀬か」
「はい」
水瀬と呼ばれた老人は懐かしそうに青風を見る。
「お前、一人か?」
「いえ、山の反対側の滝の裏の洞窟にいます」
「一体、何があったんだ?」
「昨夜、都の軍勢が攻め入りまして……」
「都……ねらいは『煌玉』か」
「おそらくは……。
それで私は焔様達の命で戦えぬ者達を連れ滝の方へ避難しました。
それから何があったかは分かりません。ただ巨大な竜巻が発生しそして静かになったと言うことだけしか」
(やはり楓の力の暴走か……)
「そして様子を見に来ると……」
「俺達がいたと言うわけだな」
「はい」
「わかった」
青風はエア達を見た。
「焔と楓を弔いたい。他の者達はおそらく竜巻で吹き飛ばされてしまったからどうすることも出来ないが、ここにいる二人だけは……。その後で避難している場所を案内してもらえないか」
「分かりました。私は微力ながら手伝わせていただきます」
「すまんな」
そして青風達は二人の亡骸を楓が良く一人で行っていた里を見下ろせる丘の上に埋めた。

水瀬に案内された洞窟には老人や女子供ばかりが50人ほどいた。
彼らは青風と空の姿を見ると、驚き泣きつきすがった。
一瞬戸惑ったが、彼らの気持ちを考えるとそれは当然のことだろう。
その後、一通り水瀬達長老と呼ばれる者達から話を聞き、状況を把握した。
そして彼らは青風達に里の指導者になるよう願い出た。
「しかし俺は……」
「「「「「お願いします」」」」」
長老達は頭を地面にこすりつけるように下げる。
「お前達の気持ちは分かるが、俺達にはやらねばならないことがある」
「それは?」
長老の中でも一番上でもある水瀬が聞く。
「『煌玉』を取り戻す」
その言葉にその場にいた者達から自然と「おお」と言う声が上がる。
「あれはカムイの宝であり、同時に私利私欲のために使ってはならないもの。だからこそ取り戻す」
「わかりました。それでは数名おつけしま……」
「それには及ばない。俺と空の二人で十分だ」
「しかしそれでは……」
「それよりもお前達にやってもらいたいことがある」
「やってもらいたいこととは?」
「里の再建だ。俺達が戻ってきたときにあのままでは寂しいからな」
「分かりました。必ずや元の美しい里に戻します」
「頼む。それからもう一つ」
「はい」
「『煌玉』を保管する場所を建てて欲しい」
「『煌玉』をですか?」
「ああ……今回の一件で分かったんだが、あれは人が手にして良いものではない」
「そうですか……分かりました。それではお帰りになるまでに立派な物を建てましょう」
「質素で良いぞ。目立つ物ではまた狙われてしまう」
「あ、それもそうですね」
水瀬は少し照れた。
「ところで青嵐様、どこにそれを建てたら……」
「そうだな……」
それまで青風の側でジッと話を聞いていたエアが口を挟んだ。
「今日、楓達を埋めたあの場所は? あそこなら里からも見えるし、それに……」
それはとても静かな口調だった。
まだ楓の事を引きずっているようだ。
「そうだな」
エアの気持ちを思うとそれ以上言えない青風は、気を取り直してみんなの方を向く。
「では保管する場所は丘の上で」
「分かりました」
「それではみんな頼むぞ」
その言葉にその場にいる者達が口々に了解していく。

翌日、善は急げと言うことで旅立つことにした。
水瀬達はもう少しいて欲しいと願ったが、『煌玉』には悪用は出来ぬよう安全装置が付いていているとは言え、何が起こるか分からないため二人は急ぐことにした。
そして後ろ髪を引かれつつ、その場を後にした………。



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<あとがき>
絵夢「今回は前回の続きですが、過去の出来事をその視点で書きました。これはSSの「とある異常な日常」の冒頭で楓が自ら語った自分の最後から繋がる場面です」
恵理「こんなことがあったんだね。でも『煌玉』の力を使えば攻め滅ぼされることなんて無かったんじゃ?」
絵夢「いわゆる多勢に無勢。『煌玉の守護者』は確かに強いけど、他の者達はただの人だからね。それらを守りながら攻め入る敵と戦う。最初は良いけど、次第に押されて最後には……」
恵理「なるほど……」
絵夢「わかってる?」
恵理「なんとなく(^^;」
絵夢「…………」

絵夢「そう言うわけで次回は時間を元に戻して、青風の語りから始まります」
恵理「それではまた次回まで」
絵夢&恵理「お楽しみに〜」