NOVEL



ここは夢園荘LastStory
BEGINNING

第12話


夏樹はいつでも攻めていけるよう構えてはみたが、どうしたらいいか思い浮かばなかった。
(スピードは明らかに向こうの方が上だし、『石』の事を知り尽くしているようだから『力』を使うにも手の内は読まれているだろうし……さて、どうしたものかな……)
それでも間合いを詰めようとジリジリと歩を進める。
対する青風はこの後の展開よりも彼の『力』の事を考えていた。
(今は『煌玉』の力を受けているようだが、昨日は……)
夏樹が結界に進入してきたときのことを思い出した。
(確かにあの時結界の向こうに『風の煌玉』はあった。
仮に彼が『煌玉』の力を離れた所でも受け取ることが出来るとしても、『煌玉』に結界を越える力は無いはず。もしかして彼は……)
正面で間合いをゆっくりと詰める夏樹を見る。
(たとえそうであっても確かめる術は今の時点では無いか……)
青風は思考と止め構え直す。
「先ほどは私から行ったので、今度は君の番だ」
「それは余裕かな?」
「さて、どうだろうね」
「それなら遠慮無しに行かせてもらう!」
大地を蹴り、瞬間的に間合いを詰める。
(まっすぐ突っ込んでくるか。無策かそれとも……)
普通の人には捉えることの出来ないその動きも青風にはスローモーションに見えているようだ。
彼は夏樹が攻撃態勢に入るまでジッと待つつもりでいた。
それから動いても十分に間に合うと分かっていたからだ。
夏樹が目の前まで迫り拳を繰り出そうとした時、青風はバックステップで避けようとした。
だが瞬間、夏樹は右足で大地を蹴りサイドへと移動。
青風もその動きを追い身体をそちらに向けたその時、夏樹の両掌に高密度の空気の固まりがあった。
「っ!」
青風は咄嗟に身を翻すも、夏樹はゼロ距離から『空弾』を放ち、反動で後方へを下がる。
至近距離ゆえ、避けることは出来ないはず。
そう確信した夏樹だが、『空弾』の影響か青風のいた場所に立ちこめる砂埃に向かって続けざまに散弾銃のごとく『空弾』を打ち込んだ。
1分ほど攻撃をした時、今の状況に全く慌てていないエアの姿が目に入った。
(通じてないって事か……)
夏樹は攻撃を止め、青風がどうなっているのか確認するために砂埃が晴れるのを待った。
むろん、向こうからの攻撃に備え『風の壁』(エアが使った『風の陣』と同等の物)を張っている。
砂埃が落ち着いてくるとその中心で、かすかに光る風に守られた青風が無傷で立っていた。
「……やはりか。しかしあの『壁』はなんだ?」
夏樹は青風の周囲の『壁』を凝視する。
「水の守護者とは比べ物にならないほど強力だな。彼女の時のようなただの『風の陣』では破られていたかも知れないな」
独り言のようにつぶやく青風に夏樹はどう反応して良いか分からなかった。
「実際、あの時は彼女の神経をさらに乱れさせるために『風破陣』と言ったが……考えてみればその名は知らないのだから名前を偽る必要は無かったな……」
「一体……何が言いたいんだ!」
夏樹にとっては意味不明の彼の独言に苛つき思わず叫んだ。
「君は『水の守護者』から『風破陣』の事は聞いていないのか」
青風は少し意外だと言うような顔で夏樹を見た。
「ふうは……じん……?」
「そう、これが本当の『風破陣』……ありとあらゆる攻撃を無効化する結界だ。
だがその様子では聞いていなかったようだな」
「『水の守護者』とは澪のことか。あの時、彼女は気を失ったままだったんで全く聞いていない」
「つまり君はこちらの事は何も知らずに戦いを挑んだのか」
「そうなるかな」
そんな夏樹に青風は思わず笑みを零す。
「一体、何がおかしい」
「いや……昔のことを思い出してね」
「?」
「すまん、今のことは忘れてくれ。さてこの『風破陣』の前ではいかなる攻撃も無意味だ。だから……」
「つまり攻撃を受け付けないってことか」
「そうなるが……」
「なら試してやるよ」
夏樹は両手をまっすぐ前に出すと、先ほどとは比べ物にならないほどの『空弾』を生み出した。
「いっけぇぇぇ!!」
かけ声と共に発射される『空弾』。
夏樹はその反動で数mほど下がった。
「これならどうだ」
『空弾』はまっすぐ青風に目掛け飛んでいき着弾。
夏樹の予想ではここで爆発が起こるはず。
しかし、その予想に反して巨大な『空弾』は『風破陣』の壁に接触した瞬間消滅した。
「馬鹿な!?」
「だから言ったはずだ。すべてを無効化すると」
「くっ!」
夏樹はそれでも諦めきれないのか、今度はピストルの弾ほどの大きさの『空弾』を生みだし、散弾銃のように攻撃する。
しかし、どれも接触すると同時に消滅していった。
(どういう事だ……弾くわけでも吸収するわけでも無く、消滅なんて……)
その様子を見ながら夏樹はその原因を探っていた。
(そういえば『無効化』と言っていたな……まさか相殺? 一体どういう原理だ)
それから夏樹の攻撃は5分近くに及び、次第に疲れの色が見え始める。
ようやく攻撃を止めたとき、夏樹は膝を地に着け肩で息をしていた。
もはや動く力も残されていないようだ。
「いくらやっても無駄なんだな……」
「だから言ったはずだ。全く通用しないと」
青風は『風破陣』の中で右手をまっすぐ夏樹の方へ向けた。
「そろそろ終わりにしよう」
「……」
青風は無言でこちらを見る夏樹の目の輝きを見た。
(彼はまだ戦う意志は消えていないのか。全く昔の私に……俺にそっくりだな)
一瞬だが再び笑みを零したが、すぐに真顔に戻した。
「しばらく眠っていてもらう!」
彼はそう言うと右の掌に気を集中させる。 その気は彼の周囲に張り巡らされた『風破陣』を吸収し、先ほど夏樹が放った『空弾』よりもさらに巨大な物を作り出した。
「『風破陣』とか言うのを吸収……そうか!」
その様子を冷静に見ていた夏樹はなにか思いついたようだ。
「何を思いついたか分からないが、もう遅い。『風破光弾』!!」
その声と共に青風の手から発射された光弾は動けない夏樹目掛け飛んでいく。
瞬間、青風は夏樹が笑っているように見えた。
「!?」
しかし、それがどういう意味か確認する術もなく『風破光弾』は着弾。
巨大な爆発音と共に巻き上げられた大量の土砂がもうもうと砂埃となり、夏樹のいた辺りをかき消す。

岩山のところで見ていた恵理が目を見開き言葉を失い立ちつくしていた。
「……夏樹さん……夏樹さん……」
なんとか紡ぎ出す愛する者の名。

「夏樹さ〜〜んっ!!!」

山の中を恵理の叫び声が響き渡った。

『石』の中でもそのショックに冬佳が悲鳴を上げていた。
そしてキッと青風を睨み付ける。
「よくもお兄ちゃんを……許さないんだから……」
「冬佳さん……」
「楓さん、相手が誰であろうと関係ない。たとえあなたの言うとおりだったとしても」
「でも……」
楓はまだ戸惑っているようだ。
冬佳と目を合わせようとしない。

”ぱしんっ!!”

はっきりしない楓の態度に冬佳はその頬を叩いた。
その突然のことにビックリした楓は冬佳を見る。
「お兄ちゃんと約束したんでしょ。何があっても恵理を守るって」
「……」
「それを相手が自分の師匠だからって約束を破棄する気!」
「私は……」
「楓!!」
楓は冬佳の言葉に目を伏せた。そして決意を固めたのかまっすぐ冬佳の顔を見た。
「そうですよね。夏樹さんとの約束、守らないといけないですよね」
「そうだよ!」
「行きましょう」
「うん」
その時、二人はかすかな夏樹の気を感じた。
「今のは……」
「もしかして……」

立ちこめる煙をジッと見る青風にエアが近づいてくる。
「青風……」
その表情は暗い。
「心配しなくても足下を狙った。だから命までは……」
そう言う青風の表情も暗い。
だがその時、二人は砂埃の奥から何かを感じ取った。
「まさか……」
「……そんな……」
徐々に晴れてくる砂埃。
その中心にかすかに光る透明なドームが見えた。
そしてその中心に夏樹が両手を左右に広げ立っている。
彼の足下はクレーター状にえぐれていて、『風破光弾』の威力を物語っているが、それでも夏樹は無傷でそこに立っていた。
その姿に恵理は喜びの声を上げ、石の中の冬佳と楓も同様に喜んだ。
しかし青風とエアは言葉を失った。
まさか先ほど青風が作った『風破陣』を一目見ただけで作り、さらに『風破光弾』を防いだことに……。
「まさか『風破陣』を作るなんて、なんて人なの…………」
「やはり彼は『資格を有する者』なのか……」
二人は目の前の光景が信じられなかった。

『風破陣』とは『風の陣』が大気中の空気を風として身を守るための結界にしているのに対し、気などの霊的エネルギーを物理エネルギーまで高め昇華したエネルギーを風という形で空間に固定したもの。
かすかに光っているのは固定しきれなかった余剰エネルギーが溢れた影響。
この陣が攻撃を無効にしてしまうのは、夏樹の予測通り陣から発生するエネルギーが相殺していたのだ。
それ故、張った状態では攻撃できないと言うことにもなるが、『風破光弾』のように形状を変えることで攻撃することも出来る。
今回は見た目の威圧感だけで威力の方は大分押さえたようだ。
しかし『風破陣』の正体が分かったところで、たとえ『煌玉の守護者』であってもそれを作り出すのはほぼ不可能である。
『煌玉』の力は自然の力をコントロールし、人が扱えるようにするもの。
それゆえ『煌玉』の力を借りたところで人の精神力ではそこまでのエネルギーを生み出すことは出来ないものだからだ。
さらに精神エネルギーの他に無から有を創造する力が必要となる。
それはプロローグで青風が『ジルフェ』と言う剣を発生させたような精神エネルギーを物質変化させる力。
またその力を持ち『風破陣』を生みだしたとしてもその制御は難しく、青風と常に共にいるエアですらマスターするのに長い年月を必要とした。
それほど発生させるだけでも困難な物を作り出した夏樹に二人は驚いたのだ。

しかし急造の『風破陣』が長続きするわけもなく、砂埃が晴れると同時に夏樹の作ったそれも消え、その場に膝から崩れた。
「思いつきで作って上手くいったは良いけど……これほどとはね……」
疲労困憊で今にも倒れそうな夏樹だった。
もはや彼には立ち上がる力すら残されていた無いだろう。
気が緩めれば確実に意識を失うと言う状況下に置いて、それでも二人を睨み付け意識を保っていた。
「夏樹さん!」
岩山の元で居ても立ってもいられなくなった恵理が夏樹の側に駆け寄る。
「来るな!」
「いや!!」
恵理は強い口調で反論すると、夏樹の側で支えるように肩を貸す。
「恵理……」
「もう、あんな思いはしたくないから……」
恵理は1年前の事−夏樹が刺されたあの時の事を言う。
「だから私も一緒に戦います」
夏樹をまっすぐ見つめるその目に迷いは無かった。
その眼差しに夏樹は優しく微笑み頷いた。
そして二人は青風とエアを見た。
「青風……」
支え合う二人を見るエアは青風を見た。
その表情は辛そうだ。
「分かってる……だが、やらなければ行けない……」
「……うん」
エアは目を伏せ頷く。
「行くぞ」
「うん」
青風とエアは大地を蹴り、夏樹と恵理に迫る。
その瞬間、『風の石』の輝きが増し、青風とエアの進路を邪魔するかのように二つの風が二人の前に現れた。
「!!」
青風達は動きを止め、突然現れた風を見る。
風は次第に人の形へと姿を変えた。
「まさか……楓なのか……」
その姿に青風達は驚きを隠せなかった。
それは楓と冬佳の二人。
冬佳は夏樹達を守るように二人の側に立ち、楓は青風達を牽制するために間に立った。
「ごめんね、遅くなって」
「冬佳……」
「と……じゃなくて義姉さん」
「恵理〜いい娘だねぇ」
名前で呼びそうになった恵理をにこやか〜に呼ぶ。
「あははは……」
「ま、そのことは後で良いや」
夏樹は二人の緊迫感の無いやりとりに少し呆れながらも正面で背を向け立つ楓にも声を掛けた。
「楓さんも出てきてくれたんだ」
「もちろんです。夏樹さんとの約束は必ず守ります」
「気をつけて」
「はい。お心遣い感謝」
楓は夏樹と言葉を交わすと、青風とエアを見る。
「先ほど、私の名前を呼びましたよね。やはり青嵐様と空様なんですね」
「楓……お前、目覚めていたのか……」
「どうしてお二人がこの時代にいるかは聞きません。
でも一つだけお答え下さい。なぜこのようなことをするんですか!」
「それは……」
「お答え如何で、私はあなた達を倒します! たとえこの魂が消滅することになっても!!」
「それは私も同じ。私達はお兄ちゃんと恵理を守るためにここにいるんだから」
楓と冬佳、二人の思いは同じであった。
対峙する四人と二人。
暫しの沈黙の後、青風が口を開いた。
「理由を話そう」
「「「「!?」」」」
「楓……彼らがお前の事を知っているのなら信じてもらえるだろう……」
「どういう事だ」
恵理に支えられた夏樹が青風に言う。
「楓やその少女もまた関係していることだからだ」
青風は冬佳を見ながら答えた。
「冬佳も……?」
夏樹達は冬佳を見るが、冬佳は「私も?」と言った様子だ。
そして四人は黙って青風の次の言葉を待つ。
彼は少し間をあけると、一気に語った。
「私達は『煌玉』を創造し、この地にもたらした者。
そして私達の目的はただ一つ、『煌玉』に囚われし者達の解放」
その言葉は四人にとってあまりにも信じがたいものだった……。



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<あとがき>
絵夢「ようやくここまで来ました」
恵理「ほんと〜〜に何者?」
絵夢「それは次回分かります」
恵理「う〜ん、そっか……ところで『風破陣』の説明、さっぱり分かりません」
絵夢「とにかく何もないところから何かを作り出す力がないと作れないものと思ってください」
恵理「それってもしかして……(^^;」
絵夢「それを含めて次回です」
恵理「う〜〜〜〜〜」

絵夢「でも今回は自分でも書いてて訳分からない状態にです」
恵理「おいおい」
絵夢「『風破陣』は自分の中にある特殊な世界の産物ですから、その説明に関しても順序立てて説明できれば良いんですが無理ですからね」
恵理「やればいいのでは?」
絵夢「20年掛かるよ」
恵理「またそれかい」
絵夢「だって青風の話だから」
恵理「はいはい……(-_-;」

絵夢「ではまた次回も」
恵理「見てくださいね〜」
絵夢&恵理「まったね〜」