ここは夢園荘LastStory
BEGINNING
第6話
「高志さん!」
卯月はゴミを捨てに行っただけなのに帰りが遅い高志を心配して表に出ようとした。
すると裏口で倒れている高志を見つけ驚いた。
「高志さん、高志さん!」
抱きかかえ高志の耳元で何度も名前を呼ぶ。
その目には涙が浮かんでいる。
「う……」
その声に反応し、高志はうっすらと目を開けた。
「高志さん、良かった」
卯月は高志の無事に安堵の色を見せる。
「卯月?」
「はい!」
「ここは?」
「家の裏口です」
「裏口? あいつら……わざわざ運んだって言うのかよ……うっ!」
呻くような声。
青風にやられた腹部を激痛が走る。
「高志さん、一体何があったんですか?」
「あれは……通り魔みたいなもんだな……」
「通り魔!? そうだ、夏樹さん達に知らせないと……」
「待て! あいつらにはまだ知らせるな」
「でも……」
「夜が明けてから……俺が連絡する。だから……ぐっ!!」
再び腹部に激痛が走る。
「高志さん!」
「いいな……」
「……うん」
卯月のその返事を聞くと、高志は再び意識を失った。
「高志さん……高志さん!」
彼女は泣きながら高志の名前を呼び続けた。
翌朝、高志はカーテン越しの光で目を覚ました。
「ここは……俺の部屋?」
畳の上に敷かれた布団の中で、頭だけを動かして周囲を確かめる。
「確か裏口で……」
はっきりしない頭を軽く叩くと、ゆっくりと上体を起こす。
「っ!!」
みぞおちの辺りにまだ痛みが走る。
「昨日ほどじゃないけど……きついな……」
高志は痛みのある部分に手を当てつぶやいた。
”カチャ”
その時、部屋ドアが開く。
そこにはやや疲れた表情の卯月が立っていた。
だが、上体を起こした高志の姿を見て、一瞬驚き、笑顔になって涙を零しながら高志に抱き付いていった。
「お、おい……」
「良かった……良かったよぉ……」
しっかりと高志に抱き付き涙声で何度も言う。
「卯月……」
「高志さんに……もしものことがあったら……私……うわ〜〜ん」
そして感極まって泣き出す。
「心配かけてごめんな。卯月」
そう言うと、高志は彼女が泣きやむまで優しく抱きしめた。
しばらくしてようやく落ち着いた卯月を高志は自分の横に座らせた。
「高志さん、一体何があったんですか?
昨日は通り魔と言ってましたが……」
「似たような物さ。
俺が一人になるのを見計らって襲ってきたんだ……。
そう言えば商店街はどうなっている!?」
「え? 別にいつもと変わりませんが……」
「変わらない?」
「はい、さっき『臨時休業』の札を扉に掛けに外に行きましたから。
それが何か?」
「いや実は……」
高志は昨日の出来事を説明した。
『大地の牙』で商店街を破壊した事も含めて……。
話し終えたとき卯月は暫し言葉を失った。
『大地の石』を含めた4つの『石』には不思議な力が秘められていると言うことは聞いていたが、そこまでの力を持っているとは思いもよらなかったようだ。
「信じられないだろうけどな……」
「うん……」
「だけど商店街に被害が無いと言うことは、あいつらはずいぶんと便利な結界を作ったんだな」
「高志さん……」
卯月は心配そうに高志をじっと見る。
「それじゃ、高志さんを襲った人たちは4つの石を集めて大変なことする気かも……」
「ああ、その可能性はある。
卯月、電話を持ってきてくれないか?」
「うん」
卯月は急いでリビングに置いてある電話機の子機を持ってきた。
それを受け取ると高志は手慣れた手つきで短縮ダイアルを押そうとした時、何かを思いだしたかのようにぴたっと手を止めた。
「どうしたんですか?」
「今日って平日だよな」
「はい」
「……今何時だ?」
「えっと10時」
「……学校は?」
「それは……高志さんの事が心配で、その……」
俯いて語尾がだんだん小さくなっていく。
卯月は学校をさぼったことを怒られるんじゃないかと思っていた。
そんな彼女の様子に高志は少し嬉しく感じ、同時に自分をこんなに想ってくれてる娘に心配をさせてしまった自分を責めた。
そして高志は彼女の頭に手をやると、一言「ありがとう」と微笑んだ。
卯月もまたそれに笑顔で答える。
「卯月、携帯を持ってきてくれないか」
「携帯?」
「ああ、メールで知らせる」
「でも、夏樹さんや澪さんや亜沙美さんだったら別に……」
「その3人もだけど、今の所有者にも知らせないとな」
「?」
「そうか……卯月は知らなかったんだな」
小さく頷く。
「『風の指輪』は恵理ちゃんがつけてるのは知ってるよな」
「うん」
「あとの二つ……亜沙美の『火のイヤリング』は里亜ちゃんが、
「里亜ちゃんがですか?」
「ああ」
「そのことを美亜ちゃんは?」
「知らないはずだ」
「そうなんだ」
「それでは、澪さんのは?」
「澪の『水のブレスレット』は……」
高志はそこで言葉つまらせる。
卯月の様子から彼女は何も知らない。
そんな彼女に言って良いのかどうか一瞬迷ったからだ。
「それは……」
「それは?」
「君の姉、水瀬葉月が持っている」
「え?」
卯月は自分の耳を疑った。
まさか自分の姉が持っていたなんて信じられなかった。
「……嘘……ですよね……」
初めて知る姉の秘密。
「本当だ」
「だって今まで一度も……」
「彼女から口止めされていたんだ。
俺だけじゃなく他の3人も同様にな」
「そうだったんだ……姉さんが危ない!」
「分かってる」
そう言うと高志は真っ先に水瀬神社−葉月に電話を掛けた。
掛けた時、葉月は自室でくつろいでおり無事だった。
高志は簡単に事情を説明するとタクシーを使って急いでノルンに来るように告げた。
その後、亜沙美と澪に続けて電話、さらに今学校にいる恵理と里亜にはそれぞれが持っている携帯にメールを飛ばした。
そして最後に夏樹に連絡しようとしたが、電源を切っているらしく通じず、こちらもメールを飛ばすことにした。
「大丈夫かな?」
「昨日の感じから一人になったところを狙っているようだったから、ここに集まれば何とかなると思うが……」
「うん」
「まさか夏樹が捕まらないとはな……」
「でもメールを飛ばしたから大丈夫でしょ」
「いや、あいつは読まないだろうから全員が揃った頃にもう一度掛けてみるよ」
「え?」
「電源を切っている間のメールをいちいちセンターに問い合わせる奴じゃない」
「そうなの?」
「ああ」
高志は力強く頷く。
「過去、何度もそう言うことがあって、何で確認しないんだと聞くと『問い合わせるのがめんどくさい』と言うんだよ」
「夏樹さんってしっかりしているように見えるけど……」
「不思議とそう言うところはアバウトなんだよな」
「はは……意外ですね……」
卯月は複雑な笑いを漏らす。
<あとがき>
絵夢「すみません、全然進みません」
恵理「おい!」
絵夢「四神将VS謎の二人組の第2ラウンドまで書くつもりだったんだけどねぇ」
恵理「鷹代さんと卯月の話で長くなりすぎたと言うこと?」
絵夢「そういうこと」
恵理「ん〜〜〜〜〜〜」
絵夢「次こそは第2ラウンドの鐘が鳴る所まで書きたいぞ〜」
恵理「はぁ(^^;」
絵夢「と言うわけで次回も」
恵理「お楽しみに〜」