NOVEL



ここは夢園荘AfterStory
Fragment Age

第十一話 <まなみ III>


体育の授業が終わり、更衣室で体操服を脱ぎ下着姿になると……。
「ま〜な〜み〜」
”むにゅ、もみもみもみ……”
お約束のように佐由理が後ろから私の胸をもみ始める。
強弱を付け、非常に馴れた手つきだと思う。
でも……。
「佐由理、飽きないね」
私は溜め息をつきながらそう言う。
「だってまなみの胸ってすごく柔らかくて気持ち良いんだもん」
「私は何も感じないけど……それに時々強くした時痛いんだけど」
「ん……」
佐由理は私の言葉に困ったような顔をすると、横で着替えている百合子を見た。
制服を着ようとしていた百合子はその視線を感じこちらを見て固まる。
「え……っと?」
戸惑う彼女に佐由理はフフと笑うと素早く彼女の背後に回り込み、胸をもみ始める。
「ちょ、ちょっと止めてって、佐由理……だから……あ……うん……ああん………」
初めは嫌がっていたが、次第に艶っぽい声に変わる。
この状況でも周りは何も言わない……と言うか関わりたくないのね、みんな……。
私もこの間に着替えすましちゃお。
そして時間にして2分弱。
「……だめ……もう……わたし……あああ……ああああああああぁぁぁぁぁ」
……イッちゃったみたい。
そしてロッカーにもたれるようにその場に座り込みくて〜としている百合子と充実感を満面に浮かべた佐由理の姿があった。
「うう……酷いよぉ」
半分泣きそうな声で佐由理に文句を言う百合子。
「百合子は相変わらず胸の感度が良いね」
「ううう………」
本当に泣いてるのかも知れない。
「ってまなみ、私が犠牲になってる間になんで着替え終わってるの」
「と言われても、何時までも下着のままでいたら風邪引くよ」
「まなみがクールなのいつものことだし」
笑いながら佐由理。
なんか酷いことを言ってるし。
「はいはい、私はクールですよ」
「まなみぃおこらないでぇ」
”もみもみもみ……”
「佐由理……」
「何?」
「いちいち胸をもまないで、痛いんだから」
「ううう……」
私は佐由理を振りほどくと百合子に手を差し伸べる。
「とりあえず早く着替えないと次遅れるよ」
「うん」
百合子はまだ力が入らないらしく、私の手を取りロッカーを支えに立ち上がるとゆっくりと制服を着る。
「佐由理、やりすぎ」
「ごめん、反省」
両手を顔の前で合わせてウィンクしながら言う。
……いつもの通り反省してないな。
「ま、良いけどね……」
百合子もいつものことだけに半分呆れたような声で言う。

更衣室から教室に向かう途中、佐由理は難しそうな顔で私を見る。
「でもまなみ、本当に気持ち良くないの?」
「何度も言ってるけど痛いだけ」
「でも百合子はちゃんと感じてたし……」
佐由理は自分の両手を閉じたり開いたり……と言うよりも何かもんでいるような動きを見て言う。
「確かに佐由理は上手だけど……って何を言わせるの」
佐由理の反対側の百合子もさっきの事を思い出したのか少し顔が赤い。
「そう言ったって仕方ないでしょ。痛い物は痛いんだから」
「「う〜〜ん」」
私の言葉に唸る二人。
……仕方ないじゃない。
そう思いながら前を向くと、教室の前で話し込んでいる男子の中にあっちゃんの姿を見つけた。
「佐由理……あっちゃんがいるよ」
「え! どこ!?」
「あそこ」
私が指差すと佐由理は目標を確認し、「歩く〜〜〜ん」と走っていった。
その直後「助けてくれ〜〜!」「薄情者〜〜!!」と言う悲鳴が聞こえた。
「あっちゃん、あなたの犠牲は決して無駄にしないわ」
「まなみ……鬼ね」
「自分が一番可愛いですから」
「なるほど……」
私と百合子は、泣きそうな声で悲鳴を上げ助けを求めるあっちゃんと嬉しそうに抱き付き頬にキスまでする佐由理の横を通って教室に入っていった。
本当にお気に入りみたい。
「それにしてもまなみ、あれで良いの?」
振り向いて廊下で騒いでいる二人を見る百合子が話しかけてきた。
「ん?」
「だからこのままだと歩君は佐由理に食べられちゃうよ」
「あっちゃんがそれを望むなら、そのことを私がどうこう言う資格なんて無いよ」
「そう言う事じゃなくて、あの調子だとなし崩しで……」
「それも同じ事。嫌なら嫌とはっきり言えないようじゃしょうがないよ」
私はその場にいる人(もちろん廊下にいる二人にも)にしっかり聞こえるようにそう言い残すと自分の席に戻った。

放課後、帰り支度をする私の元に佐由理が近づいてきた。
「なに?」
「ちょっと……」
そう言うと私を廊下へと連れだす。
「歩君、まなみの一言で急に落ち込んじゃった……って言うかあの通りなんだけどね」
佐由理が指差す方向では私の隣の席であっちゃんが時々溜め息をつきながら帰り支度をしている。
どう見ても周りが見えてない様子。
「そうだね。あれから変だもんね」
私の背後から肩越しに百合子が顔を出す。
「きっとあの一言は歩君にとってすごく痛い一言だったのかも」
「だから?」
「だからって……」
「ズバリ聞くけど、まなみにとって歩君ってなんなの?」
「従弟」
「いや、そう言う事じゃなくてね……」
「反対に聞くけど佐由理はあっちゃんのことをどう思ってるの?」
「もちろん、おもちゃ!」
その予想通りの答えに私と百合子は溜め息をつく。
「二人して溜め息をつくこと無いじゃない」
そう口では抗議する佐由理だけどあまり気にしていないみたい。
当然と言えば当然か……。
「でもなんでいきなりそんなことを聞くの?」
私は疑問に思ったことをそのまま聞いた。
だけどその質問に今度は私が溜め息をつかれた。
そして呆れたような表情で百合子が口を開く。
「もしかしてまなみ、気づいてないの?」
「何を?」
「だ〜か〜ら〜……」
「歩君は私がおもちゃにしてるとチラチラとまなみのことを気にしている感じなの」
佐由理が百合子の言葉尻をとる形で言う。
「そうなの?」
「『そうなの?』って……」
「歩君って結構不幸なのかも……」
「そうだね、佐由理のおもちゃに選ばれちゃったし……」
「「最大の原因はまなみでしょ」」
声を揃えて言う二人に私はどう反応して良いか分からなかった。
「まぁこの娘がそう言うことに興味ないのは知ってるから当然の反応なのかも知れないけどね」
「それにしたってねぇ」
聞こえるような小声で言葉を交わす二人。
私は小さく溜め息をつく。
「どちらにしても私にとっては従弟以外の何者でもないから」
そしてそう二人に言うと帰るために鞄を取りに教室に入ろうとした。
その時、誰かの視線を感じた。
「?」
私はもう一度廊下に出ると左右を見る。
「どうしたの?」
百合子が声を掛けてきた。
「誰かに見られてた気がしたんだけど……気のせいみたい」
「「誰かって誰?」」
「さぁ?」
私は小首を傾げながらそう答えた。

放課後、バイトが休みなので寄り道するところもない私はまっすぐ帰ることにした。
その途中、私は佐由理と百合子の言葉を思い出していた。
結局、私にとってあっちゃんは『初めての人』と言うだけの従弟と言う存在でしかない。
恋愛感情と言ったものは全く無い。
第一、その意味すら全く分からない私にそう言う感情が持てるわけもない。
そこで私は足を止めた。
「考えてみたらいつからこうなっちゃったのかな……」
思い出そうと私は空を見上げた。
雲一つ無い青一色の空が広がる。
「まなみちゃ〜ん!」
その声に私は現実に帰ると、声のする方を向く。
そこにはあっちゃんが息を切らせてこちらに走ってきていた。
私の前まで来ると、膝に手を当て下を向いて息を整え始めた。
汗もたくさんかいている。
きっと学校からずっと走ってきたんだろう。
でも……。
「どうしたの?」
私はスカートのポケットからハンカチを取り出すとあっちゃんに差し出す。
「あり……が……とう……」
まだ息が整わないのかとぎれとぎれに言葉を紡ぎながらハンカチを受け取る。
その様子にまともに話が出来るようになるまで待つことにした。
そして数分後。
「落ち着いた?」
「うん、なんとか……あ、ハンカチありがとう。洗って返すよ」
そう言うと自分の鞄にしまってしまった。
「別に良いのに」
「そう言うわけにはいかないって!」
急に大きな声で言う。
私は目を丸くして驚いた。
「あ、ごめん……」
私の驚いた顔を見て気づいたのかすぐにシュンとなって謝る。
「別に良いけど……どうしたの?」
「あ……いや……どうしたって訳じゃないんだけど……」
何故かそこでどもる。
急いで私を追いかけてきたのに……。
「あっちゃん……」
「?」
私はじっとあっちゃんの顔をのぞき込むように見た。
「あ、あの……」
あっちゃんは戸惑い後ろに一歩下がった。
それでも私から視線を逸らすことはしない。
もしかしたら出来ないだけなのかも知れないけど……。
「やっぱり恵理お姉ちゃんみたいに分かるわけないか」
「?」
私はそのままあっちゃんから視線を外し、背を向け歩き始めた。
「ま、まなみちゃん」
後ろから慌てて追いかけてくる。
そして横に並ぶと同じペースで歩き始めた。
「……二人に何か言われたんでしょ」
小さく、それでもあっちゃんには聞こえるように言う。
「え!?」
いかにも何でわかったのと言った表情。
「やっぱりね」
「あ、いや、その……えっと……」
再びどもるあっちゃんに私は溜め息をつく。
「あのね……榊歩!」
「は、はい」
「男でしょ。だったらもっとしっかりした方が良いよ」
「う、うん……」
なんか落ち込んでしまってる。
……駄目かも知れない。
再び私は溜め息をつくとあっちゃんを置いていくようにやや早足で歩きだした。
あっちゃんも置いていかれないようにしたけど、今度は横に並ぶことなくやや後ろを歩いている。
「言いたいことがあれば言えばいいのに……」
私はそうあっちゃんには聞こえないように口の中だけで言った。



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<あとがき>
絵夢「さてとようやく出来ました」
恵理「今回苦しんだの?」
絵夢「まぁ色々あったお陰で結構手間取った」
恵理「お疲れさまです」
絵夢「ハイ」

恵理「今回は百合子ちゃんが毒牙に掛かったみたいだね」
絵夢「佐由理の暴走は誰にも止められないでしょう」
恵理「ん〜歩君の未来は真っ暗だね」
絵夢「明かりも何も無し〜」
恵理「でも歩君の気持ちを知っていながらまなみちゃんも酷いね」
絵夢「まなみちゃんは人を好きになる事に意味が分からないからそう言う態度しかとれないんだわ」
恵理「でもねぇ……」
絵夢「今後に期待かな?」
恵理「ほんと?」
絵夢「謎」
恵理「おい」

絵夢「そう言うわけで次回まで」
恵理「お楽しみに〜」
絵夢&恵理「まったね〜」