NOVEL



ここは夢園荘

インターバルIII 『帰り道』

走っていくまなみちゃんの後ろ姿を見送りながら私はふとため息をもらした。
「私……あの娘の役にたったのかな? でもダメだな……唯菜の時もそうだったけど、親が絡む話だとついつい昔のこと思い出しちゃう」
私はさっきまでまなみちゃんが座っていたブランコに腰を下ろした。
「忘れたくても忘れられない……ううん、忘れちゃいけないこと……」
「恵理」
私を呼ぶ声。
振り向くと夕日をバックに夏樹さんが立っていた。
「夏樹さん……聞いてたんだ……」
「ああ……」
「夏樹さんには知られたくなかったな……」
すこし勢いを付けてブランコを漕ぐ。
「どうして?」
「だって……それで特別扱いなんかされたくないもん」
ブランコを止め足下を見つめながら言う。
すると突然、夏樹さんは私の頭をくしゃくしゃとかき混ぜる。
「な、夏樹さん!」
私は夏樹さんを睨んだ。
でも彼は何かあきれたような顔をしている。
「正直に言うけどな、お前が夢園荘に来たときに親父から手紙をもらって大体のことは知ってたよ」
「……!?」
……知ってた? ……最初から?
「だけど俺がお前のこと特別扱いしたことあったか?」
「…………ない」
「じゃ、そういうこと」
「………」
まだ言葉を失っている私に夏樹さんは困ったように頭をかいた。
「まだ何か?」
「それならなんで……」
「言って欲しかったのか?」
首を左右に振る。
「だろ。それに俺はその人が話してくれるまで聞かない質でね」
「そっか……なんかそういうの夏樹さんらしいね」
私はくすっと笑う。
夏樹さんもそれに反応して微笑み返してくれた。
「帰ろっか」
「うん」
いつか夏樹さんに両親のこと話せる日が来るかな……。

日も傾き、次第に暗くなっていく帰り道。
「恵理って、保母さんなんか向いてるんじゃないのか」
「たまたまだよ」
「そうか?」
「そうだよ」
「ふ〜〜ん」
「なに、それ?」
「別に……」
「う〜〜〜〜」
もう少し夏樹さんを攻めてみようと言葉を探しながら彼の横顔を見たとき、凄く真剣で凄く寂しそうな表情が見えた。
「ホント、大切なのは今という時間だよな……」
たぶんこれ、夏樹さんの独り言だと思う……。
「いつまでも過去に縛れていたら先に進めない。今回のことでよく分かったな……」
私は言うべき言葉が見つからないまま彼の言葉に耳を傾ける。
「今の積み重ねが過去になるんだから、だからこそ今という時間を大切にしないと先に進む事なんて出来ない。……だけど今は時間が欲しい……一歩を踏み出すための……乗り越えるための時間が……」
(夏樹さん、一体何を……)
そう聞きたかった。でも怖くて言い出せなかった。
「……………夏樹さん」
何とか声に出して彼を呼ぶ。
「ん、ああ、ごめん。独り言だから気にしないで」
私の方を向いた彼の表情をいつもの物に戻っていた。
「はい……」
私はそう答えるしかなかった……。

私にはこの時、夏樹さんが何かを決意したことが分かった。
でもそれが何なのかは、そしてそれが何を意味する物なのかは分からない。
この時の私の心は不安と寂しさでいっぱいだった……。
夏樹さん、いつか話してくれますよね。今の言葉の意味を……。


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<あとがき>
恵理「やったー、私だぁ!」
絵夢「こうして『恵理の章』は無くなるのであった」
恵理「……ウソ!」
絵夢「ウソだよ」
恵理「マスタ〜〜〜〜(;_;)」
絵夢「ごめんごめん」
恵理「う〜〜マスターのバカぁ(涙)」
絵夢「わははは」
恵理「でも前回も短かったけど、今回はさらに短いね」
絵夢「まぁ何だろうね?」
恵理「スランプ?」
絵夢「よく分からん。ただ、この次の『葉月の章』も『まなみの章』ぐらいの文量になる予定」
恵理「それってどう言うこと?」
絵夢「ラスト前でエネルギーを貯めてるの」
恵理「と言うことはラストはもう決まってると」
絵夢「そうだね。でもこの後は今後のお楽しみと言うことで」
恵理「わかりました。それでは」
絵夢「次回も」
絵夢&恵理「お楽しみに〜〜」

恵理「この後の展開こっそり教えてよ」
絵夢「ダメ」
恵理「けち」