NOVEL



ここは夢園荘

みなもの章

私は夢園荘101号室の前にいます。
ここは管理人さんの早瀬夏樹さんの部屋。
なぜここにいるかというと先日のお礼を言うためです。
『先日のお礼とは?』とおっしゃる人もいると思いますが、それは『空の章』を参照してください。

私の名前は陽ノ下みなも。
姉の空の世話をお母さんに頼まれて、中学校を転校してここに来ました。
私も姉さんのことが好きなので喜んで夢園荘に入居したという感じです。
現在、姉さんの隣の204号室に住んでいます。

さて、私がここにいる理由は先ほど話したとおりですが、困ったことに不在のようなんです。
「この時間ならいると思ったのに……どうしましょう」
「みなもさん、どうかなさったんですか?」
どうしようかと途方に暮れてるときにちょどそこに葛城唯菜さんが帰ってきました。
唯菜さんはこの9月からこの夢園荘に入居した新人さんで302号室に住んでいます。
年は17歳で姉さんと同い年なんですが、落ち着いているというかしっかりしているように見えて、姉さんも見習って欲しいです。
「管理人さんに用事ですか?」
「ええ、ちょっと……」
「それでしたら先ほど商店街の方で美亜さんと買い物をしているところを見かけましたよ」
「え……美亜さんと……ですか?」
「はい」
夏樹さんの彼女って美亜さんだったの……でも美亜さんには里亜さんがいるし……。
「大丈夫ですか? なんか混乱しているようですけど」
「は、ハイ、大丈夫です」
ちょっと落ち着こう……深呼吸っと……吸う、吐く、吸う、吐く……。
「………あ、あの」
あ、唯菜さんが変な目で見てます。
私のイメージが……(^^;
「混乱したので落ち着くために深呼吸を……」
「あ、なるほど。深呼吸すると落ち着きますものね」
「はははは……」
唯菜さんはニコニコしながら納得してくれたかな。
こんなこと言ったら気を悪くするかも知れませんが、唯菜さんって天然なのかしら(^^;
「あ、そうだ。管理人さんが帰ってくるまで私の部屋に来ませんか。美味しい紅茶が手に入ったんです」
「でも……」
「あの様子ではまだ時間がかかるようですし、ここでお待ちしてるよりかは良いと思いますよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
「はい、どうぞ」

初めて入る唯菜さんの部屋。
ぬいぐるみがたくさんあって、きちんと整理整頓されていて、同性の私から見ても可愛い部屋。
姉さんに唯菜さんの爪の垢でも飲ませたら少しはマシになるかな……。
思わず溜め息が出てしまいます。
「ため息なんてついてどうしたんですか?」
「綺麗な部屋だなぁと思いまして……」
「そんなこと無いですよ。掃除だって週末の土日ぐらいしかできませんから」
それでも週一にやってることが凄いです。
「どうぞ」
唯菜さんは私の前に紅茶とお茶菓子を並べる。
「ありがとうございます。いい香りですね」
「つい先日、実家の方から送っていただいたんですよ」
唯菜さんの実家って何をやってるのかな?
紅茶に口を付けながらふと思ってしまう……私ってもしかして貧乏性なのかな(;_;)
「どうですか?」
「凄く美味しいです」
「良かった。口に合わなかったらどうしようかと思っていたんです」
「そんなこと無いですよ。皆さん美味しいと言いますよ」
「そう言っていただけると嬉しいです」
ニコニコと嬉しそうに微笑む。
唯菜さんって本当に可愛い人かも。
「みなもさんと空さんは姉妹なんですよね」
「はい、そうですけど」
「仲が良くて羨ましいです」
「そんなこと無いですよ。いつも喧嘩ばかりしてますし」
「喧嘩するのも仲の良い証拠と昔の人もいっています。それに私は一人っ子なので姉妹というのに憧れてる部分もあるんです」
「はぁ(^^;」
私は複雑な笑みをこぼすと唯菜さんの後の壁に掛かっている制服に目が止まった。
「あの制服は確か恵理さんと同じ……」
「え……ああ、そうです」
「恵理さんと同じ学校なんですね」
「1学年下なんですけど」
「確かうちの姉と同い年ですよね」
「そうですよ」
「でしたら恵理さんとも……」
「実は私1年病気で休学してて、1年生やり直しなんです。その証拠にリボンの色が青なんですよ」
二人の学校は1年が青、2年が赤、3年が緑とリボンで色分けされているとのこと。
「そうなんですか……もう今は……」
「ええ、今はもうこの通りです。でも両親が心配性で1日1回電話しないとうるさいんです」
「苦労してるんですね」
「ええ」
肩をすくめながら苦笑を漏らす。
唯菜さんはいつもニコニコしてるけどこういう表情もするんですね……。
「恵理さんのことなんですけど、私がここに入居したとき、お隣さんと言うことで恵理さんのところに挨拶に伺ったんです。そうしたら学校から帰ってきたばかりなのか制服姿で出てきてちょっと驚いてしまったんです。なんと言っても同じ学校でしたから」
「その時安心しました?」
「ええ、それはもちろんです」
「なんか羨ましいです。皆さん高校生で、私1人中学生だから……」
「そういえばそうですよね。でもみなもさんも来年は高校生だから大丈夫ですよ」
「そうですね。そういえば私の方が二つも年下なのにどうしてそんなに丁寧言葉使いなんですか?」
「気になりましたか?」
「そう言うわけではないんですが少し気になったもので……でも気に障ったようでしたらごめんなさい」
「いいですよ。特に意識しているわけでは無いのですが昔からこういう話し方なので……癖のようなものですね」
「癖……ですか?」
「はい」
やっぱり唯菜さんってお嬢様なの?
「みなもさん、そろそろ管理人さんが帰ってきたみたいですよ」
ふと視線を窓の外に向けた唯菜さんが言う。
私も外を見る。
「どこですか?」
「ほら、あの人影です」
唯菜さんが窓を開けて指さす向こうにたしかに二つの人影が見える。
でも……あまりに遠くて識別不可能……(^^;;
「よく見えますね」
「目だけは小さいときから良かったんですよ。両目とも3.0ありますから」
「………」
私は文字通り目が手になり言葉を失ってしまいました。
私だって目が良い方だけど両目とも1.5……でも唯菜さんはその倍ってこと……なのよね(・_・;;
「それでは私、入り口のところで夏樹さんのこと待つことにします」
「そうですか。みなもさんとお話しできて良かったです」
「私もです」
「いつでもいらしてくださいね。今度は空さんと一緒にいらっしゃってください」
「はい、分かりました」
唯菜さんの笑みに私も微笑んだ。

「唯菜さんとお話しできて良かった。なかなか話す機会が無かったから……」
夢園荘の入り口で夏樹さんを待ちながら、先ほどのまでの事を思い出してた。
すると、夏樹さんと美亜さんが帰ってきた。
「夏樹さん、美亜さん、お帰りなさい」
「ただいま……あれ、もしかして待ってたの?」
「ただいま、みなもちゃん。それじゃ夏樹さん、私はこれで。早く戻って夕飯の支度しないと里亜ちゃんに怒られちゃいますから」
「ああ美亜ちゃん、遅くまでありがと」
「いえいえ、この間のお礼ですから。ではこの後はみなもちゃんにバトンタッチ」
「はい?」
美亜さんは私の肩をポンと叩きながらそう言った。
あの……何のことだかさっぱり分からないんですけど……(^^;
「あ、あの……」
少し混乱気味の私。
「ああ、買い物に付き合って貰ったんだ。どうもプレゼントするにも何選んで良いか分からないから」
「プレゼントって彼女へのですか?」
「そうだよ。もうすぐ誕生日なんでね」
と言いながらも夏樹さんの顔は笑っていた。
ちょっと胸の奥が痛い……この痛みって何だろう?
「で俺に用事って何?」
「えっと、この間はありがとうございました」
「デザインのこと?」
「はい。結局、姉さんにはばれてましたけど……」
「やっぱり」
「はい」
お互い笑みをこぼした。
「それで夏樹さん、何かお礼がしたいんですけど……」
「良いよ、そんなの……」
「でも……」
「と言われてもなぁ……」
夏樹さんは頭をかきながら本当に困っている様子。
それでも私は何かお礼をしないと気が済まないので、じっと夏樹さんを見つめる。
一分ほど二人の間に奇妙な沈黙が流れる。
「私……もしかしたら夏樹さんを困らせてますか?」
「そう言うわけじゃないんだけど……何て言ったらいいのかなぁ……」
「あれ、二人とも入り口何やってるの?」
夏樹さんの言葉を遮るように唯菜さんと同じ小豆色の制服を着た恵理さんが声を掛けてきた。
「ちょっと夏樹さんとお話を……」
「ふ〜ん……」
「今、学校帰りなのか?」
「ん? そうだよ。こう見えても陸上長距離のホープなんだから」
「こう見えても何も毎朝の事を考えればな……」
「う……痛いところをつきますね、夏樹さん」
実はこの恵理さん、朝が非常に弱くて、いつも遅刻ぎりぎりなんだそうです。
もしかしたらうちの姉さんと同じタイプかも知れないです。
「みなもちゃ〜〜ん、あまり余計なこと言わない方がいいよ〜〜〜」
「え?(^^;;」
「今、ひどいこと考えてなかった?」
「そ、そんなこと無いですよ」
恵理さんがじっと私の顔をのぞき込む。
蛇に睨まれたかえるの私(・_・;;
「そう? ならいいんだけど……私はメデューサじゃないからね」
!?
もしかして恵理さんって心読めるの?
「読めるわけないじゃん」
読んでるよ〜〜(;_;)
「恵理、あまりみなもちゃんをからかって遊ぶなよ。空に怒られるぞ」
「あはははは、ごめんね、みなもちゃん」
「う………(;_;)」
「どうしたの?」
「お前があまり虐めるから怯えちゃってるんだよ」
「ひ、ひどい。ただの住人同士のスキンシップなのに」
「スキンシップは結構だけど加減してやれ」
「は〜〜い!」
恵理さん、怖いですぅ〜〜〜(;_;)
「本当に怯えてる。ちょっとやりすぎたかな……よし、ここは恵理お姉さんが良い物をあげよう」
恵理さんは懐からチケットを3枚取り出すと、私の手を取ってチケットを渡す。
「これで夏樹さんと空と一緒に遊園地に行って来なさい」
「で、でも良いんですか?」
「良いの良いの。商店街の福引きで当たったチケットなんだけど、陸上の練習って土日関係なしであるから行けないんだよね」
「だけど……」
「みなもちゃん、人の好意は他意が無い限り受けるものだよ」
「お前がそう言うことを言うか? それになぜに俺も?」
「夏樹さん、黙って言うことを聞く」
「おいおいって何処に連れて行く気だ」
恵理さんは夏樹さんを連れて塀の外に連れ出されてしまいました。
その場に取り残された形になった私は、手の中にある遊園地のチケット3枚をじっとみつめていると二人が戻ってきました
「まぁ何だ。せっかく恵理がくれたチケットを無駄にすることもないし、今度の日曜日にでも行くか」
「え?」
「それでさっきみなもちゃんが言っていたお礼の件なんだけど、当日みなもちゃんの手作り弁当と言うことで手を打ちたいんだけど」
「そ、それで良いんですか?」
「ああ」
「分かりました。手によりをかけて一生懸命作らせていただきます」
「い、いや、そこまで気合入れなくても」
「いえ、私の感謝の気持ちをめいいっぱい込めて作ります」
「はあ……」
「良かったね、夏樹さん」
恵理さんが夏樹さんの脇をつつきながらなんか変な笑みを浮かべてるみたい……。
でも私の頭の中はすでに当日のお弁当のことでいっぱい。気合を入れなければです。
「みなもちゃん、ちゃんと空も誘うんだよ」
少しトリップ気味の私に夏樹さんが心配そうに話しかけてくれた。
「え…………………あ、そうですよね。チケット3枚あるんですよね。あはははははは…………」
うう……はずかしい……(;_;)




おまけ

みなも「塀の向こうに連れて行かれたと、恵理さんに何を言われたんですか?」
夏樹「どうも話を聞かれていたらしくてね……『段取りしてあげたんだから』と言われた」
みなも「そうなんですか……じゃ、このチケットって!」
夏樹「福引きで当たったというのは本当みたいだよ」
みなも「そうなんですか……」
夏樹「……」
みなも「夏樹さん、恵理さんって何者ですか?」
夏樹「俺も知りたい」
みなも「……」
夏樹「……」
みなも「……」
夏樹「……」
みなも「……」
夏樹「……」
みなも「……」
夏樹「……」
みなも「……」
夏樹「……」
夏樹&みなも「「はぁ」」


→ NEXT


<あとがき>
絵夢「恵理……本当に心が読めるんじゃないのか?」
恵理「そんなわけないじゃん」
絵夢「そうか……(絶対に嘘だな)」
恵理「絶対に嘘って嘘じゃないよ〜〜」
絵夢「読んでるじゃん」
恵理「………………………………………………ではまた次回お楽しみに〜〜」
絵夢「またこの引きかい……(-_-;」