NOVEL



ファンタシースターオンライン
『未来へのプロローグ』

エピローグ


あの直後ナツキは駆動系に異常をきたし動作不能に陥り、パーツ交換のため1ヶ月近く入院した。
本来パーツ交換にそんな時間が掛かるわけはないのだが、ナツキの場合ほとんどのパーツがカスタマイズしないと装着できない為長い時間が必要となった。
そして退院したその日に、ナツキはソラに頬叩かれ、そのまま泣き付かれて「私はずっとナツキさんのパートナーです、ずっとずっと側にいます」と宣言する。
その様子を見ていたハルカは「まるで愛の告白ね」とからかうと、何故かソラは頬を染め俯いた。
そんなソラの反応でまたひと騒動となったがこれはまた別の話とする。


そして事件から3ヶ月が過ぎた。

ハンターズギルド本部内にある訓練施設の横にあるラウンジからナツキはぼ〜と中の様子を見ていた。
そこへハルカがニコニコしながら近づいてきた。
「どうしたの、ぼ〜として」
「ん〜何となくね」
「張り合いが無くなった?」
「そんなんじゃないよ。原因はあれ」
そう言いながら指さした。
そこではソラがカエデとエアにハンターズとして基礎的なことを教えているのだが、時々苛ついたソラが二人にフォイエをぶつけていた。
その様子にハルカは乾いた笑いを浮かべる。
「あの娘、だんだんと誰かさんに似てきているよ」
「誰かさんって誰?」
ハルカはナツキを軽く睨むように見る。
だがナツキも馴れたものでハルカを見て「誰かさん」と答えた。
そして短い沈黙の後、互いに大声で笑う。
ひとしきり笑うとハルカは真面目な顔でナツキを見た。
「どう?」
「何が?」
「なんかすっきりした顔してるよね」
「アンドロイドの顔色なんて分かるの?」
「つきあいが長いからね」
「なるほど」
「で?」
「正直、まだ時間が掛かると思うよ。だけどあの後私ね、マスターの夢を見たんだ」
「スライダーさんの?」
「うん。で、夢の中でマスターに怒られたよ。『復讐なんて望んでいない、これからは自分の幸せのために生きろ』ってね」
ナツキは少し笑いながらそう言った。
「なるほどね」
「ヴァリスタのセフティーシステムもマスターの意志なんだって思ったら、復讐に生きた10年間が虚しくなっちゃった」
「本当にもう良いの?」
「何それ?」
ナツキはハルカの意外な言葉に彼女の顔を見るとハルカは真剣な眼差しでナツキを見ていた。
「実はあなたに伝えておかないといけないことがあってね」
「?」
ハルカはナツキから視線を外した。
「山猫……脱走したわ。手引きした中年ハゲ豚親父は早々に捕まったけど、山猫は行方不明」
「……そう」
ナツキはそう言うと、訓練施設を望む窓を背にした。
そして反対側の壁にもたれこちらを見る金髪の女性ニューマンを見る。
「ナツキ?」
ハルカもナツキの視線の先を見た。
「ああ、あの娘は最近ハンターズに登録された娘で、名前は確かカナタ・リンクス」
「カナタ……ねぇ……」
ナツキはその少女から視線を外すことなくジッと見た。
そしてカナタもナツキを睨むように見ていた。
「ど、どうしたの?」
わけがわからないハルカはおろおろするばかりだ。
「姿を変えて、面白い名前を持ってハンターズに入って、それで私を倒しに来たの?」
ナツキはカナタに聞こえる声で言う。
「なんだ、ばれてたんだ」
「一度戦ったことのある奴の気配は忘れないよ」
そのナツキの言葉でハルカはハッとしカナタを見た。
「まさかあなた、やまね……」
叫ぼうとしたハルカの口をナツキは手で塞ぎ、小声でハルカを注意する。
「こんなとこで騒がない」
「で、でも!」
「いいから」
ナツキはそう言うと再びカナタを見る。
「しかし気配だけで分かるなんて、あんた本当にもとメイドなの?」
「さぁね。で、ここでやるの?」
「まさか。本部内で騒ぎを起こすわけには行かないでしょ。
今日は挨拶だけ」
「ふ〜ん、そう」
軽くそう言うナツキにカナタは怪訝そうな表情を浮かべる。
「……あんた、本当にあの時戦ったレイキャシールなの?」
「そうだよ。ナツキ・スライダーは私だけだからね」
「すぐにでも攻撃してくると思ったのに、な〜んか拍子抜け」
「私もすぐにでも攻撃したい気持ちだけど、マスターが敵討ちなんてやめろって言ったからね」
「はぁ?」
「分からなければそれでいいよ。とにもかくにも私はいつでも相手になるよ」
「なっ!」
「その時は私の得意な武器で相手になる」
ナツキの言葉にカナタの顔は怒りを抑えるためにやや引きつった感じになった。
「へぇ……じゃぁあの時は得意な武器じゃなかったってわけだ」
「こだわりで使ってただけだからね」
「それはそれはすごく楽しみだね」
「私も楽しみにしてるよ」
ニコリと笑うナツキにカナタも引きつった笑顔を返す。
「じゃ、これで失礼するよ」
「うん、またね」
カナタはナツキを睨み付けると、きびすを返しラウンジから出ていこうとした。
その時、ナツキはカナタを呼び止めた。
「何?」
「私は構わないんだけど、『カナタ』って名前を使う以上それなりの実力が無いと大変だよ」
「どういう事!」
「『銀の閃光』カナタ・トラッシュのファンって結構多いらしいから。ただそれだけだよ」
「そう、ご忠告感謝するわ」
不機嫌そうに言うと今度こそカナタは外に出ていった。
その後ろ姿を手を振って見送るナツキにハルカは驚きの表情を浮かべた。
「ナツキ?」
「自分でも不思議なんだけど、あの娘を見ても憎しみとか恨みとかそう言う感情が薄れてるの」
「吹っ切れたんだね」
「……そうなのかな?」
ナツキは苦笑いを浮かべて答える。
「でも本当にいいの?」
「あの娘が戦いを挑んでくること?」
「それもあるけど、『カナタ』の名前をつかってること」
「なんで?」
「なんでって……ま、あなたが気にしてないならそれで良いんだけどね」
「問題なし」
笑いながら言うナツキにハルカは肩をすくめ溜め息をついた。
その時訓練施設内から連続して爆発音が響いた。
二人は慌てて、窓から中を見るとソラが逃げ回るカエデとエアに対してラフォイエを連発しているようだ。
「あの娘……やっぱりハルカに似てきてるわ」
「少なくとも私は凍らせるだけだよ」
「……」
「……」
「とにかく止めよう」
「そうね」
ナツキとハルカは互いに頷くと訓練施設に入っていた。

それから数分後、『戦うメイド』と『氷の天使』によってソラは沈黙する。
この一件でソラは1ヶ月間の活動停止と『暴走爆発娘』と言うありがたくない異名を持つことになる。



Fin


<あとがき>
絵夢「無事完結です!」
恵理「おめでとうございま〜す!」
絵夢「書き始めたときすぐに終わると思っていたのに意外と時間が掛かりました」
恵理「全部で10話だもんね」
絵夢「予定通り行かないのはいつも通りとは言え、ちょっとあれだなぁ(^^;」
恵理「あはははは(^^;」

恵理「ところでソラって性格変わってない?」
絵夢「ナツキが入院中、ハルカのところで色々と手伝いをしていたみたいで」
恵理「ああ、納得」
絵夢「納得しちゃうのね」
恵理「うん」

絵夢「そう言うわけで『未来へのプロローグ』は今回で終わりです」
恵理「残した謎は多いけどね」
絵夢「その辺は次回作への伏線なので、今回は謎のままです」
恵理「なるほど……マスターってそう言うの好きだよね」
絵夢「うん。次回のPSO二次小説のタイトルは『MEMORIES』と決定してるの」
恵理「いつ書くの?」
絵夢「別の話も書きたいのでしばらく間が空くと思う」
恵理「そっか」
絵夢「そんなわけでその時まで」
恵理「お楽しみに〜」