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『未来へのプロローグ』
第五話 「ごめん……」
セントラルドーム付近にあるほぼ円形の広場。
そこには20人ほどの軍人らしき男達が全身傷だらけで倒れて呻いていた。
その中で一人だけセイバーを携え、周囲の転がる軍人達を小馬鹿にしたような笑みを浮かべる女性ニューマンが立っていた。
「まったく弱いねぇ」
そよ風に長い黒髪をなびかせ黒い服着た彼女は、足下で呻く男をけりつけながら言う。
先ほどのラフォイエは彼女が放った物のようだ。
「くっ! これで済むと思うな!」
男は下から睨み付け叫ぶが、女から見れば負け犬の遠吠えでしかない。
「ほぉ、これで済まないと言うならどうだって言うんだい」
そう言うと男の腹部に数発ケリを入れる。
男は強烈な痛みから胃液をはき出した。
「ふん」
それを見て女は興味を無くしたようにセントラルドームの方へと歩き始める。
だが数歩進んだところで思い出したように足を止め、先ほどケリを入れた男の方を見た。
「隊長さん、あたしはこの先のドームにいる。
あんたの言うただで済まないようにしてくるような奴がきたらそこで待っていると伝えておいてくれるかい」
それだけ言うと女は踵を返し、笑いながらドームへを歩いていく。
隊長と呼ばれた男は憎らしげにその後ろ姿を見送るしかなかった。
セントラルドームを目指し駆け抜けていくナツキとソラ。
二人の表情には先ほど以上の緊張感をにじませていた。
「ナツキさん……あの二人、付いてきてますね」
ソラが走りながらナツキに聞こえる程度の声で話しかける。
「……」
「どうします?」
「……放っておこう」
「でも、それでは……」
「少し痛い目を見ないと分からないようだし……それに……」
「それに?」
「これは良い機会だと思うから……」
「それもそうですね」
ソラもナツキの考えに同調した。
先行するナツキとソラに見つからないようにカエデとエアは草陰や建築物の影に身を潜めながら後を追っていた。
「二人とも早いね」
「そうだね……私達も早くああいう風になれたらいいね」
「うんうん」
「あ、見失っちゃう。急いで急いで」
「うん」
なるべく離されないように移動し始める。
最初からばれていることも知らずに……。
今まで狭かった道が急に広くなる場所に出た。
その入り口付近でナツキは足を止めた。
「どうしたんですか?」
ソラが怪訝そうに尋ねる。
「ラフォイエの光が見えたのはたぶんあの扉の向こう側」
ナツキは100m程向こう側に見える扉を指さす。
「そのようですね」
「でもそこまで行くのに結構骨が折れそうな気がしない?」
ナツキの軽い口調にソラはその意味するところを理解する。
そして耳を澄まし、風に乗って流れてくる音を聞いた。
「そうですね……」
「ソラの予想ではどう?」
「大分待ち伏せているような気がします」
「だよね……帰ろっか」
「どうやってですか?」
「それはもちろん」
ナツキとソラは視線を交わすと声を揃えて……。
「「ここを突っ切って」」
その言葉を合図に二人はエネミー達が待ち伏せいしているエリアへと足を踏み入れた。
二人を最初に出迎えたのはウルフ系のエネミー達。
「とりあえず、ソラ!」
「ハイ! シフデバジェルザル!!」
ソラは両手を空にかざし、四種の補助テクニックを一気に唱えた。
それと同時にナツキと空はシフトとデバンドの、エネミーはジェルンとザルアの光に包まれた。
ナツキは光を確認すると同時に狙いをすませてショットで攻撃する。
「雑魚は雑魚らしくおとなしくしてればいいの!!」
そう言いながら正面のウルフを次々と倒していく。
ソラもナツキと背中合わせに立つと、背後に回り込んでいたウルフ達と対峙する。
「ソラ、背中は任せたよ」
「ええ、任せてください」
そう言うと、Wセイバーを抜き放つ。
「あんまり私達を手こずらせないでくださいね、ギバータ!!」
ソラは一歩前に出ると氷系テクニックを唱え、こちらの隙をうかがっていたウルフ達の動きを止めと、一気にWセイバーで切り込んでいった。
「ちゃ〜しゅ〜めん!!」
ソラはそう言いながらWセイバーで次々で切り倒していく。
「ソラ、そのかけ声何とかならないの?」
そのソラのかけ声にナツキは前方のウルフから視線を逸らすことなく声を掛ける。
「これが一番やりやすいんです」
「はぁ……そうですかっと! ったく、どうせやられるんだからちまちま動くな!!」
ショットは複数の敵を同時に攻撃できる特徴を持つが、その反面命中度が低く早く動く敵に対して当たりにくいと言う欠点がある。
そのため、無駄弾を出さないようタイミングを計って文句を言いながら撃ち続けていた。
草むらからその様子をじっと見つめるカエデとエア。
二人はナツキとソラが繰り広げる激しい戦いに言葉を失っていた。
「これが……」
「……ハンターズ……」
その時、彼女たちを取り囲むように土が微妙に動いた。
だがそんな周囲の微妙な変化に気づくことなくカエデとエアはジッとナツキ達の戦いを見ていた。
「ナツキさん、がんばってください!」
「ソラもがんばれよ〜!」
「こっちはあと一匹〜」
ソラが最後の一匹に斬りかかろうとした瞬間、氷が砕けた。
テクニックの効果が切れた瞬間だ。
「え!?」
予想よりも早く切れたことにソラは一瞬驚きの声を上げる。
自由になったウルフがソラに襲いかかる。
だがソラも咄嗟に身を低くして、地面を転がるようにその攻撃を避けた。
そしてウルフの背後に回り込むと、Wセイバーによる6連撃をたたき込んだ。
攻撃を受けたウルフはその場に崩れた。
ソラはしばし攻撃態勢のままジッと見ていたが、動かないのを確認すると一つ息を吐きナツキの方を見た。
彼女の方も一段落したらしく、サムアップをソラに送った。
ソラもナツキにサムアップを向けると、二人とも再び厳しい顔に戻る。
今度は地面の下から第二陣が現れた。
「いきなりジゴブーマか……」
「まるでゲームのラス面みたいですね」
「こっちはコンティニューは無いけどね」
「ちょっと不便かな?」
「行くよ!」
「ハイ!」
ソラは先ほどと同じように四種の補助テクニックを唱え、戦闘に備えた。
ゆっくりと近づいてくるジゴブーマの大群にナツキは先ほどのように狙いをすますことなく乱射モードで攻撃する。
ジゴブーマに限らずブーマ系はウルフ系のように素早く動くことなく、まっすぐ向かってくるのでこういう攻撃スタイルになる。
「こいつらの方が楽は楽だけど……」
「固いんですよね……ラバータ!」
ソラは氷系上級テクニックを唱える。
氷に弱いジゴブーマに対して氷系テクニックは動きを止めるだけでなく、大きなダメージ同時に与えることが出来る。
「サンキュ!」
ナツキは簡単に礼を言うと氷で動きが止まり弱ったジゴブーマを次々と倒していく。
そして数分後、自分たちの周囲の敵を一掃した、その時……。
「「きゃ〜〜〜〜!!!」」
ナツキ達の後方から女の子の悲鳴が聞こえてきた。
咄嗟にその悲鳴のする方を向くと、退路を岩に阻まれた状態で5体のジゴブーマに追いつめられたカエデとエアの姿があった。
カエデはマシンガンでエアはテクニックで対抗しているようだが、ほとんど効いていないようだ。
「ソラ!」
「うん!」
二人を助けるために動こうとした瞬間、カエデ達と反対方向に何か巨大な物が振ってくる音がした。
その音にナツキとソラが振り向くと……。
「……こんな時に……」
「そんな……」
二人の視線の先にはヒルデブルーの姿があった。
ヒルデブルーはカエデ達を追いかけ回していたヒルデベアよりもさらに凶暴な性質を持つ。
さらに攻撃と防御は比べ物にならない上に口から氷の固まりを吐く。
「ソラ……あいつは私は何とかするから、向こうをお願い」
「気を付けて下さいね。シフデバ」
ソラはナツキに補助テクニックを掛けると、カエデ達の方へ向かった。
ナツキはヒルデブルーから視線を逸らすことなく、右手のショットを地面に置き、左手にハンドガンを持ち構えた。
そして彼女の右目が金色に輝き始めた瞬間、ヒルデブルーが氷の固まりをナツキに向け吐き出した。
ナツキはそれを右に避けると、正確にヒルデブルーの左目を打ち抜く。
突然襲いかかる痛みにヒルデブルーは怒りを露わにし、自分を傷つけたナツキを殺そうとジャンプして一気に間合いを詰めた。
そして着地と共にナツキにその拳で殴りつける。
だが、ナツキもまた咄嗟に拳を避けると股の下から背後に回り、至近距離で両膝の後ろを打ち抜く。
前傾姿勢だったヒルデブルーは両足を打ち抜かれたことで前のめりに倒れた。
それでも何とか立ち上がろうとするヒルデブルーの両肘の内側を打ち抜き、さらに脇の下、足の裏、掌も打ち抜いた。
これによりヒルデブルーの動きは完全に封じ込めた。
激しい痛みに身体を揺らすヒルデブルーの姿にナツキは思わず目を背けた。
彼女もこういうやり方は好きではないのだが、今持つ武器では厚い筋肉に被われたヒルデブルーを倒すにはこういうやり方しか方法が無かった。
ナツキはハンドガンを収納すると右肩の装甲に収納しているセイバーを抜き、頭部へ近づいた。
「ごめん……」
そうつぶやくと一気に右目から頭部中央へとセイバーを突きつけた。
その時、ヒルデブルーの右腕がナツキに襲いかかってきた。
恐らく本能のなせる技であろう。
セイバーから手を離すと手の届かない場所へと下がる。
ヒルデブルーはしばらく身体を痙攣させると完全にその動きを止めた。
ナツキはしばらくその様子を眺めると軽く溜め息をつき、セイバーとショットを回収するとソラの元へと向かった。
ナツキがソラ達の元に着いたときには、Wセイバーを携えたソラが一人で5体のジゴブーマを倒していた
5体とも背中をバッサリと斬られているところを見ると、意識がこちらに向く前に倒したようだ。
それを見てナツキはソラらしい倒し方だなと思った。
「大丈夫みたいだね」
「もちろんですよ。このぐらい私一人で十分です」
そう言うわりに少し息が上がっているようだ。
ナツキはガッツポーズを取るソラに笑みを向けた。
だが次の瞬間、やや離れたところで座り込んでいる二人を厳しい表情で見る。
「カエデ、エア」
「「は、はい」」
ナツキの冷たい声に二人は動けなくなった。
そんな二人にソラも腕を組み冷たい視線を送る。
「私は戻れと言ったはず。それなのに何故付いてきた」
「そ、それはあの……」
「お手伝いできるかなって……」
「私達がいつそんなことを頼んだ?」
「「…………」」
「あなた達、遊び半分でハンターズがつとまると思ってるの。
今のあなた達が取った行動は仲間を危険にさらすかも知れない行動なの。
レベル20を越えてもなおそれすら分からないの!
そんな良い加減な気持ちならハンターズをやられるのははっきり言って迷惑だよ」
二人は唇を噛み締め俯いている。
エアはその目に涙を溜めているようだ。
アンドロイドであるカエデは涙を流すことが出来ないが恐らく同じ気持ちだろう。
「分かったら立ちなさい」
二人は言われるままに立ち上がった。
そして……。
”パーン、パーン”
ナツキは二人の頬を叩く。
それを見ていたソラはさすがにこれは痛そうだなと顔を背けた。
カエデとエアは赤く晴れた頬を触れることなくじっと俯いたまま、ナツキの次の言葉を待った。
すると二人はふわっと優しくナツキに抱きしめられた。
「「!?」」
驚きで言葉を失う二人。
そんな二人の耳元でナツキは優しくささやいた。
「死んだらそれまでなんだからね。だから私やソラを心配させないでほしいの。
あなた達は私達にとって大切な妹たちなんだから、ね」
その言葉に二人はナツキに抱き付き、謝りながら泣き出した。
ナツキの口元に笑みがこぼれ、その様子を見ていたソラもまた微笑んでいた。
<あとがき>
絵夢「今回からシリアス路線です」
恵理「戦闘中にもかかわらず軽いセリフを交わしてても」
絵夢「やってることは重いから」
恵理「なるほど……でも今回ラストのヒルデブルー戦はちょっと可哀想だったかな?」
絵夢「まぁね、書いててもこれはやりすぎたかなとは思ってる」
恵理「その心情が最後の『ごめん……』か……」
絵夢「うい」
恵理「ところでターゲットって最初にでてきたあれ?」
絵夢「あれ」
恵理「分からないよ」
絵夢「そりゃそうだ」
恵理「う〜〜〜」
絵夢「であそう言うわけで次回第六話を」
恵理「お楽しみに〜」
絵夢&恵理「まったね〜」