NOVEL



ファンタシースターオンライン
『MEMORIES』

第4話 『そうか……あの人に似てるんだ』−カナタ−


ソラ達と分かれたあたしは高いビルの屋上から街を眺めている。
傍らには愛用のソードを立てかけてある。

今まで一匹狼でやってきた私にとってああ言った馴れ合うのは好きじゃない。
むしろ嫌いだ。
たとえ姿も名前も変えても中身は何も変わらない。
今だってあたしはどうやったらナツキを倒せるかを考えている。
あたしのプライドを引き裂いたあいつを殺すことだけを……。

だけど、あいつを見ていると憎しみや殺意と言った感情が薄れていくような気がする。
気づくと剣を交えることが楽しく思えることがある。
そしてあいつの周りにいるソラ達の存在も大きいだろう。
彼女たちと一緒にいるだけで心が癒されていく……そんな感じがする。

いつの間にかそんな気持ちにさせられている自分にふと気づいたとき非常に苛つく。

”バンッ!”

転落防止用の柵を殴った。
そんなことでこの苛つきが消えることは絶対に無いことは重々承知している。
それでもやらずにはいられない。
何度か殴り柵が変形した頃、殴るのを止めた。
はっきり言って手が痛い。
「でもナツキって誰かに似てるんだよな……雰囲気というか言動というか……」
あたしはふとつぶやき誰に似ているのか思い出そうとした。
そして、「……そうか……あの人に似てるんだ」とふとつぶやいた。





今から16年前……。
あたしが生まれた国は長期に渡る内乱で酷い有様だった。
強い者が弱い者をいたぶり殺す。
運良く逃げることが出来ても飢えの苦しみが待つ。
そんな国だ。

両親は二日前の街一つを破壊する自爆テロに巻き込まれ死んだ。
あたしもその場にいて巻き込まれたけど両親が身を挺して守ってくれたお陰で助かった。
でもあたしももうすぐ死ぬ。
助かったとは言え下半身は瓦礫の中に埋もれ身動きが取れない。
この暗闇の中で死臭漂うここであたしは……。

”ガラッ”

「?」
音がする方を見る。
上の方が崩れ、一条の光が差し込む。
「誰かいる?」
その隙間からのぞき込む影と女の人の声が聞こえた。
「ここ……いる……」
あたしは何とか声を出そうするがかすれてほとんど声にならない。
何度か声を出そうしている内にその影は消えた。
その瞬間、今度こそ本当にあたしはもう死ぬんだと思った。
だけど……。

”ドッカーーン!!!”

派手な音と共に大きな穴が開く。
そしてその穴から銀色の長い髪を持った女の人が入ってきた。
その人は安全を確認しながらあたしの方へとやってきた。
「まだ生きてるね?」
あたしの頬に手を当て確認する。
「今助けてあげるから。だから絶対に動かないでね」
その言葉にこくんと頷くとその人はニコリ微笑んだ。
そして少し離れた場所に片膝を立てて座り、腰のセイバーの柄に手を添えた。
「はっ!」
気合の声と共にあたしの上に乗っていた瓦礫が吹き飛んだ。
「え!?」
驚きと共にその人を見ると右手にフォトンを放出しているセイバーを握っている。
「居合いって言ってね。実際それだけじゃないけど」
そう言いながら立ち上がるとセイバーのフォトンを消し再び腰に下げ、再びあたしの側に来た。
そして傷だらけの下半身に右手を掲げると「レスタ」と言った。
その途端、嘘のように傷が消えていった。
「テクニックを見るのは初めてみたいだね。まぁ簡単な怪我しか治せないけど、その場しのぎになるから」
そう言うとその人はあたしを両手で抱え上げると入ってきた穴から出る。
あたしは二日ぶりに生きて日の光を浴びることが出来た。
「あり……が……と……う……」
なんとか言葉を出す。
するとその人は笑顔で「うん」と答えた。
「あ……たし……レン……」
「レン?」
あたしは小さく頷く。
「レンちゃんね。私はカナタって言うのヨロシクね」

”ピーピー”

何かの音が鳴る。
するとカナタさんは私を下に下ろすと、左腕の機械を押した。
どうやら通信機みたい。
「どうしたの、リーン?」
『ただの定時連絡だけど、あるのは瓦礫ばかりではっきり言って手がかりも生存者も0だよ』
「そう……それじゃ今日の所は引き上げよう。それでエッセ達にも連絡して」
『了解』
通信を終えると、カナタさんは再び私の方を向くと視線を合わせるためにしゃがんだ。
「ねぇレンちゃん、私と一緒に来る?」
「……うん」
「ヨシッ」
カナタさんはそう言いながら立ち上がると、あたしの手を握ると乗ってきたと思うホバーバイクの所まで歩いた。
そしてあたしを自分の前に乗せると出発した。

ベースに戻ってきたとき、赤い服を着た人が近づいてきた。
「カナタ、その娘どうしたの?」
「向こうの瓦礫の中にいたんだ」
「え、この状態で生存者がいたの!?」
「実際、奇跡だと思うよ。それでリーン、この娘に食べ物と着替えをお願いしたいんだけど」
「いいよ。こっちにおいで……えっと……」
「……レン」
「それじゃレンちゃん、こっちにおいで」
「う、うん……」
あたしは何となくカナタさんの側を離れたくなかった。
「カイ、ハルカから連絡は?」
「あったことはあったんだけど……キレてたよ」
「………難航してるのね。分かったわ」
カナタさんは頭を抱える。
その時ふとあたしと目があった。
「どうしたの?」
「ううん」
あたしは激しく首を左右にふった。
「早く向こうに行って、ご飯と着替えをすませておいで、ね」
優しくそう言うカナタさんの言葉にあたしはうんと頷くと、側にいたリーンさんと一緒に奥へと向かった。

その後、あたしはカナタさんの預かりという形でこのベースで暮らすことになった。

そして1ヶ月後……。
ベースに長細い黒い袋に入れられた物が政府から届けられた。
カナタさん達は何か難しい顔をして話しているけど、あたしには何を話しているか意味が分からなかった。
「ハルカ、DNA検査では確かなの?」
「向こうが発行した物ではね。こっちで検査しようにも炭になった物からじゃできないわよ」
ハルカさんと呼ばれた白い服を着た女性は何かいらいらしているみたいだ。
それはハルカさんに限らず他の人達も同じみたい。
そんな中でカナタさんだけは冷静に見える。
「みんな、任務は完了。引き上げよう!」
『カナタ!?』
その場にいる全員が信じられないといった声を出す。
「だって、こいつがあいつだって証拠はどこにも……」
「証拠はこの鑑定書」
「だからその鑑定書が……」
「私達にそれを確かめる術は無いんだよ!」
その言葉に全員黙ってしまった。
「とにかく帰り支度をはじめよう。明日朝一で引き上げるよ」
カナタさんはそう言うとあたしの側に来て目線を合わせるために座る。
「レン、私達は明日ここから引き上げるけど、あなたはどうする?」
「私は……」
「もし良かったら私達と一緒に来る?」
「いい……の?」
「お姉ちゃんに任せなさい!」
カナタさんは自分の胸をトンと叩きウィンクした。
そして近くにいたハルカさんを呼びいくつか言葉を交わした後、ハルカさんは肩をすくめ溜め息をつきどこかへ行き、カナタさんはあたしに向かって再びウィンクした。

翌日、あたしは何の問題も無く出国し、カナタさん達の国に何の問題もなく入国出来た。
いくら小さかったあたしでもそんなことが出来るわけ無いことを知っていたので聞いてみると、あたし用にハンターズライセンスを発行していた。
カナタさんは真新しいあたしのライセンスを手渡しながら申し訳なさそうな顔をしている。
「勝手にやってごめんね」
「あたし……」
「ライセンスがあれば何処の国でも出入国が自由なの。それにマックスレベルのハンターズの紹介状があればライセンスは即日発行されるから」
「………」
「これから一人で生きていくことになるからきっと役に立つと思うの。だから……」
「………」
「やっぱり勝手にやって怒ってるよね」
あたしがいつまでも黙っているのを怒っていると思ってしまった。
「ちがうの……あの……ありがとう」
その言葉を聞いて、カナタさんは嬉しそうな顔をしてあたしをぎゅっと抱きしめた。

その後、カナタさんは自分が小さいときにお世話になったという教会に連れて行ってくれた。
そこでカナタさんも幼いときに両親に先立たれたことを知り、そしてこの教会で育ったことを教えてくれた。
そしてここが今日からあたしが生活する場所となった。
「レン、仕事の合間に遊びに来るからいい娘にしてるんだよ」
「うん」
「それは神父(マスター)、よろしくお願いします」
「はい、任せておいてください。それよりもカナタ、あなたもあまり危ないことはしないでくださいね」
「はい、分かってます」
そう言って、カナタさんは仕事へと戻っていった。

それからだいたい2週間に一度会いに来てくれた。
でも1年ぐらい経った頃から来なくなった。
1ヶ月ぐらいしてからその理由を神父さんが教えてくれた。
カナタさんが死んだことを……。





「あの時はショックでしばらく何も出来なかったんだよな」
柵にもたれつぶやく。
「でももし生きていたとしても会えないな……。姿も名前も変えて暗殺者になったんだから……むしろ斬られるかもね。カナタさんみたいなハンターになりたいと願って、この様だもんな」
思わず苦笑いする。
「お前が『山猫』だな」
あたしはその声に振り向いた。
そこには胸に3本の傷を持つ黒いヒューキャストの姿があった。
右手に巨大な鎌を持っている。
”いつの間に!?”
いくらナツキ達と一緒にいるようになってから平和な生活が続いているとは言え、こんな近くまで近寄るなんて信じられなかった。
それが例えアンドロイドと言えど気配はあるはず……だがこいつにはそれがない。
「もう一度問う。『山猫』だな」
「だったらどうだって言うんだい」
本能が『こいつはやばい奴だ』と警告する。
しかしこの距離で逃げることはまず無理だろう。
だから戦うしかない。
あたしは傍らの相棒を握ると構えた。
「ナツキ・スライダーに近しい者故、お前を消す」
「なっ!?」
ヒューキャストはあたしとの距離を一気に詰め、鎌を振るう。
あたしはすんでの所で身を屈め避けるが、そこに第2撃が襲う。
咄嗟にソードで防ぐが、はっきり言って体勢が悪すぎる。
「ナツキに用事があるなら直接あいつのところに行けば良いだろ!!」
「そう言うわけにもいかなくてな。彼女とサシでやるためにはどうしてもお前達が邪魔なのだよ。それに本気で怒らせるためにもな」
「こ……このぉぉぉ!」
あたしはさらに身を低くし足払いで相手にバランスを崩した。
その隙に右側に転がりその反動で立ち上がるとソードを構えた。
「ナツキがどうなろうともあたしには関係ないけど、そんなもんのためにやられるのはまっぴらごめんだよ!」
「なるほど、数多くの実戦をくぐり抜けただけはあるな」
ヒューキャストはゆっくり立ち上がるとこちらを見る。
「ハンターズレベルは低い物のその実力は高レベルに匹敵する。さすがは『山猫』だ」
「うるさい!!」
あたしはヒューキャストに斬りかかっていった。



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<あとがき>
絵夢「さて、前回から何ヶ月ぶりでしょう」
恵理「さぁ?」
絵夢「困ったもんだね」
恵理「マスターがここ夢の集中していたのが原因でしょ」
絵夢「それを言われると痛いね〜」
恵理「しかもキャラの性格を半分以上忘れてたりね」
絵夢「あう(涙)」

絵夢「まぁそれはさておき、今回はカナタの過去の話でした」
恵理「カナタがカナタの……ややこしいのでレンの命の恩人だったんだね」
絵夢「それゆえに今、カナタと名乗ってるんだけどね」
恵理「なるほど。でももしカナタが生きてたとしても会うことは出来ないよね」
絵夢「そのとおりだね」

絵夢「次回はゼロの話の予定です」
恵理「お、初の男性キャラ」
絵夢「うむ、そんなわけで次回も」
恵理「お楽しみに〜」
絵夢&恵理「まったね〜」