NOVEL



ファンタシースターオンライン
『MEMORIES』

第2話 『こうしていつでも会えるんだから』−ハルカ−


窓から差し込む朝の日差し(と言っても人工的なものだけど)に私は目を覚ました。
「おはよう」
ベッドからゆっくりと体を起こすと枕元に置いてある2枚のフォトに挨拶する。
一枚はナツキ・スライダーと一緒に撮ったもの。
そしてもう一枚はカナタ・トラッシュと一緒に撮ったもの。
その後、寝間着を脱ぐとシャワールームに入り熱めのお湯を全身に浴びて、寝起きで霞がかった頭をはっきりさせた。
いつものならこのまま急いで身支度をして出かける所なんだけど、今日は休みなのでゆっくりしている。

私はハルカ・フローラ。
かつて『氷の天使』と呼ばれていたけど、5年前に怪我で引退、その後はハンターズギルド情報管理室の室長なんてことをやっている。
そこはギルドの全ての情報を管理、運営している部署でもあるんだけど……いわゆる雑用かもしれないな……。

私はシャワールームから出て部屋着を着ると、簡単な朝食を取る。
壁に備え付けのテレビから流れるニュースは特に大きな事件は報道していない。
それ以前にあったとしても報道管制で流れることは無いだろうけど……。
小一時間ほどして、支度をし出かけることにした。
今日休みにした目的をするためと言うかこれって毎年のことなんだけどね。
そして出かける際、私は枕元のカナタとのフォトを忘れずに鞄にしまった。
それは私にとってとても大切なフォト。

パイオニア2内を移動するバスに乗り込むと、船内最後尾にある公園に向かう。
そこは宇宙が眺められるように全天が透明になっている展望台でもあった。

バスを降り園内に入ると、その光景に思わず溜め息が出てしまった。
「相変わらずカップルが多いわね」
園内各所に設置されているたくさんのベンチにはそれぞれカップルが一組ずつ陣取り座りいちゃついている。
「デートスポットだから仕方ないか」
軽く肩をすくめると、私はまっすぐに一番奥の宇宙がよく見える場所に向かう。
そして窓(?)の所に来ると端末を開き、方向を確かめるた。
「方角で良いみたいね」
この方角−そこには私達の故郷の星がある。
そこで鞄からフォトを取り出すとしばらく眺めることにした。

何故私がここでカナタの写真を眺めているかというと、それは今日がカナタの命日だから。



15年前……。
朝起きると、パートナーでありルームメイトでもあるカナタが装備を調えていた。
「カナタ、どうしたの?」
「今朝早くにギルドから直接私の所に依頼が来たんだ」
「私は?」
「私だけみたい。たしか重要人物の護衛だったかな? オーバー100に声が掛かってるからよっぽどの人物だよ」
「ふ〜ん……そうなんだ……」
「ハルカはまだ80を越えたところだからね、仕方ないよ」
少しすねる私にカナタは笑いかける。
「いつ頃帰ってこれるの?」
「ん〜来週の頭には戻ってこれるんじゃないかな?」
「来週ってカナタの誕生日だよ。それまでに戻ってこれるの?」
「大丈夫だと思うよ」
「だったらたくさん料理作って待ってるからね」
「よろしくね」
そう言うとカナタは軽くウィンクで微笑み、部屋から出ていった。

……そしてそれが私が見たカナタの最後の姿だった。

1週間が過ぎ、カナタの誕生日を迎えた。
私はこの日のために準備をしてきた料理やプレゼントを用意して帰りを待っていた。
だけど日は暮れてもカナタは帰ってこない。
カナタが護衛していたスライダーさんは戻ってきたと言うのに……。
「ギルドに寄って遅くなってるのかな? 料理さめちゃったよ……カナタの馬鹿……」
冷めた料理を眺めながら、カナタに文句を言う。
その時、入り口のチャイムが鳴った。
私はパッと立ち上がると玄関に向かいドアを開けた。
「カナ……タ……?」
そこにはフォマールが立っていた。
「えっと……確かサーティーさんですよね。以前カナタと一緒に冒険した……」
「はい」
彼女は何かを耐えているように見える。
「あの、どうかしたんですか?」
「……カナタさんから……これをあなたにと預かってきました……」
そう言うとサーティーさんはセイバーとWセイバーを差し出した。
「え?」
私は訳も分からずそれを受け取った。
そして確認すると間違いなく両方ともカナタの物だ。
「あの……カナタは?」
「カナタさんは……スライダーさんを守って……」
サーティーさんは身体を震わせ涙を堪えるように何とか言葉にする。
だけど私は彼女が何を言っているのか分からなかった。
「……ウソでしょ。だってカナタってマックスレベルなんだよ」
「ハルカさん……」
「私を脅かそうとして……その辺に隠れてるんでしょ? ほらカナタって時々子供っぽいことするのが好きだから……」
「……カナタさんは最後まで立派でした」
涙を流しながら言うサーティーさんの姿を見て、彼女が言っていることが事実だと分かった。
でも私はそれを理解したくなかった。絶対に信じたくなかった。
「ウソですよ……そんなの絶対に信じません……」
「ハルカさん……」
「カナタは……帰ってくるって約束してくれたんです。だから……だから……」
そして私は耐えきれなくなり、カナタの形見を抱きしめその場に泣き崩れた……。



「ハルカ」
そこでどれぐらいそうしていたのか分からないけど、背後から呼ぶ声に現実に戻された。
振り向くとそこにはレイキャシールの少女−ナツキが立っている。
少女とは言っても外見だけだけど……。
「やっぱりここにいたんだ」
「毎年の事だからね」
私の言葉にナツキはフフと微笑むと私の横に並ぶように立った。
「毎年、墓参りご苦労様です」
「別にそう言うつもりじゃないって……」
「じゃ何?」
「故郷に思いを馳せている、と言ったところかな?」
「カナタのフォトを眺めながら?」
「それはそうでしょ。『ナツキ・スライダー』にはこうしていつでも会えるんだから」
「なるほど、『カナタ・トラッシュ』と過ごした日々を思い出しているわけだ」
「そういうこと」
「……私って何?」
「ナツキでしょ」
「そりゃそうか」
「変なナツキ……って変なのはいつものことか……」
その瞬間、真横直近から殺気を感じた。
「……ハ〜ル〜カ〜」
「あはは、冗談だって」
「へぇ〜〜」
ナツキのジッとで私を見ている。
「あははは……」
「あははは……」
「………」
「………」
瞬間、身の危険を感じた私はその場から逃げ出した。
「あ、こら! ハルカ、逃げるなぁ!!」
「逃げるに決まってるじゃない!!」
それからしばらく私達は園内を走り回った。
カップルの皆さん、ごめんなさい。悪いのは全部ナツキなのよ〜。
そして30分ぐらい駆け回って息が切れた私は空いているベンチに座り込んだ。
「はぁはぁはぁはぁ……」
「……運動不足。それとも年には勝てないかな?」
ナツキの痛恨の一言。
「まだ私は四十路前!」
「十分だと思うよ」
「う……」
涙が出てくる……確かに現役時代じゃ考えられないけどさ(涙)
「それにデスクワークばかりなんだから仕方ないじゃない」
「だったら今度ソラ達一緒に運動してみる?」
「それも良いかも知れないね……」
私がそう言うとナツキは嬉しそうに顔を近づけてきた。
「いつする?」
「いつって……決定事項なの?」
「だって裏方にまわってから全然相手してくれないんだもん」
「あのねぇ……ま、いいわ。今度の暇な時にね」
「約束だよ」
「はいはい」
「うん!」
ナツキは元気良く返事をすると、すくっと立ち上がり宇宙の方を見る。
「マスター、私は元気です」
そして彼女は小さくそうつぶやいた。
「ナツキ……」
「たまにはね」
「ふふふ」
「はは……」
その時、私はふと気に掛かっていたことを思い出した。
「ナツキ、身体は大丈夫?」
「ん? 別に何ともないけど……」
「でももう蒼空無心流は撃てないでしょ」
「そういうことか……確かにこの15年間撃ってないな……」
「そろそろ総交換した方が良いんじゃない?」
「それは考えてはいるよ。でもマスターのくれた身体を捨てるのはちょっとね……」
「だからと言っていつまでもその身体ってわけにはいかないと思うよ」
「そうだね……」
ナツキは私から視線を外し再び外を見た。

彼女の身体のメインフレームはノーマルのメイド用ボディを強化しただけの物で、長期間に渡ってハンターズとしてやっていける身体ではない。
だから無理な動きをすれば確実にどこかが壊れ、その度にパーツ交換を行ってきていた。
数ヶ月前の山猫の時も関節系のパーツを交換したばかり……。
実際、そんな間に合わせとも取れるパーツ交換だけで済む状態で無いことは彼女自身も分かっているはず何だけけど……理由はさっき彼女が言ったとおりナツキのマスターであったスライダーさんから貰った身体を捨てたくないらしい。

「聞くけど、もし蒼空無心流を撃った場合どうなるの?」
「……たぶんだけど撃てるのは一回が限度、その後は活動不能に陥るかも」
「ナツキ……」
「そんな顔しないでよ。私だって重々分かってるから……それに普通の剣技だったら大丈夫だし……」
ナツキは明るくそう言うが、その言葉の裏に危機感と寂しさが見え隠れしているように思えた。
そして何とも言えない空気が私達を支配する。
その直後、ナツキがいきなり左でハンドガンを抜き、後方の木を撃った。
すると何かが爆発する音が響いた。
「!?」
私はナツキと爆発音がした方を見回す。
ナツキはハンドガンをしまうと無言のまま真剣な顔でそちらの方へ近づく。
そして木の根本に座ると何かを拾い上げた。
「ナツキ?」
私は恐る恐るナツキに近づき呼んだ。
「ビデオアイ……」
「え?」
聞き返す私にナツキは壊れたビデオカメラのような物を手渡した。
それは掌よりもやや大きいぐらいで羽根のような物を付けている。
形状からリモコン等で飛ばすことが出来る代物のようだ。
「誰かに監視されていた」
「え!?」
「ここに来るまでにずっと誰かに見られている気がしてたんだけど……まさかこんな物を使ってるなんて……」
ナツキは悔しそうに言う。
「そいつは博物館行きの旧世代の無線方式……だから私のセンサーに掛からなかったんだ。レンズの反射は無かったら気づかなかった」
「誰がこんなことを……」
「ハルカ、調べてもらえる?」
「もちろん」
私はそれをハンカチで包むと鞄にしまった。
「ナツキはどうするの?」
「私なりの方法で調べてみるよ」
そう言うと立ち上がり、別の木々の方を向く。
「ゼロ!」
ナツキがそう叫ぶと突然、彼女の前に黒いヒューキャストが姿を現し跪いた。
「ゼロ、姫の命によりただいま参上しました」
「え?え?え?え?」
混乱する私を横目にナツキはそのゼロというヒューキャストに指示を与える。
「話は聞いてたよね。私を付け狙う奴を探しだして」
「ハッ! 分かりました。では早速」
そう言い残すとゼロは姿を消した。
「ちょ、ちょっとナツキ?」
「ん?」
「今の何?」
「ゼロのこと?
カナタとの戦いで壊れたパーツを交換した後に慣らしがてら一人で下に行った時に死にかかってた彼を助けたの。それ以来、私の身辺警護をするって言ってあの通りなんだよね」
ナツキは少し困ったような顔をして言う。
「で、『姫』って言うのは?」
「ゼロって忍者らしいの。それで『忍者は主君を守るために存在する』って言って……」
「それでナツキが主君ってわけね」
「うん。最初『女王様』なんて言ってたんだよ。だからそれは止めてって頼んだら『姫』になったの……
語尾が小さくなっていく。
どうやら自分で言っていて恥ずかしくなったみたい。
「女王様ねぇ……」
思わず頬が緩む。
「何よ」
「べっつに〜」
「……ま、いいわ」
ナツキは諦めの溜め息をつくと気を取り直して私を見る。
「そう言うわけで、『それ』の出所をお願いね。私も自分で調べられるところまでやるから」
「さっきゼロ君に頼んでなかった?」
「私が自分で動かないと気が済まない性格だってこと忘れた?」
「ちゃんと覚えてるよ」
「ならそういうこと」
「オッケ」
そう言うと、ナツキは笑みを零し背を向けて公園の出口に向かって歩き始める。
その後ろ姿を見送った私はこれから起ころうとしている出来事に不安を感じた始めていた。



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<あとがき>
絵夢「初めに、今回キャラの出演を許可してくれたNo.13さん、FATEさんありがとうございました。両方とも良いキャラになってます(笑)」
恵理「実際は違うもんね。冒険中なんか……」
絵夢「それ以上は禁句ね」
恵理「そうなの?」
絵夢「そうなの」
恵理「ふ〜ん……」
絵夢「………」

恵理「カナタとハルカの話を少しだけあったけど、最後は見届けることは出来なかったんだね」
絵夢「悲しい思いでなんだよね〜」
恵理「でも15年も経つと普通に語れるようになるんだ」
絵夢「いつまでも後ろは向いてられないから」
恵理「なるほどね」

絵夢「さて次回から物語が動き始めます」
恵理「どうなってくんだろう、わくわく」
絵夢「そう言うわけで次回まで」
恵理「おたのしみに〜」
絵夢&恵理「まったね〜」