NOVEL



ここは夢園荘AfterStory
Fragment Age

第十五話 <インターバル IV>


次第に暗くなり、駅のホームに照明が付いたころ、高校生ぐらいの青年が駅から出てきた。
青年は白の半袖シャツにジーンズでやや大きめの鞄を持っている。
彼はまっすぐ商店街の方に行こうと一歩足を出した時は何かに気づいたように歩みを止めた。
「へぇ……ずいぶんと懐かしい風が吹いてるな」
彼はそうつぶやき微笑むと再び歩き始めた。
まっすぐノルンへと向かって……。

”カランカラン”
ノルンの入り口のカウベルが鳴る。
それと共に先ほどの青年は中に入りながら客を見る。
扉に閉店の札が掛かっているにもかかわらず、カウンター席に女性客が二人とマスターとウェイトレスがその相手をしていた。
青年はその内の一人の名前を呼んだ。
「やっぱり亜沙美か」
「あ〜夏樹ぃ、久しぶり〜」
呼ばれた亜沙美は振り向き今にも飛びつきそうな勢いで立ち上がる。
しかしそれよりも早く、恵理が夏樹の空いている腕にしがみつく。
「おかえりなさ〜い」
「ただいま、恵理」
「うん!」
放っておくと今にもキスしそうな二人である。
「お〜い、そんなところでいちゃつくなよ」
カウンターから高志が笑いながら言う。
いつもの光景なのでもう馴れているようだ。
「してないしてない」
夏樹も笑いながら恵理と共にカウンター席に座る。
「でもよく私が帰ってきてるって分かったね」
隣の亜沙美がそう言う。
「ん〜勘かな?」
「どういう勘なんだか」
「では企業秘密」
「全く相変わらずなんだから」
答えをはぐらかす夏樹に亜沙美は苦笑する。
「ところで……それっていつものことなの?」
「?」
亜沙美が示す方向……反対側で恵理が夏樹の腕をしっかりと抱きしめている。
「いつもと言えばいつもかな?」
「そうだな」
「そうねぇ」
夏樹の答えに高志と卯月も同意する。
「そ、そうなの(汗)」
亜沙美は何と答えて良いか分からず乾いた笑いで返した。
「「お父さ〜ん、おかえり〜」」
二つの元気な声が店内に響く。
「楓、冬佳、ただいま」
二人は嬉しそうに笑うと夏樹の側に寄ってきた。
そして冬佳は恵理がしがみついている方に寄り邪魔するように(と言うよりも引き離そうとしている)夏樹の膝の上に乗ろうとする。
しかし恵理も絶対にその腕を離さないように頑張る。
「冬佳、駄目」
「お母さんばっかりずるい」
「私は良いの。夏樹さんの妻なんだから」
「だったら私はお父さんの娘だもん」
「「う〜〜〜〜〜」」
次第にエスカレートしていく二人。
いつの間にか恵理は夏樹から手を離すと、後ろの方で冬佳と言い争い始める。
「……ホントなのね」
「だろ」
高志から聞いていたこととは言え、半信半疑だった亜沙美だったが直に見て納得した。
「夏樹も大変だね」
「ま、いつものことだし、馴れたよ」
「はぁ……」
何と反応して良いのか分からない亜沙美。
後ろで言い争っている二人を横目に楓が夏樹の膝の上に座る。
「おじちゃん、おれんじじゅーす」
そして高志に自分が飲みたいものを注文していた。
「二人とも、今日も楓の勝ちだぞ」
「「え!?」」
夏樹の言葉に振り向く二人。
楓は出されたジュースを美味しそうに飲んでいる。
「「ずるい〜〜〜」」
そして一緒に悔しがる二人。
その様子をドアの所で靴を履きながら和沙は呆れながら、夏美はよく分からないと言った表情で見ていた。
「夏美ちゃん、きにしちゃだめだからね」
「……うん?」
和沙の言葉に曖昧な返事をすると「ママぁ」と亜沙美に駆け寄り、楓と同じように彼女の膝の上に座る。
「亜沙美の子供か?」
「うん、そうだよ。夏美って言うの」
「なつみ、にしゃい」
小さな指を3本立てて言う夏美に夏樹は頭を撫でながら「よろしくね」と言った。

「「いいなぁ……」」
その様子をテーブル席から羨ましそうに眺める二人−恵理と冬佳。
「あなた達はいつもやってもらってるでしょ」
卯月が二人の為に用意したジュースをテーブルに置きながら言う。
「「う〜〜〜でもでも」」
「まったく……」
全く同レベルの二人にただただ呆れるばかりの卯月だった。

「ところで旦那は?」
「向こうでの残務処理がまだ終わらなくてね。それで私達だけ先にこっちに来たの。引っ越しはもう済んでるから身軽だったよ」
亜沙美は鞄を店ながら言う。
「で、何処なんだ?」
「夢園荘の最寄りのバス停の一つ手前ぐらいに2階建ての新しい建物があるでしょ。そこうちの会社の社宅なの」
「ああ、あれそうなんだ」
夏樹は以前、散歩がてら見かけたことのある建築途中のアパートを思い出した。
「歩いて遊びに来れる距離だな」
「そうなんだ。この娘の遊び相手も出来たしね」
亜沙美は楓、冬佳、和沙の顔を見ながら言う。
「そうだな……あれ?」
夏樹はそこで何かを思いだした。
「夏美ちゃんって2歳なんだよね」
「そうだよ。それがどうかした?」
「いや、確か美亜と里亜の所も2歳だったような気がしてさ。そうだよな恵理……ってなにしてるの?」
確認するために恵理の方を向くと、そこではジュースにストローで息を吹き込みぶくぶくと泡を立てていた。
しかも冬佳と一緒になって……。
「夏樹さんが亜沙美さんの相手ばかりしてるからいじけてるの」
そばに座る卯月がフォロー(?)する。
「あ……そう……」
夏樹は今夜ちゃんとフォローしないとなと思っていた。
「ちょっと夏樹、美亜と里亜の子供ってどういう事!?」
さっき夏樹が言った言葉に亜沙美が驚く。
「あれ、もしかして知らなかったとか?」
首を強く上下に振り肯定する。
「美亜達と連絡取ってなかったのか……従妹だからてっきり知ってる物だと思ってた」
「従妹だからってこの街を離れてから全然だよ」
「……そうだったのか」
「それで、どういうこと? 結婚したなんて話しも聞いてないよ!」
押され気味の夏樹を助けるために今まで黙っていた高志が口を開く。
「結婚はしてないみたいだよ」
「え?」
高志の言葉に亜沙美は動きを止めた。
そして夏樹は高志の言葉の後を継いで言う。
「何でも里亜の初恋の子と一緒に3人で暮らしてるらしい」
「それで……もしかして……」
「ま、そう言うこと。この国は重婚を認めてないから端から見たら同棲。しかも二人同時にその子の子供を産んでいるとそう言うわけだ」
夏樹の説明に亜沙美は言葉を失う。
「最初聞いた時は俺達も驚いたけど、去年だか一昨年に3人……子供も入れて5人で遊びに来た時に幸せそうだったから、これもありかなと思ったよ」
膝の上の楓に「な」と言う。
楓はきょとんとしながらも「うん」と頷く。
……たぶん分かってないが。
「タカや澪も知ってるの?」
「俺や澪は夏樹から聞いただけだから、実際は見てないよ」
「そうなんだ……」
亜沙美はまだショックが抜けきっていないようだ。
「あの娘達の両親は何て言ってるの?」
「さぁ……本人達の話を聞いてる限り孫が出来て喜んでいるみたいなことを言っていたけど」
その言葉に亜沙美は乾いた笑みを浮かべる。
「……あの娘達の両親ならあり得るわ……ふふふふふ………」
そんな亜沙美の様子に夏樹と高志は互いを見て肩をすくめる。

「ところでみんな、夕飯どうするの?」
いじける二人の相手を和沙としていた卯月がふと思い出したように言う。
時間はもうすぐ8時になる。
異口同音に「忘れてた」「もうそんな時間か」と言う。
しかもその中に楓、冬佳、和沙の3人も含まれている。
こういう大人達の中で育ったので馴れてしまったのだろう。
唯一、亜沙美の膝の上の夏美だけは少し眠たそうである。
「今から帰って作るんじゃ遅くなっちゃうね」
恵理が困ったような表情をする。
その言葉に夏樹や亜沙美も同意する。
そこへ高志が名案を口にした。
「だったらここで食べていけば良いと思うが。材料だって夕方大量に買ってきたみたいだし」
「あ、なるほど。でもそれじゃ迷惑に……」
「大丈夫だよ、恵理。にぎやかな方が楽しいしね。亜沙美さんもそれで良いですよね」
「そちらさえよければ。帰ってもこの娘と二人だけだし」
「では決定と言うことで、恵理、亜沙美さん、用意手伝って」
「うん」
「了解」
女性陣はすぐに奥の扉から住居の方へと上がっていった。
それについていく子供達。
そして後に残された男性陣は……。
「行動が早いと言うことは良いことだな」
「そうだな……夏樹、閉店の手伝いしてもらえるか」
「良いよ」
夏樹と高志は夕飯が出来るまでの時間、閉店のための後かたづけをしていた。



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<あとがき>
絵夢「あ〜まだ頭が痛い」
恵理「マスター大丈夫?」
絵夢「まぁ何とかね。ったく『資格を有する者』の分際で創造者に手を出すとは良い度胸だな……(ぶつぶつ」
恵理「あははは(^^;」
絵夢「仕方ないから今回は出してやったけど、またしばらくは出番無し」
恵理「そんなこと言うとまた来ますよ」
絵夢「返り討ちにする」
恵理「(^^;;;」

恵理「今回は前回の続きで良いの?」
絵夢「正確には13〜15話まで同じ日。13話が昼前後。14話が夕方前。15話が夜という感じ」
恵理「なるほど……13話はともかく14と15って一つにまとめても良かったんじゃないの?」
絵夢「夏樹が襲撃してこなければこの話は無かったんだが……」
恵理「…………納得」

絵夢「というわけでまた次回まで」
恵理「お楽しみに」
絵夢&恵理「まったね〜」